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2021-12-21

【泣き笑いどすこい劇場】第5回「力士の憧れ 天皇賜盃」その4

平成18年春場所、千秋楽の優勝決定戦で朝青龍に敗れた白鵬。こういった数々の悔しさをバネに大横綱へと成長していった

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賜盃が消えた――。一部の力士の許されざる不正行為によって平成23年春場所が中止になった。野球賭博問題で揺れた前年の名古屋場所でも、相撲協会は天皇賜盃を辞退し、優勝した横綱白鵬はたった7分で終わった表彰式で、「天皇賜盃だけは頂きたかった」と号泣した。それからまだ半年あまりしか経っていないのに、今度は場所すらなくなったのだ。関係者の悔しさはいかばかりか。どうか、思い出して欲しい。力士たちがどんな思いであの賜盃を目指してがんばっているか。そこには絶対に禍々しいものはない。というワケで、今回のキーワードは場所中止というショッキングな出来事があったにもかかわらず、あえて“天皇賜盃”にしました。一日も早い場所の再開を信じて。

誓いのキス

思い続ければ、いつか願いは叶うものだ。平成18(2006)年春場所千秋楽、当時関脇だった白鵬(現間垣親方)は大関魁皇(現浅香山親方)に敗れ、これまた大関栃東(現玉ノ井親方)に敗れた横綱朝青龍と優勝決定戦にもつれ込んだ。初めての優勝決定戦だった。

軍配が返ると、白鵬は得意の右四つ、左上手もガッチリ取って万全の態勢を築いた。しかし、その足元に思いもしない落とし穴が大きな口を開けていた。よし、いける、と思った瞬間、海千山千の朝青龍が放った捨て身の下手投げをまんまと食ったのだ。まさかの逆転負け。後年、無敵の白鵬もこういう苦い目にあっているのだ。

肩を落として引き揚げてきた白鵬の目に、間もなく始まる表彰式に備えて優勝賜盃やトロフィー、賞品が次々に運ばれてくるのが見えた。勝っていれば、白鵬のものになるはずの品々だった。これらを目にすると、白鵬は急に歩くスピードを速めて賜盃のそばに駆け寄ると、唇を寄せてチュッとキスをした。

これには、付け人をはじめ、まわりの者もびっくり。どうしてこんな唐突なことをしたのか。後日、白鵬は、

「次(優勝)はオレだって言う意味でね」

と頬を赤らめて話した。誓いのキス、約束のキスだったのだ。

場所後、大関に昇進した白鵬は、新大関で臨んだ次の夏場所、この言葉通り、優勝決定戦で関脇雅山を破って初優勝。

「自分を信じてがんばりました」

と念願の賜盃をしっかりと胸に抱いた。このとき21歳2カ月。史上4番目の若年優勝だった。

月刊『相撲』平成23年3月号掲載

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