13年ぶり7度目の箱根制覇を果たした駒澤大学。あらためてそのメンバー構成を振り返ると、これまでの箱根Vチームに見られた「黄金律」とは異なるものだった。
4年生の出走者は小林のみメンバー構成は「釣鐘型」に かねてから、箱根駅伝で優勝するには、学年構成の“黄金律”があるとされてきた。
4・3・2・1。
エースを含め、経験を積んできた4年生が4人いればブレーキは少なくなる。2、3年生は大学の水にも慣れ、実力を発揮し出す。1年生はスーパールーキーで、往路の主要区間でも他大学のエース級とも十分に勝負できる。
この「4・3・2・1」のフォーメーションが組めたときに、優勝のチャンスが訪れると言われる。
たとえば、ちょうど10年前に優勝した早稲田大学。
4年生は主将の中島賢士(10区)、急きょ5区に起用された猪俣英希、高野寛基(6区)、北爪貴志(8区)の4人。
3年生は矢沢曜(3区)、三田裕介(7区)、八木勇樹(9区)と高校時代から実績のある3人が並び、2年生は平賀翔太(2区)、前田悠貴(4区)と往路を任せられる選手が担当。
そして1年生には、大迫傑がいた。大迫は1区を担当し独走、優勝に大きく貢献した。
こうして並べてみると、4年生は初めて箱根を走る選手もおり、早稲田独特の集中練習をこなしてきた苦労人が多く、2、3年生は強豪校出身のエリートが並び、1年生の大迫は紛れもないスーパールーキーだった。
スピード区間を下級生が担当し、地道な区間を4年生が担当するという理想的なフォーメーションである。
ところが、今回優勝した駒澤大学はこの黄金律から大きく外れていた。学年ごとの構成はこうなっている。
★4年生
小林 歩(3区・区間2位)
★3年生
花崎悠紀(6区・区間賞)
佃 康平(8区・区間4位)
石川拓慎(10区・区間賞)
★2年生
田澤 廉(2区・区間7位)
酒井亮太(4区・区間11位)
山野 力(9区・区間6位)
★1年生
白鳥哲汰(1区・区間15位)
鈴木芽吹(5区・区間4位)
花尾恭輔(7区・区間4位)
区間エントリーの段階では、1区に加藤淳、8区に伊東颯汰、10区に神戸駿介と、いずれも箱根経験を持つ4年生がエントリーされていたが、当日エントリーで下級生と交代し、結果的には4年生ひとり、そのほかの学年が3人ずつという「釣鐘型」の構成になった。
過去3回を振り返っても4年生は、3人、4人、3人と一定の数を占めており、大八木弘明監督としては例外的な学年フォーメーションとなった。
優勝のカギを握った3年生見逃せない大八木監督の育成力 私が驚いたのは、総合優勝のカギとなったのが3年生だったことだ。駒大の3年生は、入学時のタイムが他校に比べてかなり劣っていたからだ。
毎年、「陸上競技マガジン」では、選手の大学入学時に5000mの自己記録を発表している。
私は個人的に、各大学の上位5名の平均タイムを算出してランキングを作っているが、2018年入学者の場合、1位は早大、2位は明大、3位は中大だ。
では、駒大は?
16位だった。
入学時に14分30秒を切っていたのは、今回、6区で素晴らしい走りを見せた富山商高出身の花崎だけで、他の選手たちは14分30秒台が並んでいた。当時はまだ厚底シューズが出ていない時期であり、現在と単純な比較はできないが、駒大OBと話すと、
「この学年は厳しいと思います」
という声が聞かれた。
実際、今年の夏前まで、大八木監督も頭を痛めていた。
「今年の3年生でメドが立っているのは、去年10区を走った石川だけなんだよ。ただ、時間はかかるけど、どうやら3年生からメンバーに絡んできそうな人材も出てきました。いまのままだと一、二枚足りないので、3年生が底上げしてくれると戦えるようになるんじゃないかな」
そして実際に、秋から冬にかけて3年生が伸びた。同学年のなかでは一歩先んじていた石川は5000mで13分台に突入。佃も5000mで自己ベストを更新し、存在をアピールしていた。そして高校時代からスピードはあった花崎は、特殊区間である6区で適性を示していた。
8区で区間4位の走りを見せ、優勝への望みをつないだ佃 写真/大賀章好(陸上競技マガジン) ただし、3年生の台頭によって走れなくなる選手たちが出てきた。
4年生である。
加藤は1年生の白鳥に、伊東は佃、そして神戸は石川と入れ替わることになった。最後の箱根駅伝だけに、4年生たちには思うところもあっただろう。大八木監督はその心情を十分に理解していたが、監督自身にも葛藤があった。
「走れない4年生には、12月30日まで言えなくてね」
60歳を過ぎ、監督生活が長くなっても、メンバー交代を告げるのはつらいという。
ただし、その決断は吉と出た。
高校時代はパッとしなかった3年生を育てた育成力は並々ならぬものがあり、しかも4年生を外す決断ができたのは、大八木監督が「勝負師」だからにほかならない。
13年ぶりに優勝した大八木監督は、本当にうれしそうだった。
「私も老体に鞭打って、朝練習を自転車で付き合った甲斐がありました(笑)。3年生が成長したのは部全体の雰囲気、刺激があったからでしょうね。去年は田澤、そして鈴木をはじめとした強い1年生が入ってきて、『俺たち、このままじゃダメだ』と気合いが入ったみたいでね。人間、為せば成るってことです」
今回の駒大は下級生に目が行きがちだったが、箱根駅伝で勝ち切るには上級生の力が欠かせない。
大八木監督が還暦になった2018年、大学に迎えた選手たちが鍛えられ、大仕事をやってのけたのである。
陸上競技マガジン 1月号
箱根駅伝2021完全ガイド(陸上競技マガジン1月号増刊)