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2020-08-12

【アメフト】新型コロナ感染拡大の影響(3) 米カレッジ、BIG10とPAC12が来春に延期を決定

新型コロナウィルスの感染拡大により北米のアメリカンフットボールが動揺している。NCAA(全米体育協会)のカレッジフットボールで、有力カンファレンスのBIG10とPAC12が現地8月11日午後、相次いで今秋のシーズンを全面的に来春に延期することを発表した。【小座野容斉】

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潜在的な医療上のリスク、あまりに高い

 カレッジフットボールの秋季シーズンを来年春に延期する案が、この数日急速に浮上してきたのは、昨日レポートした通りだが、早くもそれが具体化した形だ。

 BIG10は8月11日、所属14大学の学長・総長会議を開き、すべてのスポーツの春シーズンへの延期を決定した。

 ケビン・ウォーレンBIG10コミッショナーは、「学生アスリートの精神的、肉体的な健康と福祉が、あらゆる決定の中心にあった。BIG10の新興感染症タスクフォースやスポーツ医学委員会と何時間も議論した結果、この秋に学生アスリートに競技をさせるには、潜在的な医療上のリスクに対する不確実性があまりにも高いことが明らかになった」と述べた。

 ほぼ間を置かず、PAC12が今秋に予定されているすべてのスポーツを、2021年1月1日以降に延期することを発表した。PAC12はCEO(最高経営責任者)会議を開いて、全会一致で決定した。

 ラリー・スコットPAC12コミッショナーは「プロスポーツとは異なり、大学スポーツは(完全隔離された)『バブル』の中で運営することはできない。我々のスポーツプログラム※は、多くの場合、広範な大学キャンパスの一部で、そのキャンパスはCOVID-19が激しく蔓延している地域社会の中に存在しているのだ」と述べた。

※米カレッジスポーツでは、チームだけでなく練習施設や関係組織などを包括的に「プログラム」と呼称する。

 また学生アスリートのスポーツ奨学金がすべて保証されることを明らかにした上で、カンファレンスとして、NCAAに追加の1年の資格を与えるよう強く求めた。

 PAC12の有力校、オレゴン大学のマイケル・H・シル学長は「最終的には、科学と学生アスリートの健康と福祉への深いコミットメントが我々の決断の指針となった。我々は、PAC12が新年に競技に復帰できることを願っている」と述べ、状況次第では、来年早々にシーズンを開幕すると示唆した。

SEC、ACC、BIG12は秋シーズン実施へ

 有力2カンファレンスの決定には様々な反応が起きている。

 2000年代の20シーズンで11回の全米王者を出したSECはグレッグ・サンキーコミッショナーが「SECと、所属する14の大学が、学生アスリートのの健康的な環境をサポートするために、徹底した慎重なアプローチをとっていることに、引き続き満足している。COVID-19の動向を注視しながら、安全なスポーツ復帰のためのポリシーとプロトコルをさらに洗練させていき、日々、私たちの学生アスリートをサポートし、教育し、ケアするための継続的な努力を続けていく」とコメント、9月26日に予定されているSECの開幕には変更がないことを明らかにした。

 ACCの医療アドバイザリーグループの責任者、キャメロン・ウルフ博士は、過去6か月間でリスクを管理するのに十分なことを学んでおり、「高額の費用と大変な作業にはなるけれども、2チームがフィールド上で安全に試合をすることは可能だ」と語っている。ACCも9月12日の開幕予定も変更しない方針だ。

 最新のニュースでは、BIG12も、SEC、ACCに追随して秋シーズンのフットボールを行う予定という。

 BIG10の中で西の端に位置し、元々はBIG12に所属していたネブラスカ大学は、カンファレンスの方針に反して秋シーズンを戦うことを匂わせている。

 BIG10で過去10シーズンの成績が117勝18敗という、全米屈指の強豪、オハイオ州立大学では、来年のNFLドラフトでトップ指名候補の1人、QBのジャスティン・フィールズが、twetterで「smh…」とだけ投稿した。「smh」はshaking my headの意味で、「あり得ない」「やれやれ」という、失望を意味する略語だ。

 トランプ大統領、秋シーズンの延期は「悲劇的な間違い」

 そして、この問題で積極的に発言している、米国のドナルド・トランプ大統領は、11日朝のラジオ番組で「フットボールが、悲劇的な間違いを犯しつつある」と述べた。トランプ大統領は「フットボール選手は、皆若く、強く、なみはずれたフィジカルを持っている。だから彼らに問題が起きることはない」と語った。

