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2021-07-28

元ソフト日本代表・山根佐由里が見た東京五輪決勝戦「15人が同じ方向を向いていた」

7月21日(水)から27日(火)まで、福島・あづま球場、神奈川・横浜スタジアムで開催された『2020東京オリンピック』ソフトボール競技。ソフトボール・マガジンWEBでは、元日本代表の山根佐由里さんに、各試合を振り返っていただく。本日は、27日(火)に行われた決勝戦、そして大会を通しての日本の強さについて語っていただいた。


序盤のピンチを切り抜ける
経験が生きた上野の好守備


 日本代表の皆さん優勝おめでとうございます! 決勝戦は本当に最高のゲームでしたね!

 まずは、上野由岐子投手。本当にすごい投手だと、あらためて思わされた試合でした。上野投手の投球はいつも以上に安定感を感じて、「今日は大丈夫だ。きっとゼロでいく」と思いました。オーストラリア戦やメキシコ戦では結構球数が多かったですが、決勝戦では三振をバンバン取るというよりも内野ゴロを打たせてアウトを取り、しかしここぞというところでは三振を取って味方の攻撃につなげることを意識していたように思います。予選リーグでの投球も良かったですが、決勝戦はいっそう「絶対に金メダルを獲る」という気持ちが表れていたように感じました。

 初回、ジャネット・リード選手に三塁打を打たれたあと、パスボールが続きました。アメリカ打線はヒザ元へのボールをとらえてくるので胸元から落とすボールで誘おうとして、それを意識し過ぎた結果なのかなと思います。でも、中盤以降はそういったこともなくなり、初回は球数も多かったけれど、試合の中で修正されていましたね。

 何より、ワンバウンドしてリード選手が本塁に突入しようとした際の、上野投手の瞬時の判断が冷静でした。慌てると走者をブロックしてしまい、走塁妨害を取られるということもよくあります。そういった点も自然と考慮して、落ち着いてアウトにした。これまでの経験が生きた守備だったと思います。2回の1→6→3の併殺守備も完ぺきでしたね。あれも、内野をうまく使った、上野投手にしかできないプレーでしょう。さすがレジェンドだなあと感じました。

1回にJ.リードの本塁突入を阻止した上野の好守備。最大のピンチも冷静に切り抜けた(Getty Images)
▲1回にJ.リードの本塁突入を阻止した上野の好守備。最大のピンチも冷静に切り抜けた(Getty Images)


前日のアメリカ戦での完投が
藤田の打席の準備になった

 4回表、先頭打者の藤田倭選手が右前打で出て、山崎早紀選手、我妻悠香選手がしっかり送った。その後、市口侑果選手がよく見て粘って四球で出たこともいい働きだったと思います。そして渥美万奈選手の内野安打で先制。投手と二塁手の間という、打った位置も良かった。バットコントロールのうまい選手で、ベテランの技が光りました。

 九番打者は、前に走者がいたらしっかり送り、先頭打者ならどういう形で一番につなげるかを考えなければいけない打順。1打席目は粘って粘って四球を取りましたが、そういった九番打者の役割を理解し徹底できていたのが、昨日の渥美選手だったと思います。

 5回にも大事な追加点を挙げました。二死から、山本優選手がチェンジアップにうまく合わせてセンター前に打ち返した。ここで1点を取ったら試合展開が変わるということを分かっている、さすがの打撃でした。そして、ここで代わったモニカ・アボット投手から、4回にも打っている藤田選手が右前に適時打を打ちました。打ちたい打ちたいとはやることなく、2ストライクになっても自分のバッティングができていました。心は熱いけれど、頭は冷静という打席でしたね。

 藤田選手は「打って投げてこそ藤田倭だ」という気持ちが強い選手です。そういう点では、前日のアメリカ戦で先発し、負けはしたけれど、いいところも光った投球ができたことが大きかったと思います。しっかり投げられたからこそ、決勝は打撃で貢献しよう、打つことで勝とうと気持ちを切り替えることができたのではないでしょうか。前日の試合を一番生かせていたのは藤田選手だったかもしれないですね。

今大会MVPの藤田(左)。尊敬する上野(右)を支える好打を見せた(Getty Images)
▲今大会MVPの藤田(左)。尊敬する上野(右)を支える好打を見せた(Getty Images)

