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2026-06-02

【連載 泣き笑いどすこい劇場】第38回「号泣」その3

平成17年九州場所14日目。魁皇を降して優勝を決めた朝青龍は、勝ち名乗りを受けるところで泣き顔に。歓喜の涙かと思いきや、実は土俵で孤独を感じてのものだった

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勝って泣き、また負けて泣く。
平成25年秋場所、松鳳山や碧山が横綱日馬富士から金星を挙げ、号泣した場面がありました。
最近は、泣きたくてもなかなか素直に泣けない鉄仮面人間が増えていますが、力士たちはまだまだ心が純なんでしょうか。
過去にも実にさまざまな場面で、多くの力士たちが感情を抑えきれずに大泣きしています。
今回はそんな涙にまつわるエピソードです。
※月刊『相撲』平成22年11月号から連載された「泣き笑いどすこい劇場」を一部編集。毎週火曜日に公開します。

“一匹狼”の涙

朝青龍ほど“一匹狼”という言葉が似合った力士はいない。周囲を敵に回し、いがみ合い、それを自分のエネルギーに変えて多くの記録を塗り替えていった。悲しく、またある意味では損な性だ。しかし、内心はきっと寂しくて仕方なかったのかもしれない。

平成17(2005)年、朝青龍は史上初となる7連覇、年間完全優勝、そして、84勝という年間最多勝の3冠を達成している。この「朝青龍イヤー」と言っていい年の納めの九州場所も前半から飛び出し、14日目には早くも勝てば千秋楽を待たずに優勝決定という大一番を迎えた。相手はご当所、福岡出身の人気大関の魁皇(現浅香山親方)で、館内は魁皇を応援する声一色になった。

しかし、朝青龍はこんな異様な雰囲気にも少しも臆せず、右上手を取って左四つに持ち込み、投げで崩して一気に寄り切り快勝。やすやすと3冠を決めてしまった。

いつもの朝青龍は勝つと、

「どうだ、文句あるか」

と言わんばかりに胸をグイと張り、まわりをジロッと睨みつける。しかし、この日はそれもせず、35本ついた懸賞を受け取るあたりから表情がおかしくなった。

半ベソをかいたまま花道を下がると、奥で待機していた付け人の鬼面龍のフトコロに一目散に飛び込み、ワッと声をあげて泣いたのだ。この信じられないような光景に、周囲は度肝を抜かれ、ポカーン。しばらくたってようやく自分らしさを取り戻した朝青龍は、はにかんだような表情でこう言った。

「みんなが魁皇、魁皇と叫ぶので、急に寂しくなったんだ。まるで一匹狼になったみたいで。でも、あれで逆に絶対に負けるものかという気にもなった。誰にも言わなかったけど、やっぱり7連覇のプレッシャーはすごいよ。誰もやったことがないんだから。いま、どこにいるのか、分からない。そんな気持ちだった。記録は(3つとも)全部重いよ。それを一発で決めた朝青龍に感謝する」

それは朝青龍が初めて見せる素の顔だった。この素直さを持ち続けていたら、あんな中途半端なかたちで大相撲界を去らなくてもよかったのに、と思わずにはいられない。

月刊『相撲』平成25年12月号掲載

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