コンディショニングとは「目的を達成するために必要と考えられる、あらゆる要素をより良い状態に整えること」を意味する。選手それぞれが持つ個性をパフォーマンス発揮へとつなげるための情報を得て、しっかりと活用しよう。
※本記事はベースボール・クリニック2018年6月号掲載「野球のコンディショニング科学~知的ベースボールプレーヤーへの道~」の内容を再編集したものです。
文◎笠原政志(国際武道大学体育学部准教授)
第6回「試合に向けた脳のウオーミングアップ」
ウオーミングアップと言えば、試合や練習に向けて体をより良い状態にすることだと、多くの方が自然と感じているものだと思います。ウオーミングアップとしては、筋肉の温度を高めること、柔軟性を高めること、心肺機能の循環を高めることなどがあります。
もう一つ大切なのが、脳のウオーミングアップです。体を動かす指令を出すのは脳だと考えるならば、体への指令をスムーズに行うために脳のウオーミングアップが必要なはずです。
そこで、今回は試合に向けたコンディショニングとして、脳のウオーミングアップに着目してご紹介します。
脳のウオーミングアップとは、ズバリ適度な覚醒状態を保つことです。この“適度”というのが大切です。
交感神経が強く働いているときは覚醒が強過ぎる状態となるので、いわば緊張し過ぎていることになります。一方、副交感神経が強く働いているときは、リラックスしている状態となり、そこから最大限のパフォーマンスを発揮できるとは言えません。
従って、交感神経と副交感神経のどちらかが極端に強いというわけではない、適度な覚醒状態を保つことが脳のウオーミングアップとして考えるべきことであり、これがいわゆる“ゾーン”と言われるものではないかと脳生理学者は発言しています(図A)。
では、脳の適度な覚醒状態に影響しているものは何なのでしょうか。
それはセロトニンというホルモンです。これは“幸せのホルモン”とも呼ばれ、覚醒や心の安定のほか、自律神経の調整、痛みの抑制、姿勢の維持などにも影響します。
このセロトニンの適度な分泌が適度な覚醒を生み、心身のバランスを維持するために必要なものであると考えられています。
つまり、脳が活動していない状態というのはセロトニンの分泌不足であることになります(図B)。従って、セロトニンを適度に分泌させることが、興奮し過ぎでもなく、リラックスし過ぎてもいない適度な覚醒状態をつくるキーワードになるのです。
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