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2025-12-12

【連載 大相撲が大好きになる 話の玉手箱】第34 回「想定外談話」その1

平成19年春場所8日目、時間前に立った北桜(右)。琉鵬も受けて立ったが、やや立ち遅れたか

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思い出の多かった古い年が行き、新しい年がやって来ようとしていますね。
あなたにとって過ぎにし年はどんな年でしたか。
なんですって? 良くもなし、悪くもなしだったって。
つまり、想定内だった、ということですね。
それは、それでまた、よろしいんじゃないでしょうか。
想定外だった、ということになればひと騒動ですから。
力士たちが取組後に漏らすひと言もそうですよ。
想定内だったら、「まあ、そうだろうな」で済みますが、
想定外だったら、虚を突かれた感じで目をシロクロしたり、
ずっこけたり、ニヤリとしたり、聞く方も大忙しです。
そんな想定外のおもしろ談話を紹介しましょう。
年の最後の、福笑いです。

いつでも立つ

現役時代、大量の塩まきで人気のあった北桜という、北の湖部屋の力士を覚えているだろうか。最高位が西前頭9枚目。現在の式秀親方だ。
 
この北桜はまた、熱い男としても有名だった。遅咲きだったが、気は若く、年齢を聞くと、

「10年(とうねん)取って26です」
 
などと澄まして答え、気さえ合えば制限時間に関係なく、いつでも立った。平成19(2007)年初場所から春、夏場所と3場所連続して琉鵬(陸奥)を相手に時間前に立ったばかりか、そのすべてに勝ったことがある。つまり、3連勝したのだ。
 
相手の琉鵬は、対戦後、きっとこう言って猛反省したに違いない。

「オレって、なんて馬鹿なんだ。まんまと向こうのペースに乗っちゃって」
 
いや、これも御仏のお導きだ、と平然としていたかもしれない。この琉鵬、変わり種で、引退後、僧侶になっているから。
 
いずれにしろ、それでも北桜の誘いに応じて時間前に立ち続けたところに琉鵬の男気のようなものを感じるが、この2連勝した直後、北桜にこのことを尋ねると熱っぽい口調でこう答えた。

「ヤツも武士だな」
 
そう言えば、最近、時間前に立つ力士は見なくなった。

月刊『相撲』令和4年1月号掲載

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