新時代の幕開けに相応しい大会だった。沖縄県で開催された陸上競技のインターハイ(IH/全国高校選手権)。チーム力の証しでもある男子総合は洛南高(京都)が第47回大会の添上高(奈良)の76点に次ぐ史上2番目の53点を獲得し、2年ぶり8度目の頂点に立った。今回の活躍で総得点も572.5点となり、前回まで首位を走っていた7度の総合優勝を誇る成田高(千葉)を抜き優勝回数、総得点でトップへ。ここ8年で6度の総合優勝はまさに驚異的といえる。自身も同校のOBで、指導に関わり34年目となる柴田博之先生は、「今回は中長距離陣も含め、しっかりチーム全体で戦えた。生徒たちが私の予想を上回る成長を見せてくれた結果」としみじみと話す。
※写真上=史上最多の総合優勝を果たした洛南高(写真は4×400mリレーでフィニッシュした2年生の木下)
撮影/黒崎雅久(陸上競技マガジン)
★2017年山形大会(第70回)まで
1)成田高(千葉)530.83点
2)洛南高(京都)500.5点
3)中京大中京高(愛知)492点
★2018年三重大会(第71回)
1)成田高 548.83点
2)洛南高 519.5点
3)中京大中京高 500点
★2019年沖縄大会(第72回)
1)洛南高 572.5点
2)成田高 553.83点
3)中京大中京高 529点
その快進撃の中心となったのは、高校2年生世代の選手だった。400mで46秒62の高2歴代2位の好タイム(46秒62)で快勝し、2年ぶり3度目の優勝を果たしたマイル(4×400mリレー)でアンカーを務めた木下祐一、走幅跳では高校生史上初の8m超えを果たす8m12(+1.7)の大ジャンプで30年ぶりに高校記録を更新、U20・U18日本記録を更新した藤原孝輝らの活躍は、目覚ましいものがあった。
U20=20歳未満、U18=18歳未満
100m10秒01の衝撃があまりに強いため、つい見落とされがちだが、同校出身のあの桐生祥秀(現・日本生命)も1年時の10秒58、21秒43からそれぞれ高2歴代1&2位の10秒19、20秒70へと2年時に一気に記録を伸ばし、3年時の大爆発へと結び付けた。今でこそ100mの印象が強い桐生だが、中学時代は200mで全日中2位、高2時の春先に200mで20秒88をマークし一躍脚光を浴びるなど、どちらかといえば200mの方がメインと見られていた。
今年5月の世界リレー選手権男子4×400mリレー予選で快走を見せた井本佳伸(東海大2年)も中学時代は100m、200mで全日中5、4位、高校でも2年時に200mで20秒84をマークしてブレイク。高3時の国体では200mではなく、400mで46秒38の高校歴代7位をたたき出すなど、種目の幅を広げ、活躍した選手だった。
沖縄で躍動した木下も昨年までは21秒82が自己ベストの200mが中心で、レース経験がほとんどなかったとはいえ、昨年までの400mの自己ベストは49秒23に過ぎなかった。
藤原も国体少年B走幅跳で2位に食い込んでいるとはいえ、全日中でも5位と活躍し、今季も13秒97で走っている110mハードルが軸で、走幅跳を本格的に始めたのは高校に入ってからだ。
高校生で史上初めて8m超ジャンプを見せ、周囲の度肝を抜いた藤原。8m12は高校新記録、U20、U18日本新記録、日本歴代でも7位タイとなる大ジャンプだった
撮影/中野英聡(陸上競技マガジン)
洛南を強豪に育て上げてきた柴田先生(左)。現役時代は走幅跳の選手として活躍し1988年ソウル五輪に出場した柴田先生にとって、藤原はインターハイ走幅跳で優勝した初めての教え子となった
撮影/椛本結城(陸上競技マガジン)
3000m障害で今季、何度も高校記録を更新している三浦龍司(3年)も、同種目を本格的に始めたのは高校に入ってから。3000m障害はもちろん、5000m、今季は1500mへと活躍の場を広げ、力を蓄えてきた。
このことからも分かるように、選手の特性を見抜き、中学時代の種目にこだわらず、将来を見据えて、個々にマッチした種目選択、指導で成果を残しているのが洛南高の大きな特徴と言える。
そして、もうひとつ大きいのが伝統の力とチーム力だ。4×100mリレー、4×400mリレーでいずれもアンカーを務めた木下は、「洛南のアンカーを任された以上、結果を残すのが当然」と、それだけ大きな責任と重圧を背負いレースに臨んだ。それは誰から言われたわけでもなく、自分自身の意思、強い気持ちの発動であり、チーム内はもちろん、OB・関係者の想い、そして府・近畿で戦ってきたライバルの想いがパワーの原動力となっている。
選手たちから胴上げされる柴田先生。来年も頂点を狙う、と下級生たちとともに高らかに宣言する
撮影/陸上競技マガジン編集部
全日中で活躍しながら、夏のひのき舞台を走れなかった面々ももちろんいる。しかし、そうした仲間が心をひとつにチーム一丸となって挑む場所――それがインターハイである。たとえ思うような結果が個人種目で残せなかったとしても、“チーム洛南”の一員としてチームで戦い、総合優勝に挑む。それが控えの選手の献身的なサポート、選手たちの1㎝でも前へ、1点でも多くの姿勢に現れている。
「来年も総合を取りにいく」と柴田先生、そして1・2年生たちは宣言する。昭和から平成、そして令和へと時代が移っても、洛南高のスタンスが揺らぐことはない。
文/曽輪泰隆
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