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2017-12-20

9秒台を体感したスプリンター②大嶋健太(日大2年)「レースで体験できたのが大きい」

9月の日本インカレで100m9秒98をマークした桐生祥秀(東洋大4年)。同じレースで走っていたスプリンターたちは、その結果に何を感じ、何を目指していくのだろうか。

際立つ勝負強さ

 日本インカレ男子100m決勝。スタートし、体を起こした瞬間にこう感じた。

「こんなにも違うんだ。こんな差を縮めないといけないのか」
 
 さあ、これから勝負というときには、すでに桐生祥秀(東洋大4年)と多田修平(関学大3年)の2人は、はるか前方にいるように見えた。

 おそらく、大嶋健太(日大2年)の競技人生において、これほど圧倒的な差を見せつけられたレースはないだろう。結果は10秒32(+1.8)の4着。今シーズンのベストタイム、自身2番目の記録で走ってなお、まったく勝負に絡むことはできなかった。

 大嶋は中学時代から世代トップクラスのスプリンターで、中村中から東京高に進学し、その才能はさらに磨かれた。インターハイ100mは史上6人目の連覇。200mでは史上初となる3年連続入賞を果たしている。

 特に3年時の和歌山インターハイ100mでは、直前に世界ユース100m、200m二冠となったサニブラウン・アブデル・ハキーム(当時・城西大附城西高2年)との歴史に残る死闘の末、10秒29(-0.8)でサニブラウンを0.01秒差抑えるなど、その集中力と勝負強さは際立っていた。
 
 大嶋の勝負強さを表すエピソードが二つある。実は、全国インターハイにつながる南関東大会では一度もトップを取れなかった。にもかかわらず、大嶋は全国の100mを連覇してた。また、高校在学中、出場した全国大会すべてで決勝に残っている。“ここ一番”に合わせられる男だ。
 
 日大に進学後は、自ら練習メニューを考えながら、「自分に合っていた」と時折、東京高の練習に参加しながらトレーニングを積んできた。まだ自己べストの更新こそできていないが、U20世界選手権の4×100mRで銀メダル獲得に貢献し、大舞台で10秒3台をマークするなど、抜群の安定感を見せている。

日本インカレでしぶとく決勝に残り、シーズンベストをマークした大嶋(写真/田中慎一郎)

ケガを乗り越えて復調

 今季は順調にシーズンインし、4月には10秒36とこの時期にしては好タイムをマーク。しかし、若手主体で臨んだワールドリレーズに出場し、レース中に肉離れして離脱する。

「正直、モチベーションが落ちたときもありました」

 復帰後、日本学生個人選手権、日本選手権と立て続けに予選敗退。あれだけ決勝に残っていた男が、ことごとく予選落ちに終わる。体型も明らかに絞れておらず、持ち前のキレ味は影を潜めていた。

 それでも、あの日、“ここ一番”となったあのレースで、大嶋は決勝の舞台に戻ってきた。

 9秒98の確定、そして感情を爆発させながらトラックを横切っていく桐生の姿を見て、大嶋は「感動して鳥肌がすごかった」と振り返る。同時にこうも思った。

「自己ベストを更新するのって、こんなにもうれしいものなんだ」

 未だ高校時代のベストを更新できていないからこその感情。あんな風に喜びたい。大嶋の中で、ふつふつと何かが戻ってくるものを感じた。

 直後の国体では、100mで準決勝敗退。

「久々に“悔しい”って思うことができました。まだまだトレーニング、筋力不足。日本インカレの桐生さんの9秒台を、外から見るのではなくてレースで体験できたのは大きいです。この悔しさをバネに、また冬期練習を積んでいきます」

 国体最終種目の男子4×100mRでは、チーム東京の優勝に貢献した。やはり、この男は無冠ではシーズンを終えない。

 どんな状況でも諦めず、自分の力を発揮することができる“TOKYO”が誇るスプリンター・大嶋健太。2018年は逆襲の年となる。

(文/向永拓史)

愛媛国体4×100mRで優勝し、シーズンを終えた大嶋(左から2人目、写真・椛本結城)

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