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2026-03-06

【連載 大相撲が大好きになる 話の玉手箱】第36回「信念」その2

平成29年5月13日の優勝掲額贈呈式で、稀勢の里は2つの額の前に立ち、堂々の晴れ姿

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人間って弱いものです。
でも、そんな人間を強くするものがあります。信念です。
前を向き、自分を信じて突き進む、その思いです。
力士たちは、それぞれが信念を抱いて土俵に上がり、闘っています。
だから、心打たれるんですね。
そんな信念をかいま見せるエピソードです。
※月刊『相撲』平成31年4月号から連載中の「大相撲が大好きになる 話の玉手箱」を一部編集。毎週金曜日に公開します。

前を向いていたい

今度は先々代鳴戸(元横綱隆の里)が育てた横綱稀勢の里(現二所ノ関親方)の話をしましょう。賜盃にあと一歩の準優勝に留まること、実に12回。なかなか優勝できず、長らく足踏みを続けた稀勢の里が待望の優勝をしたのは平成29(2017)年初場所のことだった。この直後に横綱に昇進。その次の春場所にもまたまた優勝している。あんなに遠かった賜盃を立て続けに抱いたのだ。
 
優勝すると、毎日新聞社から国技館の天井に掲額する優勝額を送呈される。縦約3・2メートル、横約2・3メートル、畳5枚分もある大きなものだ。除幕式は、前々場所と前場所の2回分を、両国国技館で開催される直後の場所の初日に行われる。優勝額のポーズもさまざま。史上最多の45回も優勝している白鵬などは、仕切っていたり、四股を踏んでいたり、実に多彩だ。
 
稀勢の里の除幕式は平成29年夏場所初日に2回分をいっぺんに行われた。区切りがよかったのだ。この優勝額を作成するとき、稀勢の里は一つだけ、注文をつけた。

「前を向いていたい」
 
稀勢の里は師匠の先々代鳴戸の厳しい指導で、決して姑息な変化などはせず、常に真っ向から攻める正攻法を身上とした。一つの信念だったと言っていい。これを優勝額にも貫いたのだ。
 
このため、1枚目の優勝額は、左足をやや後ろに引くものの、上半身はしっかり正面を向き、2枚目は左手に太刀を持ち、仁王立ちしたポーズになっている。注文通り、前を向いているのだ。両国国技館にお出での折はぜひご確認ください。
 
除幕式前日の5月13日、自らの目で優勝額の出来を確かめた稀勢の里は、
「こんな立派な優勝額をいただいてありがたい。またいただけるように、これからもしっかりやりたい」
 
と満足そうだったが、残念なことに2度目の優勝をした場所で負った肩のケガが癒えず、その日はついに訪れなかった。

月刊『相撲』令和4年2月号掲載

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