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2021-07-16

【陸上】寺田明日香が違和感を持ちつつも「ママアスリート」として活動する理由【連載#2】

東京五輪女子100mH代表の寺田明日香(ジャパンクリエイト)

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陸上競技からの引退、結婚、出産、7人制ラグビーへの挑戦を経て、陸上界に復帰した女子100mハードルの寺田明日香選手。東京オリンピックでは日本女子短距離で57年ぶりのファイナルを目指しています。7月31日の女子100mハードル予選まで、陸上競技マガジンに掲載された寺田明日香選手の連載を毎日公開!
 
※このコラムは『陸上競技マガジン』2020年3月号に掲載されたものです。

「ママさんアスリート」に実は違和感あります

「ママさんアスリート」

 競技活動をする私は、よくこのように呼ばれています。私自身のSNSでも、「#ママアスリート」というハッシュタグをつけて発信することもあります。ただ、これに対して少なからず何らかの違和感をお持ちになる方はいらっしゃるのではないでしょうか? 実をいうと、私もその違和感を抱いている一人です。

「ママさんアスリート」という言葉があるのならば、「パパさんアスリート」という言葉もあるべきなのでは、と思いますが、そういった言葉はあまり聞きません。男性アスリートのなかで、お子さんがいらっしゃる方は多いです。陸上競技だと、十種競技の右代啓祐選手(国士舘クラブ)や、やり投の新井涼平選手(スズキ浜松AC)は「パパさんアスリート」です。

 なぜ「パパさんアスリート」の言葉はあまり使われないのに、「ママさんアスリート」は多く使われるのかと考えると、日本においてはパパでもアスリートをしている選手が圧倒的に多く、母親になってから競技に復帰して結果を残す女性アスリートはごく少数であることが、そもそもの理由だと思います。そして、妊娠期から産後期の心身への負担は、圧倒的に女性の方が高いことと、今の社会が女性の社会進出や男女平等を目指しているという背景もあるのではないでしょうか。

 世界に目を向けてみるとどうでしょうか。2019年に行われたドーハ世界選手権では、100mのシェリー=アン・ フレーザー=プライス選手(ジャマイカ)、私も出場した100mHのニア・ アリ選手(アメリカ)が「ママさんアスリート」として優勝しました。オリンピックの最多メダル獲得数を持つアリソン・フェリックス選手(アメリカ)は出産して世界の舞台に戻ってきました。

 優勝やメダル獲得には至らなくても、子どもを産んでからカムバックしている選手は多く存在します。

「日本人には難しい、無理」と言われていた記録を誰かが破ったとき、そのほかの選手は「私にもできるかもしれない!」「私もやってやる!」と、少し前まで手の届かないと思っていた記録も一気に手の届きそうなものに感じることがあります。誰も超えたことがないものにチャレンジし、先陣を切って進んでいくのは、勇気がいることですし、もしかしたらすごく嫌なことが伴うかもしれません。ですが、誰かが壁の向こうに進んだ瞬間、その壁はもう万人にとって壁ではなくなります。

「ママさんアスリート」も同じで、誰かがやったとき、多くの人が「できるんだ」と思えるようになるのではないでしょうか。

日本選手権を見守る果緒ちゃんと夫の佐藤峻一さん。峻一さんは果緒ちゃんをドーハ世界選手権にも連れて行ってくれた
日本選手権を見守る果緒ちゃんと夫の佐藤峻一さん。峻一さんは果緒ちゃんをドーハ世界選手権にも連れて行ってくれた

文◎寺田明日香 写真◎BBM

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