アメリカンフットボールの関東大学一部TOP8は、2025年9月21日に第3節があった。ここまで全勝同士の早稲田大学ビッグベアーズと東京大学ウオリアーズの試合は早稲田が35-23で勝ち、3戦全勝とした。早稲田はRB安藤慶太郎(4年=早大学院)がランとパスで161ydを稼ぐ活躍を見せ、QB船橋怜(4年=早大学院)を中心とした多彩な攻撃陣が東大を上回った。守備は前半に東大に攻め込まれたが、後半にアジャスト。東大の強力攻撃を徹底して抑え込み、TOP8唯一の全勝を守った。【写真/文:北川直樹】
早稲田大学ビッグベアーズ○35-23●東京大学ウオリアーズ(2025年9月21日@アミノバイタルフィールド)“荒木スペシャル”前半残り2秒で炸裂
QB船橋怜はパス11/14、204yd、1TDの安定したパフォーマンスを披露=撮影:北川直樹
両チームの攻撃的な姿勢が表れた序盤戦となった。早稲田は東大のキックオフで試合開始後、多彩なフォーメーションで攻撃を展開。第1Q2分、ワイルドキャットフォーメーションからWR中原秀城(4年=南山)がキーププレーを選択し、33ydを一気に駆け抜けてTD。K小林賢多(4年=八千代松蔭)のPATも成功し、7-0と先制した。
東大はQB田中昴(3年=灘)を軸としたフレックスボーン攻撃で応戦。オプションプレーで着実にダウンを更新し、第1Q11分にK船本寛太朗(4年=栄光学園)が33ydFGを沈めて7-3と追い上げた。
第2Qは両チームが攻撃力を発揮する展開となった。早稲田は1分、QB船橋からWR吉規颯真(4年=早大学院)への5ydパスでTDを追加し、14-3とリードを広げた。
東大も食らいつく。米田健人(4年=西大和学園)が左サイドを駆け上がる12ydTDランで14-10と差を縮めると、8分には印象的なプレーが生まれた。QB田中昴(3年=灘)から主将のTE太田明宏(4年=大阪星光学院)へのピッチが4ydTDとなり、17-14と逆転に成功した。
前半終了間際の攻防が試合のハイライトとなった。11分、早稲田はRB安藤の5ydTDランで21-17と再逆転。さらに前半残り2秒で、QB船橋のパスをWR中原がレシーブ後、WR吉規へのラテラルパス。吉規はそのまま46ydを駆け抜けTDを決めた。
このプレーは、2016年1月のライスボウルを彷彿とさせるものだった。パナソニック対立命館大の第4Q残り1分31秒、15-19でリードされた場面。4thダウンロングのギャンブルで、当時パナソニックの監督・オフェンスコーディネーターだった荒木HCが仕掛けたスペシャルプレーだ。
QB高田鉄男からWR本多皓二へパスが渡り、本多は後方に走り込んできたWR小山泰史にボールを渡した。小山は独走し、逆転のTD。パナソニックの日本一を決めた、“荒木スペシャル”だった。
10年近く経った今も、荒木HCの頭の中には、あの時のプレーデザインが鮮明に残っているのだろう。早稲田は28-17で前半を折り返した。
WR中原はこの日2TDを記録し、チーム勝利の立役者となった=撮影:北川直樹膠着した第3Q、早稲田守備が東大攻撃を封じ込む 第3Qは両チーム無得点の膠着状態が続いた。東大はオプション攻撃を継続したが、早稲田守備陣の素早い判断とタックルに阻まれ、効果的なゲインを奪えなかった。早稲田はLB伊藤寛太郎(4年=成蹊)らが中心となった守備が、東大のフレックスボーン攻撃にしっかりアジャストした。
早稲田守備の潰しの速さが際立ち、東大オフェンスは前半ほど効果的なゲインを重ねられなくなった。早稲田も10分に43ydFGを試みたが、向かい風に阻まれ失敗。28-17のまま最終クォーターに突入した。
第4Q開始早々試合が動いた。東大のパントが早稲田の選手に当たり、東大がリカバー。敵陣5ydからの絶好のチャンスを得た東大は、QB田中のキーパープレーで1ydTD。2ポイントコンバージョンは失敗したが、28-23と5点差まで迫った。
しかし早稲田は応戦。6分、再びRB安藤が1ydTDランを決め、35-23と12点差に広げた。安藤は最後まで力強い走りを見せた。
終盤、東大は反撃を試みた。しかし3rdダウンでファンブルが発生。原康介(4年=早大学院)がリカバーし、試合の流れを完全に決定づけた。このプレーで試合は事実上決着した。
早稲田守備の中心でボールも奪ったLB原=撮影:北川直樹 早稲田は残り時間を消費。安藤はランでのビッグゲイン時にも時間を使う判断を見せ、試合運びの面でも大きく貢献した。最後はビクトリーフォーメーションで時間を流し、35-23で勝利を手にした。
早稲田攻撃陣の多彩な完成度が光る
攻撃の軸となったRB安藤=撮影:北川直樹 RB安藤が15キャリー120yd、2TDを記録。序盤から終盤まで一貫して力強い走りでチームを牽引し、大きく貢献した。
QB船橋怜もパス11/14、204yd、1TDと安定したパフォーマンスを披露。WR陣への的確なデリバリーで攻撃にリズムを作った。WR中原とWR吉規、WR松野雄太朗(4年、早大学院)らとのコンビネーションが効果的だった。
特に吉規はパスレシーブでTD、ラテラルからのTDと多彩な場面で存在感を示し、キックオフリターンでもビッグプレーを見せるなど、活躍が光った。
