大の里(寄り倒し)伯桜鵬「右が差せずとも心配ご無用」とでも言いたげな圧勝だった。
横綱の大の里だ。この日は、先々場所、先場所と敗れ、2場所続けて金星を配給していた伯桜鵬との対戦。先々場所は上体を起こされ、思わず引いたところをついてこられて押し出され、先場所は左を差して、しっかりつかまえないまま腰高で出たところを右から突き落とされて敗れているだけに、やはり何とも嫌な相手だ。
立ち合いは一度呼吸が合わずに「待った」。やはり双方、少し緊張感を漂わせた中、二度目で立った。
立ち合い、むしろ良かったのは伯桜鵬だ。きのうに続いて低い立ち合い。差しにきた大の里の右を下からはね上げ、再度差しにくるのも左からおっつけて許さず。その流れで左に回って突き落とすようにイナして攻める。
ただしかし、今場所の大の里は落ち着いていた。右差しにこだわりすぎることなく、機をとらえてガバッと右から抱え、左をのぞかせ左四つに。そして右上手を取って引きつけた。左四つは組み手としては伯桜鵬得意の組み手だが、食い下がられたり、先場所のように間に距離がある形ではなく、密着して胸を合わせるような形であれば、大の里の体の大きさが生きてくる。
さらに横綱がうまかったのはその後の動きだ。伯桜鵬が下手投げに来るところ、右ヒザを相手の左足に寄せて回り込むことを許さず。そのまま寄り倒した。
「横綱を押し込むことができなかった。先場所と同じような形になったが、横綱は構えてきた。横綱を土俵際まで押し込めるだけの力をつけないといけない」と、さすがの伯桜鵬も、取組後は力の差を実感したようなコメントだった。
とはいえ、この2日間の伯桜鵬は、鋭い立ち合いから横綱に対して先手を取ることに成功しているのは事実。力の伸びは十分感じられるだけに、あすの安青錦戦も楽しみだ。
一方の大の里。これまでは立ち合いで右差しが成功しないと、ともすれば引き技に走ってしまう悪癖が指摘されていたが、このところ、この日のように、「右が差せずとも、右上手がつかめる形になればOK」という相撲も、よく見せるようになった。この日の右足の寄せなどを見ていると、右上手を取った形での相撲もどんどん自分のものにしていっている感もあり、また難攻不落への道を一つ拓きつつあると言ってもいいかもしれない。
きのう、「大の里を誰が止めるか、という場所になっていくかどうかは、とりあえず2日目が済んでから」と書いたが、この日の相撲を見ると、まさにそうなっていきそうな感じは、より高まってきた。
この日は安青錦が若元春得意の左四つになりながらも頭を上げずに寄り倒して連勝、豊昇龍はきのうとは打って変わって、隆の勝に圧力勝ちするぐらいの力強い立ち合いを見せて勝ったので、まだまだ対抗馬が食いついていく可能性は十分あるが、やはり「序盤が大事なので、そこをうまく乗り切れれば」と常々言っている大の里を、誰かが食えるかどうかが、とりあえず場所最大の焦点、という形にはなっていくだろう。
すでに今年の年間最多勝も確定させ、堂々と「年4場所制覇」と目標を掲げる大の里。遠藤の引退会見があったきのうは、「石川県を盛り上げていけるように、いい結果を届けられるように頑張りたい」と、郷土の先輩に敬意を表しつつ、決意を語っていたが、その力強さはもはや、これからの角界全体を引っ張っていくにふさわしいものになりつつある。
文=藤本泰祐