アメリカでは、NFLと並んで、人気スポーツの2トップと言い切っても過言ではないのがカレッジフットボールだ。この熱狂の度合いを日本で伝えるのは少し難しい。例えば、日本の野球ファンの真夏の楽しみである高校野球が、毎週土曜日にだけ、全国各地で試合があり、好カードはテレビ放送がある。そして土曜日にはプロ野球の試合は決して開催されない。スポーツニュースも高校野球一色。そんな状況が1シーズン4カ月続くとしたらどうだろうか。それが米国のカレッジフットボールとNFLの「共存・共栄」の関係だ。
NCAAカレッジフットボール 2021 プレーオフ 緊急生中継!
その熱狂を、お正月から、日本でも味わえることになった。シーズンの集大成ともいえるボウルゲーム計5試合を、日本テレビ系のスポーツ専門局、ジータスが生中継することになったのだ。実況アナウンサーに、増田隆生さんと近藤祐司さん、解説は森清之さん、村田斉潔さんというNFL中継でおなじみの顔ぶれ。さらに、雑誌TOUCHDOWNで健筆を振るい、現在もSNSで情報発信を続ける、在米のフットボールアナリスト・秋元諭宏さんも加わる充実の布陣だ。
アメリカンフットボール・マガジン編集部は、この「豪華なお年玉」の楽しみ方を連載していく。また、文末では、最新のカレッジフットボール情報もお伝えする。(写真はすべてGetty Images)
「ボウルゲーム?昔はよく日本でも放送していたよ」というオールドファンも多いが、1990年代まで放送されていたボウルゲームとは、意味合いが、かなり異なるといっていい。
CFPは2014年から始まった。前身の「ボウル・チャンピオンシップ・シリーズ=BCS」による全米選手権が2チームによる決勝のみで争われたのに対し、CFPでは4大学を選出し、トーナメントで王者を決める。BCSが2校の選出を巡って、常に揉め続けたことを反省点として生かし、13人で構成される選考委員会によって4校を選出する。
13人の内訳は、ACC、BIG10、BIG12、PAC-12、SECのカレッジ5大カンファレンス(通称「パワー5」)所属の大学から、現役の体育局長が1人ずつ。さらに、コーチ、選手、体育局長、大学管理者、メディア関係者(すべて前職)が加わっている。メンバーはもちろん実名が公表されていて、任期は3年。地理的にもバランスの取れた構成となっているという。
CFPは既存の4大ボウルゲーム、「ローズボウル」、「シュガーボウル」、「オレンジボウル」、「フィエスタボウル」に、「コットンボウル」「ピーチボウル」を加えた6試合を「ニューイヤーズ6」と位置づけ、そのうち2試合を3年ごとに持ち回りでCFP準決勝とした。1位と4位、2位と3位の対戦組み合わせとなった。
今回の4強は、SECのカンファレンス決勝で、それまで全米ランク1位だったジョージア大に快勝し、レギュラーシーズン最終週で全米1位となったアラバマ大(SEC優勝、12勝1敗)。BIG10のカンファレンス決勝で強さを見せつけ全米2位となったミシガン大(BIG10優勝、12勝1敗)、3位に陥落したものの雪辱を狙うジョージア大(12勝1敗)、史上初めて下位の「グループ5」からCFPに進出したシンシナティ大(アメリカン・アスレチック・カンファレンス優勝、13戦全勝)だ。いずれもNFLが注目するスター選手を何人も擁している。
いずれは「もう一つのスーパーボウル」に
かってカレッジのボウルゲームは、1シーズン戦い抜いた学生選手へのご褒美という色彩が強く、華やかなお祭り騒ぎにあふれていた。今回放送されるCFP準決勝、決勝はそういった華やかなイベント性に、真剣勝負が加味される。見逃すことはできない。
◇
2021年6月、CFP委員会は、トーナメントを現行の4チームから12チームに拡大する案を勧告した。10あるカンファレンス優勝チームのうち、上位6校と特別枠6校が進出。ランキング上位4校がファーストラウンドバイとなるという形式は、2019年までのNFLポストシーズンの枠組みとそっくりだ。そして全米王者決定戦は、1月下旬に予定されるという。この案は決定事項ではなく、有力な拡大案の一つに過ぎないという。だが、「もう一つのスーパーボウル」を作ろうとする動きは、止めることはできないだろう。
オバマ候補も大統領選中にアイディア
