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2021-12-14

【泣き笑いどすこい劇場】第5回「力士の憧れ 天皇賜盃」その3

常に闘志むき出しの朝青龍に思わぬ落とし穴が――

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賜盃が消えた――。一部の力士の許されざる不正行為によって平成23年春場所が中止になった。野球賭博問題で揺れた前年の名古屋場所でも、相撲協会は天皇賜盃を辞退し、優勝した横綱白鵬はたった7分で終わった表彰式で、「天皇賜盃だけは頂きたかった」と号泣した。それからまだ半年あまりしか経っていないのに、今度は場所すらなくなったのだ。関係者の悔しさはいかばかりか。どうか、思い出して欲しい。力士たちがどんな思いであの賜盃を目指してがんばっているか。そこには絶対に禍々しいものはない。というワケで、今回のキーワードは場所中止というショッキングな出来事があったにもかかわらず、あえて“天皇賜盃”にしました。一日も早い場所の再開を信じて。

代役はつらいよ

これとは別な意味で、賜盃の重さをひしひしと感じた人もいる。平成19(2007)年名古屋場所の優勝は横綱朝青龍だった。ところが、この直後、夏巡業に休場届を提出して帰国したモンゴルで“サッカー疑惑事件”を引き起こし、2場所出場停止という厳しい処分を受けた。土俵に上がれなくなったのだ。

このため、次の秋場所初日の優勝賜盃と優勝旗返還、優勝額の除幕式は師匠の高砂親方(元大関朝潮)が代役をつとめた。高砂親方が賜盃を手にするのは自分が初優勝した昭和60(1985)年の春場所以来、実に22年ぶりのことだった。紋付ハカマ姿で登場した高砂親方は、愛弟子の朝青龍に対する対応のまずさもあったため、

「コラッ、もっとしっかりしろ」

という手厳しいヤジも浴びたが、なんとか無事に北の湖理事長に賜盃を返還。汗びっしょりで花道を引き揚げてくると、

「(土俵に上がるのは)久しぶりなので、緊張したよ。賜盃? やっぱり重かったな」

と苦笑いしながら話した。こういう代役だけはしたくない。

月刊『相撲』平成23年3月号掲載

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