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2021-12-22

【アメフト】ローズボウルは「至高のQB」対「究極のLB」 解雇されたあのHCの因縁も カレッジフットの楽しみ方(2) 

「ローズボウル」オープニングで上空を飛ぶB2爆撃機=photo by Getty Images

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アメリカンフットボールの華、米国のカレッジフットボール。108回目の開催となった「ボウルゲームのお爺さん」ローズボウルに登場するのは、出場16回目のオハイオ州立大と、初出場のユタ大だ。

第108回ローズボウル
オハイオ州立大学バッカイズ  vs  ユタ大学ユーツ
(BIG10代表、全米6位)      (PAC-12 優勝、全米11位)

2022年1月1日カリフォルニア州パサディナ、ローズボウルスタジアム
日本時間1月2日午前6時45分から放送【解説】村田斉潔 【実況】増田隆生
 全米大学王者決定戦であるカレッジ・フットボール・プレイオフ(CFP)の準決勝には惜しくも進めなかった両校は、共に19世紀に創部された歴史あるチームだが、対照的な歴史をもつ。そして、最近、不名誉な解雇で全米を驚かせた、あの有名なヘッドコーチ(HC)が、両チームに深く影響を与えているのも面白い。「カレッジフットの楽しみ方(2)」では、チームをけん引する将来のNFLスター候補を中心に、今の両校を紹介する。

2023年のドラフト1位?QBストラウドが率いる強力オフェンス…オハイオ州立大
 オハイオ州立大は、かっては、BIG10カンファレンスらしいフットボールのチームだった。ファンダメンタルを強化しライン戦を制して、強固なディフェンスとランオフェンスで勝ってきた。しかし、過去20年は、新たなパス戦術に積極的に取り組み、NFLドラフトで1巡指名されるような能力の高いQBが増えてきた。ドゥエイン・ハスキンス(2019年ワシントン1巡15位、現スティーラーズ)、ジョー・バロウ(ルイジアナ州立大に転校後、2020年ベンガルズ1巡1位)、ジャスティン・フィールズ(2021年ベアーズ1巡11位)の名は、NFLファンにもおなじみだ。
オハイオ州立大の若き司令塔、QBストラウド=photo by Getty Images

 そして今季のオハイオ州立大も、若く優れたQBが率いている。10月に20歳になったばかりのC.J.ストラウドは、全米でも有名なQB育成プログラム「エリート11」のMVPとして、オハイオ州立大学に入学した。1年間のレッドシャツを経て、今季はフレッシュマン(1年生)としてエースQBとなった。

 ストラウドは、11試合で、パス280/395、成功率70.9%、3862ヤード、38タッチダウン(TD)、5インターセプト(INT)という数字を叩きだした。ハイズマントロフィーの投票では4位だったが、パサーズレーティング182.2は、ハイズマン受賞のアラバマ大QBブライス・ヤングをも上回る数字だった。191センチ99キロと体格にも恵まれ、再来年、2023年ドラフトの全体1位指名有力と目されている。

 11月末の伝統の一戦、対ミシガン大戦で、オハイオ州立大は予想外の苦杯を喫した。ストラウドはミシガン大のDEエイダン・ハッチンソンからの3回を含む4サックと痛めつけられた。それでもパス396ヤード2TDと実力を見せた。

 オハイオ州立大オフェンスのエースは皆若い。QBストラウドが20歳2カ月、ラン1172ヤード15TDのRBトレビヨン・ヘンダーソンが19歳1カ月、パスキャッチ1259ヤードのWRジャクソン・スミスエンジバは19歳10カ月。米国のフットボールで、最も若く将来性にあふれたトリプレッツが、名門バッカイズをけん引している。
オハイオ州立大、19歳のエースRBヘンダーソン=photo by Getty Images

全米トップ評価のLBロイドが率いる強力ディフェンスには日本人選手も…ユタ大

 オハイオ州立大のオフェンスに対抗するのは、ユタ大のディフェンスだ。中心となるのは、MLBデビン・ロイド。プレーリード、ボールへのきゅう覚、アグレッシブな動き、勝負強さ・・・ディフェンダーに求められるものをすべて備えた、全米でも間違いなく3本の指に入るLBだ。

 2年生だった2019年、ロイドは14試合で91タックル6.5サックという傑出した成績を残し、2020年のシーズン後にNFL入りすると見られていた。その時点で評価は2巡以上だった。しかし、2020年ユタ大は新型コロナウィルス感染症の影響で、5試合にとどまった。ロイドは48タックル2サックと試合数を考えれば上々のパフォーマンスだったが、このままプロへ行くのはプライドが許さなかった。ロイドはユタ大に残ることを決めた。

106タックル、8サック、4インターセプトという鬼神の働きを見せたユタ大のLBロイド=photo by Getty Images
 そして凄まじいシーズンが待っていた。ロイドは13試合で106タックル、8サック、22タックルフォーロス、6パスブレーク、そして4インターセプトを記録した。インターセプトのうち2本はリターンTD「ピック6」。2本とも、格上の強豪相手の大事な試合で決めた。スタンフォード大戦と、12月のPAC-12優勝戦、オレゴン大戦だった。ロイドはこの試合のMVPにも選ばれた。

