私はニュージーランド生まれ。父親の仕事関係で、母と兄と一緒に来日したのは昭和36(1961)年1月7日、5歳のときだった。来日間もないころから相撲をテレビでよく見、家族4人で相撲ファンとなった。
※写真上=昭和49年秋場所11日目、10分を超える死闘の末、11年ぶりの引き分けとなった二子岳(左)-三重ノ海戦
写真:月刊相撲
長い人生には、誰にもエポックメーキングな瞬間があり、それはたいてい鮮やかな一シーンとなって人々の脳裏に刻まれている。
相撲ファンにも必ず、自分の人生に大きな感動と勇気を与えてくれた飛び切りの「一枚」というものがある――。
本企画では、写真や絵、書に限らず雑誌の表紙、ポスターに至るまで、各界の幅広い層の方々に、自身の心の支え、転機となった相撲にまつわる奇跡的な「一枚」をご披露いただく。
※月刊『相撲』に連載中の「私の“奇跡の一枚”」を一部編集。平成24年3月号掲載の第2回から、毎週火曜日に公開します。
さて最近は「反則負け」が多発しているが、昭和時代は比較的少なかった。逆に江戸時代から昭和戦前、終戦直後の栃若時代を通じて、かなりの割合であったのが引き分け。
しかし、昭和49年秋場所以来、幕内での引き分けは一度もない。
私が思い出深いのは、ちょうど40年前、昭和49年9月18日、秋場所11日目のこと。
あの場所の話題は何よりも、新横綱北の湖だった。
家族とのヨーロッパ旅行から帰国したのは初日の朝だった。当時は中東経由で20時間以上の空の旅だったが、初日観戦の楽しみで疲れは感じず、羽田空港から国技館に直接向かい、北の湖が師匠の三つ揃いを締めての初の土俵入りを感激しながら見たものだ。しかし北の湖は金剛に負ける大波乱……。
そして迎えた9月18日。水曜日だった。朝大学に出かける直前、父から電話があり、折り入って頼みがあるとのこと。何事かと思えばなんと、「学校を今日だけ休みなさい」というではないか。これには私も驚いた。
実は、父の会社のアメリカ本部の統計担当部長が夫人と一緒に来日中で、その奥さんが相撲を初めて見たいのだという。
さいわい椅子席切符はまだ販売中、最初の列か二つ目の正面の良い所があった。合流して再び館内に入ったのは十両土俵入り少し前。
部長の奥さんは特にジェシー(高見山)、北の湖、輪島に興味があった。中入り後の取組が始まると、部長の奥さんは、「相撲は仕切りは別として、勝負が早い、あっと言う間に終わりますね」との感想。だが次の一番(中入りから5番目か6番目)は長かった。非常に長かった――。
比較的に土俵での晩年を迎えていた幕内二子岳と、当時どん底に近い低迷中だった三重ノ海(のち57代横綱)の死闘である。二人の力士が土俵中央で相四つに組んで、ほぼそのまま動かない。水入りになった、また土俵中央で動かない。10分ぐらいが経過して、物言い。2番後も疲労困憊の二人の力士は土俵中央でまた動かない状態になった。
部長の奥さんが「この状態が続くとどうなりますか?」と聞く。私の答えは「ひょっとしたら非常に珍しい引き分け(draw)になります」だった。アメリカは日本と違って、野球に引き分けがないので、ボクシング以外は想像しにくいのだ。数分後、また審判が土俵に上がり、結果は以前見たことがない、以後も見たことない引き分けの垂れ幕。とにかく、信じられなかった。
世にも珍しい引き分けをこの目で本場所で見ることができたのはまさに運との出会いである。あのときの、父の「学校を休みなさい」の言葉に私は今でも感謝している。
語り部=クライド・ニュートン(『SUMOWORLD』編集長)
月刊『相撲』平成26年12月号掲載
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