※写真上=会場の中央につられた巨大スクリーンに映し出された柔道界のレジェンドたち
写真◎近代柔道

「聖地・日本武道館」という場の力。
外国人勢にとっても特別な日本開催

 東京・日本武道館を舞台に熱戦が続く世界柔道選手権。表彰式終了後にメダリストが勢ぞろいして記者会見が行われているのですが、そこで毎日、外国人選手の誰かがこんなことを口にします。

「日本武道館はスペシャルな場所。試合ができて幸せだった」。あるいは、「日本で行われる五輪は柔道選手にとって特別なもの。来年も必ずここに戻ってきたい」

大会4日目、女子63kg級で優勝したクラリス・アグベニュヌーもこんなふうに言っていました。

「憧れの日本武道館で試合ができて、しかも4度目の優勝を飾ることができえとてもうれしいです」

どうやら、彼ら・彼女らにとって「日本武道館」はとても特別な場所のようなのです。

 なぜか? それは、柔道が五輪競技に初採用された1964年東京大会の会場とであるということに加え、「打倒日本・成功の地」だからでしょう。オランダの巨人、アントン・ヘーシンクが無差別級で日本の神永昭夫を破った、外国人勢にとっては記念すべき場であり、伝説の場。そのストーリーが今の選手たちに受け継がれ、日本武道館は聖地として捉えられている。

サッカーで言うところのウェンブリー・スタジアム、ラグビーのトゥッケナム・スタジアム(ともに英国)、あるいは野球(大リーグ)のダブルディ・フィールド(米国)……と言えばいいでしょうか。そのスポーツをやっていたら一度はそこで試合をしてみたいと思わせる特別な場所、それが日本武道館なのです。

画像: ※写真上=90kg級で優勝したオランダ代表のファトエンドは、メダリスト会見でヘーシンクへの思いを口にした 写真◎近代柔道

※写真上=90kg級で優勝したオランダ代表のファトエンドは、メダリスト会見でヘーシンクへの思いを口にした
写真◎近代柔道

大会5日目、男子90kg級で優勝したノエル・ファントエンド(オランダ)は、メダリスト会見で外国人記者の質問に対してこんなふうに答えていました。

記者「ここ日本武道館は、55年前の東京五輪であなたの国の偉大な柔道家、ヘーシンクが金メダルを獲得した伝説的な場所です。このことについてあなたは何か考えていたことはありしましたか」

ファントエンド「実は1週間ほど前から、ヘーシンクのことをずっと考えていました。日本武道館はとても特別な場所だし、今日は決勝の相手が日本人選手の向(翔一郎)だったので余計に考えるところはありました。決勝ではヘーシンクが特別なパワーを与えてくれているかのようでした」(要旨)

この会見のあと『近代柔道』の岩佐直人編集長がつぶやきました。昨年11月のグランドスラム大阪でも100kg超級のヘンク・フロルが言ってたよね(今大会は準々決勝敗退)。

「1964年の東京五輪はヘーシンクが日本柔道を破った記念すべき五輪だった。2020年には自分が最重量級で金メダルを獲り、伝説の継承者となりたい」

 このとき、その場にいた人は一様に、おぉ〜、(そんなこと考えてるんだ〜)と驚いたものですが、今回の世界選手権メダリストの話を聞いていると、その思い入れは、オランダ勢に限ったことではないことがよくわかります(オランダ選手のエピソードが続いてしまいましたが)。外国人選手にとって日本武道館は、他のどこの会場とも違う思い入れのある場所、あるいは思いを注ぎ込みやすい装置として機能する場。そう言って間違いなさそうです。

 日本勢にとって東京開催は地の利は確かにあると思います。しかし、こと柔道においては、他の競技とは少し意味合いが違うのかも。そのあたりも日本は来年への準備を進めるうえで、頭の片隅に入れておいたほうが良さそうです。しかも柔道の場合、海外のトップ選手は日本にちょくちょく来ていて、日本にめっちゃ慣れてます。他の国での開催より断然やりやすいはず、ということも忘れてはいけないかもしれません。

文◎佐藤温夏(スポーツライター)

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