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2020-10-30

最良の指導方法を見つけるために、人を育てるプロが取り組んでいること/伊藤拓摩(プロバスケットボールチーム長崎ヴェルカGM)×鈴木良和(バスケットボールの家庭教師・エルトラック代表)

伊藤拓摩さん(右)と鈴木良和さん

2020年10月30日に、長崎県初のプロバスケットボールチームのチーム名が「長崎ヴェルカ」に決まった。その長崎ヴェルカのGMに就任したのが伊藤拓摩さん。中学卒業後にバスケットボールの本場であるアメリカに留学。アメリカのコーチたちに学び、自らもコーチになりたいと考えるようになり、大学でコーチングを学ぶ。そして帰国後、Bリーグ・アルバルク東京のヘッドコーチなどを務めてきた。20代の頃から「育成」に携わってきた伊藤さんが、何度も悩み苦しんだときに開いてきた一冊の本がある。その日本語版を伊藤さんが監修し、『コーチとは自分を知ることから始まる』(デニー・カイパー/著)として出版された。
「この本が、私と同じような悩みをもっている日本のコーチの方々が考えたり、自分を振り返るきっかけになってくれたら」と語る伊藤さんが、ジュニア世代の育成に長く携わる、バスケットボールの家庭教師・エルトラック代表の鈴木良和さんと、「育成」をテーマに大いに語り合った。
*この対談の模様は『コーチング・クリニック12月号』(2020年10月27日発売)にも掲載されています。


「成長に貢献できている」という
実感がコーチの楽しさのひとつ

ー長年コーチをされてきた中で、お二人はどういう部分にコーチの魅力を感じられますか。

鈴木 僕は昔から、誰かに貢献していると実感できる時にもっとも楽しさを感じていました。コーチはそこに直結する仕事。選手の成長に貢献できていると実感できることが、何よりの楽しさですね。

伊藤 まったく同感で、人の成功を少しでもサポートできた時に、最大の喜びを感じます。またプロチームでは国も言葉も違う選手が集まり、ひとつの目標に向かっていくプロセスが最高に楽しい。もちろん大変ですが、全員がひとつにまとまり、チームとして成長を実感できた時は、大きなやりがいを感じます。

鈴木 大変だけど、だからおもしろいですよね。毎日の練習でも、「最高の練習をした!」と思った直後には、「もっといい練習があるんじゃないか」と考えている。いつまでも完成しないという点も、コーチングの楽しさかもしれません。

育成と勝利というジレンマがある
から、コーチには理念が必要

ー鈴木さんは主に育成年代、伊藤さんはシニアのプロ選手を専門に指導されていますが、カテゴリーによる指導の違いはありますか。

鈴木 プロは「勝利を挙げる」というわかりやすい成果がありますが、育成年代の成果が何かと考えた時、勝利に焦点を当てると育成の優先順位が下がります。選択肢として、「育成しやすいけど勝ちにくい」と、「勝ちやすいけど育成につながりにくい」という2つの道がある。このジレンマは、育成年代ならではだと思います。だからこそコーチは、「指導者として何をするのか」という確固たる信念、理念を持たなければなりません。

伊藤 プロも似た部分はあって、ある選手が得点王になりたいけれど、チームの勝利のためにオフェンスよりもディフェンスにエネルギーを注ぐ必要がある、というケースがあるとします。そこでいかにその選手を納得させ、ウィン=ウィンの関係が築けるかが大事かと思います。またプロのコーチは会社と選手、スタッフの真ん中の立場。鈴木さんの言う「理念」がしっかりしていないと、周りの意見に引っ張られてぐらつきやすい。

鈴木 理念は、人それぞれでいいと思うんです。音楽みたいな感じで、全員にとって正しい音楽があるのではなく、ポップスもあればジャズやロック、R&Bもあっていい。大事なのは、指導者としてどんな音を奏でるか、ということ。指導者としてどういう人でありたいか、という理念がその人の奏でる音になるとすれば、正しい音楽うんぬんじゃなく信じて奏でることが大事。「これでいいのかな」と疑いながら演奏しても、誰も聴かないですよね。

伊藤 アルバルク東京のヘッドコーチをしていたときは、勝たなくてはいけない、バスケ界を盛り上げなくてはいけないというプレッシャーを自分だけが背負っているように勘違いしていました。迷ったり悩んだりすることが多かったのですが、その直後に鈴木さんと話をする機会があって、理念を持つこと、いろいろな本を読むことをすすめていただいた。その頃くらいから、ヘッドコーチはあくまでも自分が成し遂げたいことの方法のうちの一つで、ヘッドコーチにこだわる必要はないのだなと、考えるようになったと思います。

取材・構成/直江光信

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