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2021-08-13

【ボクシング】キャリアの重みを見せつけた! 吉野修一郎がTKO勝ちでV7

いつもの安定感を欠いた吉野(左)は序盤戦、仲里の速いパンチに苦しんだ

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 日本ライト級タイトルマッチ10回戦は12日、東京・後楽園ホールで行われ、チャンピオンの吉野修一郎(三迫)が、日本ランキング10位の挑戦者、仲里周磨(ナカザト)の左目上を切り裂き、6ラウンド2分20秒でTKO勝ちし、7度目の防衛に成功した。最終的には負傷によるストップだったが、4ラウンドからは吉野が完全にペースを掌握していた。なお、吉野が日本タイトルと同時に保持している東洋太平洋、WBOアジアパシフィックのタイトルはこの試合にはかかっていない。

「これまで7度防衛してきましたが、一番悪い試合でした」

 勝利を告げられた吉野がリング上で語ったこの言葉が、すべてを物語っている。序盤の2度のピンチを難なく乗り越えて、4ラウンドからはほぼ自在にコントロールし始めたが、いつもの安定感を欠き、一瞬の切れ味はついぞ見せないままだった。それでも完勝に導いたのは、キャリアの差だった。プロでの戦績こそ、これで14戦全勝(11KO)の吉野より15戦10勝(7KO)2敗3分の仲里が数で上回っているが、中身が全然違う。吉野はこれが9度目のタイトルマッチ、一方の仲里は2度目の10回戦で、ライト級では初めての戦いだ。

 さらに吉野の強みは、アマチュア134戦104勝の経験を含む経験の中から作り出した攻防の厚み。今までの経験をうまく自分のボクシングに投影できる攻防の造形能力というべきものだった。一発のパワーはそれほどでもないにしても、多彩なアプローチで次第に対戦者を蹂躙していく展開管理能力の高さがある。その吉野に比べれば、仲里は“まだアオい”と言われても仕方ない。序盤戦、チャンピオンの“キャリア”の壁をぶち壊すチャンスは確かにあったのだが、これを生かせなかった。

 初回だった。仲里のオーバーハンドの右クロスがクリーンヒットする。「パンチは考えていたほどではなかった」と吉野は言ったが、この一発に狼狽したのは確かだ。仲里のフォローが遅れたのをいいことに、すぐさまクリンチでしのぐ。両者の体が離れても、吉野の動きはどこかぎこちない。ここで仲里がまとめ打ちをしておけば、その後が大きく変わった可能性もある。ただ、ずっと狙っていた相打ちにこだわったか、仲里はそうしなかった。吉野はそこに付け込んで2ラウンドに精力的に攻め、仲里を囲い込んでいく。

 3ラウンドにも仲里にはチャンスはあった。左フックの好打で、またしても吉野はたじろいだ。ここでは吉野のしぶとい応戦もあって、仲里は大胆な攻撃に転じることはできなかった。その上、挑戦者にはジャブがない。また、吉野のアプローチを防ぐワンツーも見えない。いずれ流れが吉野へと巡るのは、この時点ですでに予測できた。

 案の定、吉野は4ラウンドからはっきりとペースを掌握する。相手のスキをついて、粘っこい連打で追い立てた。さらに仲里はこのラウンド終盤、吉野の右ストレートを浴びて左目上をカットする。流血に苦しむ仲里はいよいよ厳しくなる。吉野の左フックにふらつくシーンもあった。

 仲里も5ラウンドには左のボディブローで追いすがるが、吉野の攻勢を食い止めることはできない。6ラウンドも、左フックで仲里がぐらつく場面もあって、そのまま負傷ストップの結末まで、吉野の優勢は続いた。

 海外進出を目指す吉野の不出来には11ヵ月間のブランク、さらに選任トレーナーの椎野大輝氏の急病による『病欠』も微妙に影響していたのかもしれない。「パンチが当たるたびに(仲里が)いやな顔をするのが見えてました」。状況を正しく見きわめられる総合力の高さが維持できて、いつもの鋭さが甦れば、念願の世界進出も現実になる日は遠くはないのだろう。

「ベルトを沖縄に持って帰る」と意気込んでリングに立った仲里には、この敗戦を今後に生かす手立てを考えてほしい。それだけの潜在能力は証明できたと思う。

文◎宮崎正博 写真◎菊田義久

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