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2020-12-28

「第99回全国高校サッカー選手権大会」開幕直前<4> 履正社高校のファーストタッチ指導:前編

12月31日に始まる第99回全国高校サッカー選手権大会。履正社は初戦となる2回戦で新潟県の帝京長岡高校と戦う

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駆け引きの中で速くゴールに向かう



――サッカーのスピードアップによって、指導法も変化していくのでしょうか?

平野 選手の肉体的なスピードを上げるのは限界があるので、判断のスピードを上げることが重要になってきます。仕事のスピードや効率を上げるという表現のほうが適切でしょうか。ボールを足元に止めてから前に持ち出すのではなく、ファーストタッチで前に持ち出せば、アクションを1つ省くことができ、ゴールに一足早く近づけます。

高校年代では、ボールを左右両方の足で自由に扱えることが基準になると思っています。ゴールという目標に対して、どこにボールを置いたらシュート、パス、ドリブルといったプレーがやりやすくなるのかをトレーニングから意識していく必要があります。「とりあえずボールを止めて、次はどうしよう」と考えるファーストタッチでは遅いのです。

相手のプレスの強度に対する素早い判断を求めるには、トレーニングでグリッドを小さくするのが理想ですが、それまでと同じグリッドサイズでやるとしても、守備のアプローチを速くしてインテンシティーを高めればいいでしょう。従来通りにボールをコントロールしてから次のプレーを考えていると、相手に囲まれて簡単にボールを奪われてしまいます。ですから、トレーニングでそのような状況を与えることによって、選手がファーストタッチやプレースピードの重要性を選手に気づかせるのが大事。それができれば自ずと良くなることでしょう。

守備者がいないポゼッションのトレーニングでも足元の技術は向上しますが、そこに相手との攻防や攻撃方向が加わると、「ボールを失わない」、「ゴールを奪う」といった目的を達成するためのファーストタッチが求められます。うまくいかなかったときに、「そこにボールを置くと、前に運べない。どこにコントロールすれば、素早く運べるだろう?」、「どこに置けば、シュートを打てるだろう?」といった疑問を感じて工夫する機会が必要だと思います。ボール扱いがうまいことが大事なのではなく、目的を達成するためのファーストタッチになっていることが重要なのです。

――2人組での対面パスなどにプラスアルファの要素を加えることが必要になりそうです。

平野 ファーストタッチの前提となる「止める、蹴る」の技術を伸ばすドリルトレーニングは大事です。高校入学までには思い通りにボールをコントロールできるようになっていてほしいと考えます。いまは人工芝でプレーする機会が多く、足首をしっかり固定せずに蹴ってもボールは真っすぐに飛びます。ところが、足元が不安定な天然芝でのプレーの場合は、しっかり踏み込まなければ狙ったところにボールを蹴れません。しっかり蹴るためには大きなスイングになってしまいますが、それでは相手に読まれますし、テンポの速いボール回しには不向きです。そのため、天然芝でも小さなスイングで正確に蹴ることができるように意識しなければなりません。そのように考えると、ファーストタッチの置きどころについてていねいに対処するようになっていきます。

履正社高校でもリフティングや対面パスをウオーミングアップとして採り入れています。ドリル系のメニューによって思ったところにボールをコントロールできるようになったら、次は「何のために」、「どうやって」使うのかと、身につけた技術の活かし方を学ぶのです。実際の試合では、攻撃方向を意識して体の向きをつくったり、相手との駆け引きをしたりしつつ、動きながらのボールコントロールが必要になってきます。ですから、そういった要素を含むゲーム形式のトレーニングやゴールのあるトレーニングが大切になってくるのです。

プレッシャーが低かったり、相手がいない中での技術は試合で活きないので、ディフェンダーには素早いプレッシャーを求め、攻撃側には判断を併った素早いプレーで対応する意識を持たせることが重要です。いまの日本とヨーロッパの違いは、攻守の切り替えの速さや球際の激しさといったインテンシティーの部分ですが、強度が上がれば、攻撃の質も上がります。

※後編に続く

プロフィール


 
平野直樹(ひらの・なおき)

1965年11月2日生まれ、三重県出身。四日市中央工業高校、順天堂大学、松下電器でFWとしてプレーした。現役から退いたあと、ガンバ大阪ジュニアコースの監督として、元日本代表のMF稲本潤一(現在はSC相模原)やFW大黒将志(現在は無所属)らを指導。ベガルタ仙台ユースの監督や星稜高校(石川県)のコーチを務めたあと、2003年の創部と同時に履正社高校(大阪府)の監督に就任した。これまでにインターハイに3回、全国高校サッカー選手権大会に2回出場している。日本サッカー協会公認S級ライセンスを保持している

サッカークリニック 11月号

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取材・構成/森田将義

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