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2021-03-18

【第93回センバツ出場校の指導法】健大高崎 Part1 すべての球を打ちにいきながら低めを見極める方法論

関東大会決勝で本塁打を放つ堀江晃生

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 2020年、秋季関東大会で健大高崎高(群馬)は、1大会8本塁打の猛打を武器に2年連続で頂点に立った。新3年生33人の高校通算本塁打はすでに200本をゆうに超えている。甲子園に初出場した11年夏以降、「機動破壊」を旗印に旋風を巻き起こしてきたチームが、スケールアップを遂げた印象だ。チーム戦略の変更についてチームを統括する青栁博文監督に、また、それに伴う新たな取り組みについて、それぞれの専門スタッフに話を聞いた。テーマは「強打を築く」。


青柳博文<健大高崎高監督>
あおやぎ・ひろふみ/1972年6月1日生まれ。群馬県出身。前橋商高-東北福祉大。現役時代は内野手。高校3年春に甲子園に出場。大学卒業後、一般就職をし、クラブチームや軟式野球部などでプレー。2002年4月より、前年に共学化した高崎健康福祉大学高崎高校に赴任し、野球部創部と同時に監督に就任。夏3回(11、14、15年)、春4回(12、15、17、20年)、甲子園に出場。今春のセンバツにも出場する。春は12年のベスト4、夏は14年のベスト8が最高成績。社会科教諭。

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17年春の秀岳館戦がチームづくり戦略の転換点

「機動破壊」を旗印に、2011年夏の甲子園初出場から旋風を巻き起こしてきた健大高崎。高い走力によってプレッシャーを与えられた相手チームが自ら崩れ落ちる様子は、見ている側にも深く印象付けられた。しかし、17年春のセンバツの準々決勝・秀岳館(熊本)戦では、序盤からリードを広げられ2対9と敗退。これにより機動力から打力へと強化の最重要項目の舵を切った。

 一つ大きな特徴を持ったチームづくりをしようというところで、「走塁」に特化したチームづくりを進めてきました。しかし、これからさらに甲子園で上位に勝ち進むチームを目指していく上で、何が不足しているかと言えば攻撃力です。バッティングの力を上げて、その上で機動力も使って何をしてくるか分からないような攻撃力を持ったチームをつくっていきたいという思いで、現在、「スペクタクルベースボール」を標榜してチームづくりを進めています。

 転機になったのが17年センバツの秀岳館戦(準々決勝)です。強力な打線の上に、守備も走塁も投手陣もソツのないチームでした。試合では前半からリードを広げられる展開となり、そうなると機動力を使って1点、2点取り返したところで流れを覆すことはできません。そういう展開を打開するだけの打力を身につける必要があると肌で感じました。

 現在は「飛距離を伸ばす」「強い打球を打つ」ことに主眼を置いてバッティングに取り組んでいます。そこで感じているのは、バッティングはやればやるほど伸びていくということです。土台となる技術的な知識や体の使い方を理解することが前提となりますが、その上でしっかりとした練習を積んでいくことでパフォーマンスを上げていく選手がたくさんいます。

 特に現3年生は1学年上の世代がメーングラウンドで練習する間、室内練習場での打ち込み期間が長くなりました。1日中、バッティングに費やす日もあったくらいです。それを単に数を打つのではなく、技術や体の使い方を考えながら取り組んだことが、昨秋の結果に結び付いたのだと理解しています。


全球打ちにいく姿勢で低めの球を見逃しつつ、高めの球は反応で打っていけるように練習を積む

 また、戦略的な部分で重視しているのは「すべてのボールを打ちにいく中でも、低めを振らないこと」です。現在は高校生でもツーシームやスプリットなど落ちる系の球種を投げてきます。低めにくるそれらの球を振ってしまうことは相手を助けることになります。それを見逃す技術を身につけられるか否かが勝敗を分けると言っても過言ではありません。

 加えて高校以降、ステージが上がるほど低めの変化球のキレは上がるわけですから、今の段階でそれを見逃すことの重要性を理解し、技術を身につけておくことにも意味があると考えています。

新3年生33人の高校通算本塁打が200本超え。一部の選手ではなく、満遍なく長打を打てるのが現チームの特長だ。一人ひとりが成果を出すための手法として、数値を用いた選手評価を行うことや出場機会を平等に与える体制を構築していることが挙げられる。

