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2021-12-25

【アメフト】次のドラフトで最高評価のQBコーラルが登場するシュガーボウル カレッジフットの楽しみ方(3) 

シュガーボウルに登場する、ミシシッピ大のQBコーラルと、その背後を守るOLブローカー。2人ともNFL注目の逸材だ=photo by Getty Images

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 米国の新年は、アメリカンフットボールのボウルゲームで始まる。現地1月1日、日本時間の1月2日に、ルイジアナ州のスーパードームで行われるのがシュガーボウルだ。今年の顔合わせは、出場10回目の出場の強豪ミシシッピ大学に、2年ぶり3度目のベイラー大学が挑む形だが、同じ南部に位置しながらこれまで対戦はたった1度だけという。「カレッジフットの楽しみ方(3)」では、NFLで活躍した、あの有名QBにまつわるエピソードも混じえて両校を紹介する。(写真はすべてGetty Images)

第88回シュガーボウル
ミシシッピ大学レベルズ(SEC代表、全米8位)   vs  ベイラー大学ベアーズ(BIG12優勝、全米7位)
2022年1月1日ルイジアナ州ニューオーリンズ、スーパードーム
日本時間1月2日午前10時45分【解説】秋元諭宏 【実況】近藤祐司



背番号が制限速度になったマニング親子
20代で母校に銅像が立ったRG3

 ミシシッピ大のOBと言えば、なんといってもNFLでもQBとして活躍した、アーチーとイーライのマニング親子だ。ミシシッピ大は構内を車で走るときの速度上限は18マイルだが、それは父アーチーの背番号に由来している。そして、息子のイーライが活躍した2000年代前半には、いくつかのエリアが速度上限10マイルとなった。もちろんイーライの背番号に基づく数字だ。
 ベイラー大のOBは、NFLでの活躍度でみれば元ベアーズの殿堂入りLBマイク・シングレタリーがNo.1だ。しかし、10年前に、ミラクルなパスとランでテキサス大やオクラホマ大という格上の強豪を撃破し、大学史上初のハイズマントロフィーまで獲得したロバート・グリフィン3世(RG3)が、伝説となっている。NFLでは、膝の負傷のためにQBとしては十分な動きができなくなり、昨年限りで引退したが、卒業後にオープンした新スタジアムのゲート前にRG3の銅像が立っている。20代で母校に銅像が建てられたスポーツ選手は、なかなかいない。
photo by Getty Images

photo by Getty Images


仕事が切れない辣腕のキフィン
DCで2億8500万貰っていたアランダ

 ミシシッピ大の指揮官レーン・キフィンは、46歳。2007年1月に31歳の若さでNFLレイダースHCに大抜てきされたことで有名だ。しかし、2シーズン持たずに、当時のオーナー、アル・デービスから「間違った人間を選んでしまった」「皆さんだけでなく、私も騙された」という痛烈な批判と共に解雇された。
 しかしキフィンのオフェンス戦術家としての評価は高く、途切れることなくコーチの仕事が舞い込んだ。
 テネシー大、南カリフォルニア大(USC)、アラバマ大オフェンスコーディネーター(OC)、フロリダ国際大、そし今のミシシッピ大がHCとしてはカレッジ4チーム目となる。
photo by Getty Images
 ベイラー大、デーブ・アランダHCは、キフィンとは1歳違いの45歳。ディフェンス畑のコーチで、今回が初のHC。アランダHCは前職のルイジアナ州立大(LSU)ディフェンスコーディネーター時代にキフィンがオフェンスコーディネーターだったアラバマ大と対戦している。
 アランダHCはその後、2019年にLSUで全米優勝したが、そのシーズンのサラリーはコーディネーター職にもかかわらず、250万ドル(2億8500万円)だった。
photo by Getty Images

QBトップ指名候補のコーラルがオフェンスのカギ…ミシシッピ大

 今季のミシシッピ大で最も注目されているのがQBマット・コーラルだ。スポーツ専門局ESPNのアナリスト、ジョーダン・リードは「例年に比べて、2022年ドラフトのQBは豊作とは言えないが、コーラルはシーズンを通して安定した成績を残している数少ないQBの1人。QBでは最初に指名される」と解説している。多くのドラフト専門サイトでも評価は同じだ。クイックリリース、強肩、ディープボールの強さと正確さ、ランパスオプションの判断力などで、他の多くのQBを上回るとされる。機動力があるのも魅力だ。

 今季のコーラルは12試合でパス260/380、成功率68.4%、3339ヤード、20タッチダウン(TD)、4インターセプト(INT)という成績を残した。TDパスは2020年の29本からは減ったが、INTも14から大きく減った。また、ランで594ヤード11TDという数字を残しており、無理にパスを投げずにTDを取ることを主眼にしたと言えそうだ。
photo by Getty Images

 コーラルを除くと、ミシシッピ大のオフェンスにはプレーメーカーがいない。今季だけでなく過去にも1000ヤード以上のラン、パスレシーブを記録した選手がいない。オフェンスの才人であるレーン・キフィンヘッドコーチが、WRとRBを上手く使いまわして、1部FBSの130大学中18位というオフェンスを作り上げているが、その分、コーラルへのプレッシャーが強くなる。今季コーラルが受けたプレッシャーは、FBSで13番目に多かったという。