一方の東大は、QB田中を中心としたフレックスボーン攻撃で対抗した。要所で投げたパスで52yd獲得と、限られたチャンスをつなげた。RB米田(10回run 68yd 1TD)、TE太田明宏(3回rcv 38yd、6回run 16yd1TD)らの活躍で、システムの完成度を示した。
また、東大は前半から多くのスペシャルプレーを投入。リバースやダブルパスなど、事前に相当な準備を重ねたであろうトリックプレーを数多く披露し、早稲田守備を翻弄した。
早稲田は今季3勝目を挙げ、上位進出に向けて弾みをつけた。多彩な攻撃オプションと経験豊富な4年生陣が強みとなっている。荒木延祥ヘッドコーチは試合後、選手たちに日頃からの準備の重要性を伝えており、今後のさらなる成長が期待される。
東大は惜敗したものの、早稲田を相手にしてもフレックスボーン攻撃で十分に戦えることを証明した。ボール支配時間30分50秒は早稲田を大きく上回っており、攻撃システムの完成度は高い。成功率が5割を切ったパス攻撃の改善(4/9)とレッドゾーンでの決定力向上が今後の鍵となる。
「森さんと対戦するのはめちゃめちゃ嫌」 ーー早大・荒木延祥HCの言葉
戦況を見つめる早稲田大学の荒木延祥HC(中央)。ハドルでの選手への指摘内容からは、以前よりも納得感が増してる様子が察された=撮影:北川直樹まだまだ課題が多いと感じています。ご覧の通り、今日はキッキングで2回相手にボールを渡してしまいました。これが今のチームのレベルを全て物語っていると思います。普通は起こらないようなミスが起こってしまう。Xリーグではなかなか起こらないようなミスが起こるので、本当にフットボールのIQも含めて低いんです。
そういう当たり前のことができていないということに、またこうやって気づくので、それを一つ一つ解決していこうと思います。
(東大のヘッドコーチ)森(清之)さんと大学の指導者同士で対戦するのは初めてでしたが、めちゃめちゃ嫌ですね。(Xリーグ時代の)昔から嫌です。
試合全体の評価としては、前半の終了間際でタイムアウトを取って、2秒残してパントを蹴られたんですけど、ゴールまで40ydほどだったので、スペシャルプレーを用意してやりました。あの辺りで得点を取り切れたというのが一つ大きかったと思います。
本当は前半流れが悪かったところで、7点取って終われたというのは大きかったかなと思うのと、後半はディフェンスがある程度アジャストして止め始めたというのも一つの収穫かなと思います。
(東大の)フレックスボーンの対策については、めちゃめちゃ難しいですね。チームでのスカウティング練習だと、スピード感が出せないんですよね。ライン同士のマッチアップも含めて、それがすごく難しいですし、結局目が慣れないんですよね。試合では後半に向けてだんだん慣れてくるんですけど、本当にしんどいです。
今日はロンリーセンターもやりました。Xリーグだと、ベースプレーで少しアラインを変えるだけで同じようなプレーでも色々なバリエーションを作れるんですけど、学生は多分ああいうプレーの方が守りにくいんでしょうね、という印象を受けています。
吉規はよくやってくれました、彼はエースですね。WRでは春から中原がすごく活躍していて、彼は拗ねていたんです。それで機会を増やしました。たまたまなんですけど、他の選手にボールが回らなかったということもありました。
次の明治大学さんは、ゴリゴリにフロントで押してきて、多分ランランランで来ると思うんです。なかなか止め切れないと思います。また今日みたいな厳しい試合になると思うんですけど、なんとか対応できるぐらいの準備をしたいと思います。
早稲田ディフェンスは後半にしっかりとアジャスト。東大オフェンスに自由にプレーさせなかった=撮影:北川直樹チーム成績ファーストダウン:早稲田大学16(ラン9-パス7-反則0)、東京大学16(ラン10-パス4-反則2)
総獲得yd:早稲田大学410、東京大学218
ラン獲得yd:早稲田大学206(24回)、東京大学166(46回)
パス獲得yd:早稲田大学204、東京大学52
パス成功率:早稲田大学11/14/0、東京大学4/9/0
3rdダウン成功率:早稲田大学2/6(33%)、東京大学4/11(36%)
ターンオーバー:早稲田大学2、東京大学1
反則:早稲田大学5回45yd、東京大学1回0yd
ボール支配時間:早稲田大学17分10秒、東京大学30分50秒
個人成績(主な選手)
【早稲田大学】
QB船橋怜:14回投 11回成功、204yd 1TD
RB安藤慶太郎:15回run 120yd 2TD、1回rcv 41yd
WR中原秀城:3回rcv 71yd 1TD、1回run 33yd 1TD
WR吉規颯真:2回rcv 12yd 1TD、1回run 48yd
【東京大学】
QB田中昴:7回投 3回成功 34yd、17回run 60yd 1TD
RB米田健人:10回run 68yd 1TD
TE太田明宏:3回rcv 38yd、6回run 16yd 1TD
東大フレックスボーンの核として活躍したQB田中=撮影:北川直樹
東大主将のTE太田は常にチームの勝負どころで期待通りの結果を出す=撮影:北川直樹