 打撃に限らず、選手を動機付ける一つの方法として数値を用いています。例えば、スイングスピードは定期的に計測し、ランキングを掲示しています。これにより選手間に競争心が生じているようです。

 そして、スイングスピードを上げるのにも、技術要素や体力要素など、さまざまなものがかかわってきますので、コーチやトレーナーが連携することも重要です。コーチたちが求める「遠くへ飛ばす」「強い打球を打つ」バッティングを実現するために、トレーニングコーチが体づくりや動きづくりのメニューを考えてくれています。


    打撃基礎トレーニング1   
ランジ捻転
前方にランジをしながらサプルバットを振り込む。踏み込み脚の股関節、ヒザ関節を固定させた状態で上半身をリズム良く捻転させる。上半身を踏み込み脚側に振り込みながら下半身を踏み込むのがポイント。下半身と上半身のリズムがかみ合わなければ踏み込み足のヒザが割れてしまう。ヒザが割れないように、軸をつくって体幹を捻転させる。

 また、打力を上げるには実戦経験も大事になってきます。ウチではシーズンに入ると、主力のAチームと育成のBチームに分けて練習試合を行っていきますが、できる限り打席数が平等になるように配慮しています。そのため、結果が出なかったり、打てなそうといった理由で交代させることはせず、その試合であらかじめ決めた打席数は必ず立つようにします。打席で得た経験を生かして練習してもらうためです。

 それはスタッフ間ではルールとして決めていることです。われわれも人間ですから、そのあたりを管理、ルール化していなければ、個人の主観的評価で選手の出場機会にも差が出てしまったり、その打席だけの結果を見て代えてしまったりすることがあるからです。

 大会でのベンチ入りを決める際などは、打撃であれば出塁率や打点、得点圏打率などを見ていきますが、そこでは印象とは異なる数値が出るケースがあります。自分の物差しで選手を評価していると、レギュラーやベンチ入りの人選も自分の好みに偏る傾向があると思います。それだと戦術の幅が広がりませんし、何より選手が平等に評価されているとは感じづらい。印象と実際の齟齬をなくすためにも、数値は必要です。


    打撃基礎トレーニング2   
シャッフル捻転
 肩にシャフトを担ぎ、側方にシャッフルした上で体幹を捻転させる。シャッフルで生じる横向きの運動エネルギーを、外側の脚を着いた際に股関節-ヒザ関節-つま先でカベをつくって受け止め、その運動連鎖で上半身を90度捻転させる。骨盤を回旋させるのではなく胸椎をひねることがポイント。

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 健大高崎の練習環境では、メーングラウンドや室内練習場、合宿所といったハード面の充実もさることながら、目を見張るのは10人ものスタッフ(外部コーチを含む)がそれぞれの担当に責任を持って選手とかかわる整った指導体制だ。打撃で言えば、中心になって指導する生方啓介部長と赤堀佳敬コーチの技術論に添うように、塚原謙太郎トレーニングコーチがトレーニングメニューを提供するといった具合。スタッフの総力で選手の目標達成をサポートしている。

 今春卒業した3年生32選手のうち、次のステージで野球を続けるのは31人。1人は消防士を志して、その道に進みます。ほとんどの選手が野球を続けるので、そのためにも今の段階で必要な技術を身につけておく必要があると考えています。

 選手とは進路の話をたびたびするようにしています。進路を念頭に置くことで、野球に取り組む動機付けが強まると思いますし、高校野球の先を見越すことで、本当に今やるべきことが見えてくると思うからです。大学、社会人、プロと進めば、それだけ経験値が高まりますし、野球以外の面でも人間関係を築きながら学ぶことができます。甲子園で勝つことは目標にしたいけれども、そこをゴールにしないことで、ワンランク上の取り組みができるのではないでしょうか。

 また、昨年来のコロナ禍で、自ら取り組める選手でないと本当に必要な力は身についていかないと感じています。組織やチームメートに頼らない自立した考え方が必要です。自分で自分の目標に向かって頑張ることが大切で、それで結果を得ることができれば、それだけ世界を広げることができます。そうして自分の力で切り開くことが求められる世の中です。われわれ指導者の役割は、その力を身につけるサポートをすることです。そのための体制をつくることを心掛けているつもりです。

Part2に続く

【ベースボールクリニック2021年3月号掲載】

写真◎BBM

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