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2020-12-28

「第99回全国高校サッカー選手権大会」開幕直前<5> 帝京長岡高校のゲームモデル考察:前編

12月31日に始まる第99回全国高校サッカー選手権大会。帝京長岡は初戦となる2回戦で大阪府の履正社高校と戦う

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個や学年の特性に応じ、当てはめ方を調整する



――ゲームモデルに固執するのではなく、プレーの幅を持たせているということでしょうか?

古沢 ゲームモデルを忠実に再現しようとしても、うまく機能しなければ意味がありません。得点や勝利を得るためであれば、選手がゲームモデルから逸れたプレーをしても問題はないと考えています。ゲームモデルに準じてチーム全体が同じ攻撃を頭に描いても、選手のタイプによって違いは生まれます。19年度のチームで言えば、トップ下とパス交換する状況の場合、パサーの谷内田哲平(京都サンガF.C.)とドリブラーの田中克幸(明治大学)では、立つべき距離が違います。ディフェンスラインからパスを受ける状況でも、足が速い吉田晴稀(愛媛FC)であれば、近くに寄ってから素早くボールをはたいてワンツーでスペースへの攻め上がりを狙うべきですが、ボールを持てる吉田勇介(明海大学)であれば、あえて近寄り過ぎずに次のプレーの準備をすべきです。細部まで原則を与えると、選手の頭がパンクしたり、選手の特性に応じたプレーを選択できなくなったりする可能性があります。ゲームモデルをつくる際は、大枠のみにとどめ、試合状況や相手に応じて臨機応変に対応するのが大事だと言えるかもしれません。

――主力が毎年入れ替わるため、チームには選手の特性による変化があります。育成年代のチームにとっての難しさです。

古沢 19年度はボールを握れない試合はないと考えていたので、自分たちのゲームモデルを崩してまで試合に挑むつもりはありませんでした。しかし、20年度はボールを持てる選手が多くありません。マイボールの時間を増やしたいという理想は変わりませんが、走力を活かしたスタイルとの使い分けを意識しています。今年の夏の試合ではハイプレスに必要な走力を重視する一方で、練習ではゲームモデルに沿ったビルドアップを続けました。

19年度はボール保持を前提とし、失ってもすぐに奪い返せるようにハイプレスを意識させました。しかし、相手にボールを持たれる時間が増える20年度は、ボールを握る機会を増やすために、まずはハイプレスを徹底させようと考えています。ゲームモデルは同じでも、選手の特性によって伝え方や順序を変えています。ただ、ゴールを奪ってゴールを守るというサッカーの本質からブレないように意識しています。

帝京長岡の場合、長岡JYFCというジュニア年代からの下部組織があり、各年代とも、ボールを大事にしながら常にゴールを目指すスタイルをゲームモデルとして掲げています。ゲームモデルにきっちりと当てはめなくても、小学生や中学生が「谷内田選手のようになりたい」と練習や試合で意識するうちに、帝京長岡のゲームモデルに適した選手が自然と育っていくのが特長でしょう。ただし、ボールを持てるスタイルに適した選手だけでなく、速い選手や強い選手がいれば、彼らを起点にした攻撃を意識させる年もあります。

ゲームモデル通りに「絶対にボールを動かさなければいけない」、「ボールを動かせる選手でなければ試合に出さない」というように固執するのではなく、その年の選手の特長を踏まえながら、ゲームモデルを微調整します。帝京長岡らしいスタイルに固執し過ぎて一つのスタイルでしかプレーできない、卒業したあとの大学以降のステージで活躍できない、というのでは困るとも考えています。

※後編に続く

プロフィール


 
古沢徹(ふるさわ・とおる) 

1985年10月30日生まれ、新潟県出身。帝京長岡高校でプレーしたあと、帝京大学進学と同時に指導者を志し、恩師である谷口哲朗氏(現在は帝京長岡高校総監督)の下、母校で教える。大学卒業後の2008年に帝京長岡高校の教員となり、正式にコーチ就任。13年から監督として指揮を執り、19年度の全国高校サッカー選手権大会ではベスト4進出に導いた。日本サッカー協会公認A級ライセンスを保持する

サッカークリニック 10月号

サッカークリニック 1月号

取材・構成/森田将義

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