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2021-08-17

【泣き笑いどすこい劇場】第3回「あのとき、あの発言」その1

力士なら誰もがあこがれる大関・横綱昇進の口上。しかし、それもよく考えないと損することに?(写真は白鵬の大関昇進伝達式)

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あのとき、あんなことを言ったばかりに、と後で後悔したことはありませんか。“口は災いの元”、いいえ“口は幸運の元”でもあります。思い切って口に出して言ったおかげで、思いもしなかったいいことや、ときにはその反対のことも起こったりします。この際、腹の中にしまって置かず、堂々と言ってみてはいかがです。今回の悲喜劇ポイントは、あのとき、あの発言のおかげで――です。

口上が元で……

力士になったら、ぜひ言ってみたい、と誰もが思うのが横綱、大関に昇進して朗報を伝える協会からの使者を迎えたときの口上だ。ただならぬ緊張状態にあることは、謹んでお受けします、と言うべきところを、「喜んでお受けします」と正直に言ってしまったり、言葉に詰まって押し黙ってしまったりした横綱、大関がいたことでも分かる。

平成19(2007)年夏場所後に白鵬が横綱になったときの口上は、

「精神一到を貫き、相撲道に精進いたします」

という非常にオーソドックスで力強いものだった。この1年2カ月前、平成18年春場所後に大関に昇進したときの口上も、

「大関の地位を汚さぬように、全身全霊をかけて努力します」

とそのときの決意を表す四文字熟語を織り込んだ。この“全身全霊”という言葉をわざわざ選んで入れた理由を問われた白鵬は、「身と心、すべてを相撲に捧げたいという気持ちを込めました」と話している。いかにも相撲一途の白鵬ならでは口上だったといっていい。

このとき、白鵬は21歳。若い大関誕生に日本中が沸き、その人気を当て込んで、さっそくある酒造メーカーからご祝儀代わりのCM出演依頼が舞い込んだ。このありがたい申し出に眉を曇らしたのが育ての親の熊ケ谷親方(元幕内竹葉山、現宮城野)だった。

「全身全霊、と言った舌の根も乾かないうちに、酒のコマーシャルをやるワケにはいかんだろう」

とクビをひねり、結局、このCM出演話、ご破算になった。口上のおかげでせっかくのアルバイトが吹っ飛んだのだ。一世一代の口上も、よくよく考えてやらないと、あとで思いがけない支障が出てくることもあるんですね。

月刊『相撲』平成23年1月号掲載

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