 ロイドの背番号は0。相手のオフェンスをゼロにするLBは、おそらく学生最後となる試合で、有終の美を飾るべく、今この瞬間も牙を研いでいる。

 要注意なのはロイドだけではない。ハワイ出身のDEマイカ・タファは今季、ロイドを上回る9.5サック。チームサック数41は全米5位の数字だ。

ローズボウル初出場を喜ぶユタ大の選手たち=photo by Getty Images
 ユタ大のDEといえば、忘れてはならないのが、早稲田大学から転校した光本周平だ。175センチ98キロ。身長は120人を超すチームの中で下から数えて5番目だが、背番号57で、しっかりとロースター登録されている。レベルの高いユタ大ディフェンスの中では試合出場は難しいかもしれない。しかし、ローズボウルのサイドラインに日本人が選手として立つというだけでも大変なことだ。

ジャガーズを解雇されたコーチ・マイアーが共通点

 オハイオ州立大とユタ大を取り結ぶのは、つい先日、NFLのジャガーズHCを、1シーズンも持たずに解雇されたアーバン・マイヤーだ。マイヤーは2003、2004年にユタ大学でHCを務め、ユタ大を全米注目のチームに育て上げた。2年目の2004年シーズンには12戦全勝で、初めて4大ボウルの一角であるフィエスタボウル(2005年1月)にユタ大を導いた。そして、メジャー校のピッツバーグ大に35-7で完勝した。この時のユタ大のエースQBが、昨シーズンで惜しまれながらNFLを引退したアレックス・スミスだった。

 フィエスタボウルに出場した時点で、マイヤーはフロリダ大への「栄転」が決まっており、マイヤーは部下だったカイル・ウィッテンガムを共同HCとして、フィエスタボウルを戦った。ウィッテンガムはマイヤーがフロリダ大に転出した後、17年に渡ってユタ大を率い、PAC-12への移籍、そして今季はついに初優勝を果たした。
ローズボウルに勝利してトロフィーを掲げるアーバン・マイヤー。オハイオ州立大、ユタ大双方でHCを務めた=photo by Getty Images
 フロリダ大で全米優勝を達成したマイヤーは、その後オハイオ州立大に転身し、スプレッドオプションオフェンスをインストールする。オハイオ州立大はマイヤーの下で強豪校としての地位を保ち続けた。マイヤーが2018年のシーズンを最後に勇退し、後を継いだのが現HCのライアン・デイ。つまり、今回のローズボウルは、マイヤーの後継者同士の戦いということになる。


 オハイオ州立大学

 宿敵のミシガン大とともに、全米で五指に入るカレッジフットボールきっての名門・強豪チーム。愛称はバッカイズ(トチノキ)。1890年創部、全米王座8回、BIG10優勝39回、ボウルゲーム出場54回。2014年に始まった(CFP)にも4回登場している。DBでディフェンスコーチとしても名高いディック・ルボー、DEジム・マーシャル、RBエディー・ジョージ、WRクリス・カーター、OLオーランド・ペースなど、NFLにも数多の名選手を輩出してきた。現在のHC、ライアン・ディは、就任4年目で33勝4敗。本拠地のオハイオ州コロンバスのオハイオスタジアムは、10万2780人収容で、2022年に開業100年を迎える。
オハイオ州立大のライアン・デイHC=photo by Getty Images

 ユタ大学

 創部は1892年と古く、通算では700勝以上の歴史のあるチーム。だが、メジャー校としての認知を受けず、90年以上戦って、10勝以上のシーズンがわずか1回。1990年代まではカンファレンスを転々としていた中堅チームだった。転機をもたらしたのは2003年HCに就任したマイヤー。2年連続で二けた勝利、2004年には13戦全勝。その後のウィッテンガムHCになってからも、シュガーボウルでアラバマ大を破るなど準強豪としての地位を確立し、2011年にPAC-12に移籍した。ボウルゲームは通算17勝6敗。ウィッテンガムHCは実質17年で144勝69敗という成績を残している。愛称のユーツはアメリカ先住民の部族名。
チーム史上初めてPAC-12で優勝し、豪快なゲーターレードシャワーを浴びるウィッティンガムHC=photo by Getty Images

ローズボウル

 現存する最古のボウルゲーム。第1回は1902年(明治35年)1月1日に開催された。同年の1月、日本では青森・八甲田山の旧陸軍雪中行軍遭難事件があった。
 第1回が開催された後、暴力的であるとしてフットボールは試合が認められず、ローマ式の戦車競走やダチョウのレースが行われていたという。毎年開催されるようになったのは1916年から。通常の年は、BIG10とPAC-12 の代表校が対戦する。
 ローズボウルスタジアムの開催は2年ぶり。昨年はCFP準決勝だったが、新型コロナウィルス感染症に対するカリフォルニア州の規制で、テキサス州ダラスのAT&Tスタジアムで開催された。
10万人以上の観客が詰めかけたローズボウルスタジアム。米軍のB2爆撃機がフライオーバー=photo by Getty Images

【小座野容斉】

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