 
渥美の準備が生んだ
奇跡のダブルプレー

 6回裏、ミシェル・モールトリー選手に安打を打たれたところで、日本は投手を上野投手から後藤希友投手に交代します。後藤投手に経験を積ませたいということと、ヘイリー・マクレニー選手、リード選手と左打者が続くというタイミングでの決断だったと思います。アメリカから伝わってくるオーラを感じたのか、後藤投手も顔が緊張していましたね。でも、今大会当たっているマクレニー選手を三振に取ったのは見事でした。外のボールを見せて最後は中という、我妻選手の配球もすごく良かったです。モルトリー選手は引っ張るので、もし右前に打たれていたら一、三塁でリード選手を迎えるという大ピンチに陥ってしまう。確実に三振を取らなければいけないところだったので、完ぺきでした。

 そして、リード選手に中前打を打たれて一、二塁となり、アマンダ・チデスター選手の打席でのダブルプレー。あれはもう、神様が日本に微笑んでくれたとしか言いようがありません。山本選手の手首に打球が当たっていなかったら渥美選手も捕れなかったでしょうし、あの山本選手が捕れないほどの打球ですから、打ったチデスター選手も「何が起こったの?」という顔をしていましたね。

 ただ、チデスター選手は引っ張りが得意なので、渥美選手は三遊間を意識していたのではないでしょうか。そういった準備があったからこそできたプレーなのかもしれないと思っています。

 これまでチームを引っ張ってくれていた上野投手に最後にマウンドに立っていてもらいたいと思っていたのですが、やはり最終回に宇津木麗華ヘッドコーチは再び上野投手をマウンドに送り出しました。そして、しっかり3人で抑えて見事優勝に輝きました。

6回に神業のダブルプレーを見せた渥美(右)。山本(左)との三遊間は鉄壁だった(Getty Images)
▲6回に神業のダブルプレーを見せた渥美(右)。山本(左)との三遊間は鉄壁だった(Getty Images)


1人きりに頼らない
15人全員で勝ち取った優勝

 今大会のアメリカは打撃があまり怖くないという印象でした。いつもの国際大会ではホームランをたくさん打っているのに、今大会は1本だけ。打線の調子があまり良くなかったのかなと思います。一方で、日本は調子のいい選手が多かった。「勝ちたい」という気持ちの強さは日本もアメリカも同等だっただけに、調子のいい選手がいるかどうかが勝敗を分けたのかもしれません。

 日本の戦いを振り返ってみると、初戦はホームラン、2戦目は小技、3戦目は長打、4戦目は延長でしっかり山田恵里選手が打ってと、いろいろなパターンを成功させて勝ってきました。大事な大会でさまざまな戦い方ができることは重要で、それで決勝戦もより自信を持って臨めたのかなと思います。そして大会を通してノーエラーだったことも素晴らしいです。

 また、これまでの大会では上野投手一人に頼りきりという部分もありました。しかし、今大会は、上野投手はしっかり試合をつくってくれたし、後藤投手もチームを救い、藤田投手が第5戦のアメリカ戦で完投したことも決勝戦に生きました。投手3人で試合をつくれていたのは日本にとって、とても大きかったですよね。野手陣も同じで、試合ごとにヒロインが違いましたし、誰かがエラーしても補い合うことができていました。一つの目標に対して、15人みんなが同じ方向を向いている。それが強さの秘訣だったのではないかと思います。

日本代表チーム全員で13年ぶりの連覇をつかみ取った(Getty Images)
▲日本代表チーム全員で13年ぶりの連覇をつかみ取った(Getty Images)

遅くも涙を飲んだアメリカだが、随所に素晴らしいプレーを見せた(Getty Images)
 ▲遅くも涙を飲んだアメリカだが、随所に素晴らしいプレーを見せた(Getty Images)



【PROFILE】
やまね・さゆり/1990年1月24日、三重県生まれ。右投右打。投手。宇治山田商業高-レオパレス21(2008年~09年)-トヨタ自動車(10年~17年)。トヨタ自動車では12年から16年までの5年間でリーグ記録の42連勝を打ち立て、14年には最優秀投手賞を受賞。日本代表では10年、14年、16年と世界選手権出場。17年限りで現役を引退し、現在はトヨタに勤務しながらソフトボール普及のためメディア等で活躍中。

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