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2019-08-19

野球のコンディショニング科学「長時間移動中のコンディショニング」

着圧ウエアによるむくみやだるさの改善

 図Bは長時間移動前後における運動パフォーマンス関係の結果です。着圧ウエア着用の有無において柔軟性、俊敏性、跳躍力に明らかな差はありませんでした。

 一方、図Cを見ると、むくみ(体積)と主観的だるさについては、明らかに着圧ウエアを着用したほうが着用しない場合よりも良好な結果を示しています。
 これは着圧ウエアの機能が身体に対してプラスに影響した結果ではないかと考えられます。

 皆さんは、歩き回るなど活動しているときよりも、長時間同じ姿勢を保持しているほうが下肢にだるさを感じることはありませんか?

 活動していると、筋が収縮と弛緩をくり返します。それがポンプの役割となり、血流が良くなるので、下肢にむくみやだるさを感じることは少なくなります。しかし、同じ姿勢を保持していると筋の収縮と弛緩がなくなるので、筋ポンプ作用が機能しなくなって血流が悪くなるので、その結果として特に下肢にむくみやだるさを感じるようになります。
 これに着目したのが着圧ウエアなのです。

 着圧ウエアの着用は身体に適度な圧迫を加え、特に下肢の静脈還流(いわるゆる血流促進)を促すことが可能になります。従って、今回の調査のように長時間移動中に同じ姿勢を保持していてむくみやだるさが引き起こされるときに、着圧ウエアを着用することでこの影響を少なくすることができると考えられます。

 ただし、運動パフォーマンス(俊敏性や跳躍力)には着圧ウエアが有効であるとは、今回の調査からでは断定できません。
 ですので、着圧ウエアはあくまでむくみやだるさに対して有効であり、長時間移動後から始まるウオーミングアップを円滑に行うためのサポートになるものだと言えるでしょう。

自分に適した着圧ウエア活用法を探そう

 今回は長時間移動中におけるコンディショニングとして、着圧ウエアの有効性を検討した結果について紹介しました。

 長時間移動後のウオーミングアップを円滑に行い、練習や試合により良い状態で臨むために、着圧ウエアの着用がむくみやだるさを予防する一役を担っていることが分かったと思います。
 つまり、長時間の移動中からすでにウオーミングアップは始まっており、ここで差をつけることもコンディショニングの一環と言えるでしょう。

 なお、今回の調査ではふくらはぎの着圧ウエアでの検証だったので、下肢全体を覆うようなウエアであればさらに効果があるかもしれません。今回の結果を踏まえていろいろと試してもらうと、自分なりのスタイルが出来上がるのではないでしょうか。

 また、着圧ウエアの適度な圧迫はどの程度持続するのか(使うほど圧は弱くなってくるのではないか)という点については分かっていません。着圧ウエアも消耗品であるため、いつまでも同じような効果が持続するとは限りらないということも頭に入れた上で活用しましょう。

かさはらまさし/1979年千葉県出身。習志野高校―国際武道大学。高校まで野球部で活動し、3年時には主将。大学卒業後は同大学院を修了し、国際武道大学トレーニング室のアスレティックトレーナーとして勤務。その後は鹿屋体育大学大学院博士後期課程を修了し、2015年にはオーストラリア国立スポーツ科学研究所客員研究員としてオリンピック選手のサポートを歴任。専門はアスレティックトレーニング、コンディショニング科学。現在は国際武道大学にてアスレティックトレーナー教育を行いながら、アスリートの競技力向上と障害予防に関わる研究活動を行っている。学術博士(体育学)、日本スポーツ協会公認アスレティックトレーナー、NSCA認定ストレングス&コンディショニングスペシャリスト、日本トレーニング指導者協会公認上級トレーニング指導士、JPSUスポーツトレーナー。

文責◎ベースボール・クリニック編集部

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