 やはりNFL注目の逸材である、LTのニック・ブローカーの責務は大きいが、BIG12カンファレンスで2位となる32サックのベイラー大のディフェンス陣は、シーズン6サック以上の選手がいない代わりに、1サック以上を記録している選手が14人と、こちらも的が絞れない。
 サイドラインの知恵比べが勝敗のカギを握りそうだ。

photo by Getty Images

RBスミス、LBから転向しオフェンスの切り札に…ベイラー大

 2年ぶりベイラー大のアランダHCは、就任1年目の2勝7敗から、見事に立て直したばかりか、今まで誰も達成できなかったBIG12カンファレンスでの単独優勝まで成し遂げた。
 
 マット・ルール前HC(現NFLパンサーズHC)は、ディフェンスを中心に現有戦力をまとめ上げる手法でチームを強化した。アランダHCは、前任者と接点はないものの手法は似ている。

 注目したいのはRBエイブラム・スミスの起用だ。スミスは、2019年までは控えRBだった。昨年、LBにコンバートされ、5試合で48タックル1サックとまずまずの働き。しかし、再びRBに復帰させたのが大成功した。
photo by Getty Images
 ラン1429ヤード、12TD。1回平均6.2ヤードは、1000ヤード以上走ったRBとしては全米で7位となった。スミスとトレスタン・イーブナーが率いるベイラー大のランオフェンスは、1試合あたりのヤード数はBIG12で1位、全米17位(214.7)だ。

 エースQBジェリー・ボハノンの負傷で、BIG12の優勝戦は控えQBのブレイク・シェイペンで勝ったベイラー大だが、シュガーボウルはボハノンが先発に復帰するという。それでも、ランでゴリゴリと攻めるのが今のベイラーのやり口だ。

 ミシシッピ大には、12.5サックのDEサム・ウィリアムズを筆頭にシーズン6サック以上の選手が3人いるが、ランディフェンスはFBS130校中で101位、1試合183.0ヤードを許している。ここを攻めない手はないだろう。

ミシシッピ大学

ミシシッピ州の小さな町、オックスフォードにある州立大学。「Ole Miss=オールミス」の呼び名で知られる。フットボールチームは1893年創部で、チーム名のレベルスは「反乱軍」。元々はフラッド(洪水)というチーム名だったが、1937年に学内新聞の公募でこの名となった。
 1947年から計25シーズンチームを率いたジョニー・ボウトHCの時代に黄金期を迎え、3回の全米王者に輝いた。しかし、AP通信のランキングでは最終的に1位にはなっていない。SEC優勝は6回だが、ボウルゲームの通算24勝13敗という成績は、30回以上進出の大学の中では最高勝率。本拠地のボウト・ヘミングウェースタジアムは6万4千人収容。
 NFLで活躍したOBは、アーチーとイーライのマニング父子が有名だが、他にもLBパトリック・ウィリス、RBデュース・マカリスター、DTティム・ボーエンスなどのスター選手を輩出してきた。映画「ブラインドサイド(邦題:幸せの向こう側)」で主人公のOLマイケル・オアーが入学するのもミシシッピ大だ。
photo by Getty Images

ベイラー大学

 テキサス州ウェーコ市にあるキリスト教系の私立大学。ウェーコは清涼飲料水のドクターペッパー発祥の地で、20世紀初頭には黒人青年に対するリンチ殺人があったことでも知られる。アメフトチームは1899年創部で、愛称はベアーズ。所属カンファレンスの優勝は10回、ボウルゲームは13勝12敗。2014年に新造したマクレーンスタジアムが本拠地で、収容人員は45000人。 ベイラー大は、先日記事を書いたユタ大と似た部分がある。歴史こそ古いが、テキサス州内には、テキサス大やテキサスA&M大など名門校が多数あり、大学としては、6番目か7番目の位置づけ。リクルートもままならず、20世紀には二けた勝利は1シーズンだけだった。
 10年前にRG3という天才QBが現れて以降、BIG12内での立ち位置が変わった。RG3と共に革新的なオフェンスを作り上げたアート・ブライルズHCは、その後チーム内の不祥事で引責辞任。1人挟んであとを引き継いだ、マット・ルールHCが再びチームを強化してBIG12で同時優勝した。しかしルールHCはNFLパンサーズへ引き抜かれた。そして現在に至っている。
photo by Getty Images

シュガーボウル

1935年1月1日に第1回の試合が開催された。オレンジボウル、サンボウルと並んで、ローズボウルの次に古いボウルゲームだが、ローズボウルとは30年以上の差があるのが、ロースボウルを「全ボウルゲームの中のお爺さん」と呼ぶ理由。
 シュガーの名は、元々の会場だったチューレーン大学スタジアムの周囲にサトウキビ農園があったことからつけられた。1970年代から現在のニューオーリンズ、スーパードームが会場となっている。全米王者を決める試合の制度が始まる以前にも、ランキング1位と2位が対戦する試合が度々生じていた格式あるボウルゲーム。通常年はSECの代表校が他カンファレンスの代表校を招いて戦う。
photo by Getty Images

【小座野容斉】

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