 また、観客をスタンドに入れてフットボールを行うことが好ましいとしながら「カレッジフットボールが本当にそうできるかはわからない」と話した。

<解説>巨額マネーと異常事態の複雑な方程式

 BIG10は、ミシガン大、オハイオ州立大、ペンシルバニア州立大、ウィスコンシン大、パーデュー大、アイオワ大などの伝統的強豪校を擁する。

 競技の実力面では、近年、アラバマ大やルイジアナ州立大、ジョージア大などのSEC勢に劣っているのは否めないが、米の東北部から中西部の広いエリアに所属大学が存在し、マーケットの大きさから来る経済力や注目度は、米カレッジフットボールでNO.1の存在だ。

 PAC12も同様だ。盟主的存在の南カリフォルニア大(USC)や、UCLA、UCバークレー、スタンフォード大、オレゴン大などの強豪校が揃う。

 カレッジフットボールが稼ぐ金は巨額だ。

 経済誌フォーブスのウェブ版によれば、過去3年間の平均チーム収入が1年あたり1億ドル(109億円)を超えたのは、テキサスA&M大学(SEC)を筆頭に13大学。

 プロのNFLと違い、選手への年俸支払いがないため、大半のチームは大体、その2/3が利益となる。

 今回の前例のない異常事態の中で、「学業を中心に据えた大学の維持を、大きな収益をもたらすスポーツよりも上位に位置付ける」決定は容易ではないだろう。

 カギを握っている組織の一つは、「アメリカ大学協会」(AAU、 Association of American Universities)と思われる。AAUは北米でも特に学業・研究水準の高い大学が集まった組織で、米国の63大学とカナダの2大学からなる。

 BIG10は所属14大学中、13大学が、PAC12は12大学中7大学がAAUのメンバーだ。SECやAAC、BIg12にもAAUのメンバー大学はあるが多数派ではない。

 BIG10とPAC12は、6月上旬に、今季をカンファレンス内対戦に絞って行うという方針を示したときも、「パワー5」の先陣を切る形で決定し、発表していた。AAU自体は、大学スポーツを議論する組織ではないが、学長の議論に影響を与えた可能性は高い。

 BIG10、PAC12ともに、秋シーズンを中止するのではなく、早ければ来年1月には開幕するとしている。彼らとしても、フットボールがもたらす巨額収入に背を向けることはできない。

 ただ、仮に春開催となると、フットボールに並ぶもう一つの花形カレッジスポーツ、バスケットボールとの関係はどうなるのか。多くのファンが熱狂する全米大学トーナメント「マーチマッドネス」は、ボウルゲームと同時開催になるのか。また、4月下旬に予定されているNFLドラフトは予定通り開催されるのか。疑問は尽きない。

 アメフトファンから「カレッジフットボールは、同じ背番号の選手が2人いるのですね」と尋ねられることがある。カレッジフットボールには、NFLのようなロースターの上限はないため、1チーム100人以上のチームが当たり前で、必然的にそういうことになる。

 コーチやスタッフの数を加えれば、サイドラインの密度はNFLの数倍だ。さらに、プロ選手と違って、試合時以外は学生である選手やスタッフを、隔離施設に拘束することは不可能だ。加えて、多くの大学が自前の巨大スタジアムを大学施設内に保有しており、地元の街や市と一体化している。

 スコットPAC12コミッショナーの言う通り、バスケのNBAや、アイスホッケーのNHLが採用している『バブル』開催方式は、学生スポーツでは、ほぼ不可能だろう。

 パワー5の中で残るSEC、ACC、BIG12は、秋シーズンを実施する予定だが、SECとBIG12の開幕は9月26日、ACCは9月12日となっている。この後、さらなるスケジュール変更や、場合によってはBIG10 、PAC12に追随する可能性がないとは言えない。

10万人を超える大観衆が毎試合詰めかけるミシガン大学のアナーバースタジアム=photo by Getty Images

PAC12の雄、USCのホームゲーム。オリンピックオーデトリアムが超満員となった=photo by Getty Images

SECは秋シーズンを実施する方針だ=photo by Getty Images

2019年のSEC、LSU対アラバマ大戦で、アラバマを破ってチームメートに担ぎ上げられるLSUのQBジョー・バロウ。バロウは今年4月のNFLドラフトでベンガルズに全体1位指名され入団した=photo by Getty Images

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