カレッジフットボールにはスーパーボウルのような王者を決めるチャンピオンシップゲームが、1980年代までなかった。アメフトは消耗の激しいスポーツであり、数十チームが優勝を争うバスケットボールの全米大学選手権トーナメント、通称「マーチマッドネス」のようなスケジュールを組むことは不可能と考えられていた。また、カレッジフットボール自体が、各大学間の個別の定期戦が集まって形作られてきたという歴史的な経緯もあった。トーナメントのために長いものでは19世紀から続く伝統の一戦やボウルゲームを失くすというのは考えられなかったからだ。
そのため、最も権威のあるAP通信のランキングや、全米のコーチたちによる投票などのランキングで、チャンピオンが決められていた。王座を勝ち取るというよりは、王者として認定を受けるという形だった。ただ、プロのNFLではスーパーボウルを頂点とするポストシーズンが大きな盛り上がりを見せており、カレッジでもチャンピオンシップの開催を求める声は強かった。
1992年に、有力な5つのカンファレンスとボウルゲームが集まった「ボウル・コウリション」という枠組みが出来上がったが、まだ不十分だった。人気のあるBIG10カンファレンスと、カリフォルニア州など西海岸をベースとするPAC10(現在のPAC12)という最も華やかな2大カンファレンスが参加していなかった。
ボウルコウリションは、その後ボウルアライアンスという組織となり、さらにBIG10とPAC-10、それに両者の代表が対戦する最も格式の高い「ローズボウル」が参加して、「ボウルチャンピオンシップ(BCS)」という枠組みに発展した。前後して、1999年1月に第1回のBCS全米選手権が開催された。テネシー大学とフロリダ州立大学が対戦し、テネシー大が勝利した。テネシー大は前年までチームを率いたカレッジ最高のQBペイトン・マニングがNFL入りした翌年に全米王者となったのだった。
出場する2チームは、毎週行われるコーチ投票、メディア、元選手による投票、そして6つのコンピューター・ランキングの平均値をもとに決定された
BCSは、既存の4大ボウルゲーム、ローズ、シュガー、オレンジ、フィエスタと共存した。4年に1度の持ち回りで、BCS全米選手権が4大ボウルのどれかに割り振られた。2006年のシーズンからは、全米選手権は別のゲームとして追加された。
ただ、全米の約130校の中からの2チーム選出は困難で異論が噴出した。ランキングで2チームを選ぶ仕組みは常に不公平感が付きまとった。2004年に13戦全勝でSEC優勝を果たしながら全米優勝戦に進出できなかったオーバーン大のようなケースも出た。
2008年の米大統領選では、当時の民主党のバラク・オバマ候補が「4大ボウルを準々決勝として、さらに準決勝と決勝を新設のボウルゲームとして開催する」8チームによるトーナメントの全米大学選手権を提唱した。米大統領選の候補者が公に話題にするくらい、この問題はスポーツ界のみならず、全米注目の関心事だった。
そして、BCSは発展的に解消し、2014年に現在のCFPが誕生したのだった。
Wケンタッキー大のQBザッピー、現ベンガルズ・バロウのTD記録を破る
現地12月17日から、今年のボウルゲームシーズンは始まった。12月18日の「ボカ・ラトン・ボウル」では快記録が生まれた。ウェスタンケンタッキー大のQBベイリー・ザッピーが、この試合でパス422ヤード6TDを記録。今季通算でパス5967ヤード、62TDとした。
獲得ヤードでは、2003年にテキサス工科大のB.J.シモンズが記録した5,833ヤードを、パスTD数では、2019年にルイジアナ州立大のQBジョー・バロウ(現ベンガルズ)が記録した60TDを、いずれも上回ってカレッジ1部FBSの新記録を樹立した。
ウェスタンケンタッキー大は、パスを多投するスプレッドオフェンスで有名。NFLでは、今季第7週で大活躍しベンガルズを撃破したジェッツのQBマイク・ホワイトが、この大学の出身だ。2022年のNFLドラフトは、有望なQBが少ないとされているが、ザッピーの名は覚えておいてもよさそうだ。
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