WBC世界ヘビー級タイトルマッチ、チャンピオンのデオンテイ・ワイルダー(アメリカ)対挑戦者ルイス・オルティス(キューバ)の12回戦は23日(日本時間24日)、アメリカ・ネバダ州ラスベガスのMGMグランドで行われ、ひとつとして火花が見えない静かな展開から、ワイルダーの右ストレートが炸裂。7回2分51秒KO勝ちを収めた。前座として行われたWBAスーパー世界スーパーフェザー級王座決定戦12回戦は、レオ・サンタクルス(メキシコ)がミゲール・フローレス(アメリカ)を3−0の判定に下し、4階級制覇に成功している。
上写真=右ストレート一撃。ワイルダーはものの見事にKO防衛
このまま最後のゴングを聞いたなら、年間最低試合(もしそんな賞があればだが)にも選ばれかねない。というよりも、ワイルダーからのアプローチが一切なく、ひたすら偵察戦が続く。前座からヤマ場を欠く試合が続き、観客のフラストレーションがはちきれそうになっていたそんなときだった。ワイルダーの右ストレートが初めてオルティスの顔面を打ち抜いた。仰向けに倒れ込んだ40歳のキューバ人は、カウント7で立ち上がったが、ポーズをとれない。レフェリーのケニー・ベイルズはそのままカウントアウトする。ワイルダーの防衛が大台の『10』に乗った瞬間だった。
なんという結末だ。予感などどこにもなかった。ワイルダーの一撃の破壊力は、史上有数と言っても過言ではないというのはだれもが承知していた。だが、こんな結末になるとの予測は、試合中、ただひとりの胸中にもなかったろう。その右が炸裂するまで、ワイルダーはほとんど何もしなかった。20ヵ月前、激闘の末に組み伏せたサウスポー、オルティスが狙うカウンターの左ストレートを警戒して、はるか遠い位置で戦いを進めた。その間にパワーパンチはいくつあったのか。確かなのはそのすべてが、見当はずれの場所で空転していたことだ。逆にオルティスは左ストレートをかすめさせ、ときに右フックの返しもちらつかせて、ポイントをスチールしていた。(採点は59対55が2者、58対56が1者でいずれもオルティスのリード)
7回の開始ゴングを迎えて、様相はわずかながら変わっていたのも確か。ワイルダーが左フックのボディブローを見せて、オルティスの鉄壁のガードを崩しにかかる。しかし、それも大きなエピソードを生むことなく、ラウンド終了を迎えようとしたときの突然のKO劇だ。オルティスもチャンピオンのパンチに反応し、左ガードを上げたのだが、ワイルダーのライトがその内側をきわどくすり抜け、それですべてが終わる。評価は一転。『だから、ヘビー級ボクシングは恐ろしい』。
「オルティスは危険な相手だ。アウトサイドに出たり、左を使ったりといろいろしながら、右をねらっていたんだ」
静かなる戦いもすべては計算どおりとワイルダーは得意顔だった。次戦は決まっている。ドラマチックな戦いの末にドローに終わったタイソン・フューリー(イギリス)との再戦が来年2月22日、この日と同じMGMグランドでの開催になる。
「その試合で勝って、それから統一戦だ。世界チャンピオンはひとりでいい。それはこの俺だ」
敗れたオルティスは、「これがボクシングだ」とだけ言い残してリングを去った。
ワイルダーは43戦42勝(41KO)1分。オルティスは35戦31勝(26KO)2敗2無効試合。
メキシカンとして5人目の4階級制覇を狙うレオ・サンタクルスは、どこまでも慎重に戦った。対戦相手のミゲール・フローレスはここまでトップクラス相手との戦いに実績がなく、もっと大胆に戦ってもよかったのだろうが、それも大きな栄光を懸命に追い求めた男の心情と、好意的に考えるべきなのだろうか。
足を使いながらときおり左右を振ってくるフローレスを、サンクルスは右クロスから攻め崩しにかかる。3回以降は左フックを使いはじめ、いよいよフローレスにつけ入りスキを与えなかった。中間距離になると対抗する手立てのないフローレスは8回にホールディングで減点されるなど、最後まで『勝てる形』が見つからないまま、終了ゴングを聞いた。
この日は世界戦がもうひとつ行われ、WBA世界スーパーバンタム級チャンピオンのブランドン・フィゲロア(アメリカ)が、フリオ・セハ(メキシコ)と引き分けて、辛くもタイトルを守っている。
大きくウェイトオーバー(2.1キロ)し、勝ってもタイトルを手にできないセハは、初回、左ボディショットを打ち込まれて動きを失うなど、早い決着が見えていたのだが、5回以降、フィゲロアが急速にスローダウン。セハの懸命のショート連打が上回る。最終回、フィゲロアはラストスパートをかけて、なんとかタイトルにしがみついた。
22歳と若く、高い将来性が見込まれるフィゲロアだが、もう少しクィックな攻防を身につけないと、前途は怪しくなる。
文◎宮崎正博 写真◎ゲッティ イメージズ
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