close

2021-12-10

【連載 名力士ライバル列伝】元大関・大受久晃が語る「押し一徹」の土俵人生――前編

塩をたたきつけるような所作は闘志の表れでもあった

全ての画像を見る
「ケレン味のない」という言葉が、
これほどぴったりと当てはまる相撲ぶりもないだろう。
叩きも知らず、引くことも知らず、ひたすら前に出て相手を土俵の外へ。
新入幕技能賞に、初の三賞独占――全盛は短くとも、
純粋に「押し一筋」で花を咲かせたその生き様は、心の琴線に響く潔さがある。
元大関大受の堺谷利秋氏が回想する。
※平成28~30年発行『名力士風雲録』連載「ライバル列伝」を一部編集。毎週金曜日に公開します。

『自分にはこれしかない』という信念が大切

昭和45(1970)年夏場所で入幕を果たし、9日目に同じ25年生まれの貴ノ花との初対戦。彼は18歳で関取になり、私より1年半も早く入幕していますから、初めはライバルというよりも「すごいなあ」という羨望の目で見ていました。のち三役で競い合い「次は『貴受時代』か」などと言われたころは、同い年ですし意識もしましたけど、彼は人気面でも圧倒的でしたからね。

幕内初対戦でも、彼は軽そうに見えてしぶとく、押してもなかなか下がらない。ただ、それに対して私のほうも止まることがなかった。途中で右上手を取られたときも、一瞬左下手廻しに手をかけそうに見えながら、さらにハズで押し返した。やはり私の場合、廻しを取られて組んでしまっては99パーセント勝てない。止まらずに常に動き続けることで、廻しが切れて自分の体勢に持ち込める可能性が出てくるのです。

この場所、成山さん(昭和28年秋場所)以来の新入幕技能賞をいただきますが、それまでは多彩な技で勝つ四つ相撲タイプが受賞することが多かったですから、純粋な「押し」を技能として認めてもらえたことは、うれしかったですね。

関取になってからは部屋で稽古することは少なく、もっぱら師匠(高島親方、元大関三根山)とともに出稽古へ。この新入幕場所前にも、二所ノ関部屋に行って大鵬さんや大麒麟さんに稽古をつけてもらいました。でも、大麒麟さんはまだ押せましたけど、大鵬さんは柔らかい上に重くてどっしりとして、押してもピクリとも動かない。本場所でも初顔合わせから3連敗。だから、昭和46年春場所(4日目)で初めて勝てたときは、信じられないというか、夢を見ているような感じでしたね。

大鵬さんは同じ北海道出身の英雄。同郷ということで、いろいろな面で目を掛けていただきましたし、大鵬部屋ができたときは一門が違うのにお祝いに駆け付けたほど尊敬していました。そんな方に1勝でもすることができたというのは、やはり忘れられない一番ですね。(続く)

対戦成績=大鵬3勝―1勝大受、北の富士13勝―3勝大受、貴ノ花15勝―8勝大受

『名力士風雲録』第21号清国 前の山 大麒麟 大受掲載

PICK UP注目の記事

PICK UP注目の記事



RELATED関連する記事