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2021-02-03

【第93回センバツ出場校の指導法】中京大中京高校Part1 ティースタンド打撃

2020年のドラフトで巨人に3位指名された中京大中京高の中山礼都のティースタンド打撃練習

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チームスポーツである野球だが、個のスタイルを確立し、力を高めることがチーム力の向上にもつながっていく。「打」「投」「走」「守」の中から、打撃について中京大中京高(愛知)の高橋源一郎監督に聞いた。打撃練習にティースタンドを活用する狙いと効果とは?


高橋源一郎<中京大中京高監督>

たかはし・げんいちろう/1979年10月2日生まれ。愛知県出身。中京大中京高-中京大。高校3年時、1997年春のセンバツに出場し、準優勝( 主将・遊撃手)。大学卒業後は中京大、三重高、三重大、中京大中京高でコーチを歴任。2010 年8月に中京大中京高の監督に就任した。春1回(20 年=中止)、夏2回(15、17年)、甲子園に出場。19年に明治神宮大会優勝。20年秋東海大会優勝。保健体育科教諭。

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元U15日本代表で最速151キロのエース畔柳亨丞を擁し、全3試合でいずれも7得点の打撃力を見せ、2020年秋の東海大会を制した中京大中京。2年前の大きなつまずきから、大きな方向転換で新たなスタートを切ったと高橋監督はいう。

2年前愛知大会決勝で敗れ、指導法を見つめ直した

 2019年夏の愛知大会は準決勝で敗れました。その時に、自分たちの力を出し切れなかった、私の立場で言えば力を出させてあげられなかったと痛感しました。そこで私は自身の考え方、指導法をあらためて見つめ直す機会を得るわけですが、指導者が一から十まで指示を出して取り組ませているような練習では、選手たちの想像力は生まれないし、ここぞという時に真の力を出し切ることができないと思いました。これまでは私自身が、選手たちが「自分たちはこうするんだ」という思考力をストップさせてしまっていたのではないかと思ったのです。

 旧チームからの経験者が多かったこともあり、新チームが動きだしてからの私は、思い切って選手たちとの距離を少しだけ取りながら指導するようになりました。口を出したいことがあってもすぐにアクションを起こすのではなく、ワンテンポぐらい遅らせて、選手の反応を見極めながら私の思いや考えを伝える。たとえ自分のイメージと違う行動をしていたとしても、一方的な考えを彼らに押し付けるのではなく、互いの考えをすり合わせて方向性を見つけるように努めました。

 監督に就任してからいろんな練習を取り入れていますが、ティースタンドを使った練習は大事にしているものの一つです。



 高低、コースを自由に設定できる
ティースタンドを使った打撃練習

高低、コースを自由に設定できるティースタンドを活用するにあたっては、「考える力」や「イメージ力」が重要。印出太一選手(写真)のスイングからは、実戦を想定して投球軌道をイメージしていることが視線から読み取れる。

「止まったボールを打つ練習では、確かなヒッティングポイントの意識付けが必要になります」(高橋監督)

 横からトスされたボールを打つトスバッティングでは、強く打とうとするほどに体が開いてしまう、あるいは、インステップしてしまいやすいということが一般的にも言われています。そういう中で、前からきたボールをセンターへ打ち返すことを明確にイメージさせたいと思い、ティースタンドを使ってポイント設定をして打たせるようにしています。

 本人の意識の問題ではあるのですが、動いているボールに対しては、どこかいい加減にバットを出してしまうことがあるものです。トスされた緩いボールであれば、それでも簡単にとらえることができます。しかし、ティースタンドを使ってボールを置いて打つ、つまりは止まったボールを打つ練習では、自分の形で思い切り打つことと正確にボールにコンタクトすることを両立させる必要があります。確かなヒッティングポイントの意識付けになるわけです。

 打撃に必要な強くコンタクトすること、正確にコンタクトすることを明確に意識して取り組んでもらいたいと思い、横からボールを投げるトスバッティングではなく、ティースタンドを使った練習を行うようにしています。


昨秋の東海大会では3試合で11打数7安打の活躍で、中京大中京高の優勝に貢献した辻一汰

 また、ティースタンドを使った練習には一人でもできるメリットがあります。自分が思い立ったらすぐに、一人でも行うことができるのです。ボールを入れる箱を後ろに置いておけば、最低限のスペースで行えるので、練習スペースが決して広いとは言えないわれわれの場合でも、多くの選手が同時に打つことが可能です。

 二人一組のトスバッティングで考えられる打球がトスする者に当たる危険性もありません。つまり、内容、効率面、そして安全性において、ティースタンドを使った練習をする意義はあると思っています。

 そして、それは自分と向き合う練習でもあります。自分でコースや高低を設定して打ち込めるので、例えば投手に対峙したときに見つかった自分の欠点や課題を一つずつつぶしていく作業になります。「ここのコースが打てなかった」「この高さに対してバットが思うように出ていかなかった」という自分が得た反省をティースタンドを使って確認、修正していければと思っています。


部室の前でわずかなスペースを生かして練習する中京大中京高の部員たち

 ピッチャーからの投球軌道をイメージして打ったり、苦手なコース、得意なコースもある中で、いろんなイメージを持ちながら打ったりするなど、考え方次第であらゆる対応力を養えます。そのためには、イメージ力を持ち、自分で考えることが大切です。

 そして、ティースタンドを使ってコースや高低を設定し、ヒッティングポイントをより意識しながら打つ練習を経て、実戦ではどうだったか。課題が見つかれば、その課題と向き合い、再びティースタンドを使った練習で克服していく。そういうサイクルを築いて練習に励むことが個々の技術力向上につながっていくとも思っています。自分を見つめ直し、自分で考え、自分の形をつくっていく。そういう自分のための時間だという位置付けです。

 これが、いわゆる一般的な二人一組のトスバッティングでは、その分のスペースが必要になりますし、打つ側とボールをトスする側に分かれなければならず、ティースタンドを用いるように「いつでも・どこでも」行うことができなくなります。また、そこではトスする側の技術も重要で、トスが安定しなければ、強く、正確にコンタクトするスイングを身につけるという目的から外れてしまう場合があります。

Part2に続く

【ベースボールクリニック2020年8月号掲載】

取材・文◎佐々木亨 写真◎宮原和也、BBM

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