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2022-01-09

【アメフト】森、藤田、佐野…水野元監督の薫陶を受けた3人の京大OBの戦い

ライスボウルの試合前に談笑する、森清之さんと藤田智さん=撮影:小座野容斉

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1月3日の東京ドーム。アメリカンフットボールの日本選手権「第75回ライスボウル」が始まる前の出来事だった。3塁側のベンチ前にいた富士通フロンティアーズの藤田智シニアアドバイザーが、歩み寄りあいさつした相手は、森清之・東京大学ウォリアーズヘッドコーチ(HC)だった。

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 2人は、柔和な表情で談笑していた。

 京都大学ギャングスターズの先輩・後輩。2人でアサヒ飲料チャレンジャーズを率いて、21年前のライスボウルで日本一に輝いた。33歳の藤田さんがHC、36歳の森さんがディフェンスコーディネーターとして後輩の藤田さんを支えた。RB中村多聞さん、QB桂雄史郎さん、OL平本晴久さん、昌原史卓さん、LB山田晋三さん、阿部拓朗さんといった豪華で個性的な顔ぶれをギュッとバインドした、日本のフットボール史に残る強豪チームだった。

 その後2人は別の道を歩む。森さんは鹿島ディアーズHCに就任、藤田さんは母校・京大のコーチを経て、富士通のHCとなった。両HCに率いられた鹿島と富士通は何度も好勝負を展開した。今季のXリーグで、リーグ最終戦とプレーオフ準決勝で、富士通とオービックシーガルズが2連戦となって話題を集めたが、森さんのディアーズは、藤田さんのフロンティアーズと、2012年シーズン終盤に同じような2連戦。森さんが連勝して藤田さんの望みを挫いたこともあった。

「負け戦中に孤軍奮闘、獅子奮迅の働きをするのが本物の男」

 今でこそ、常勝チームとしてXリーグに君臨する富士通だが、藤田さんのHC就任後の10年は苦闘の連続だった。会社のバックアップを受け、戦力を整え「今年こそ富士通」と評価を受けながら、ジャパンXボウルで、苦杯を喫し続けた。今でも藤田さんは、「私のジャパンXボウルの通算成績は負け越しです」という。

 森さんは、藤田さんとは違った意味で、苦戦を続けた。鹿島は2009年シーズンに日本一になったが、2010年代に入って、Xリーグに優れた能力の米国人選手が加入するのが当たり前となった後も、日本の選手だけで勝負し続けた。2013年には鹿島がアメフトチームの運営から撤退。クラブチームとなったディアーズを率いて、戦力では完全に上のオービック、富士通、パナソニックに果敢に挑んだ。

 今は東大のHCとして、関東大学1部TOP8の中では、体力も技能も劣る東京大学の選手を、時に叱咤し、時に激励し、理を尽くして育て上げている。

 2人は日本代表のHCとしても、先輩後輩となる。森さんは2015年のIFAF世界選手権、藤田さんは2020年のTSL(米育成プロリーグ)選抜との試合で、強力な米国チームの前に屈した経験が共通する。

 二人の師匠である水野弥一・元京大監督が、大学生の時に心酔した先輩選手の言葉を読んだことがある。

 「男というのは弱いチームで負け戦中に孤軍奮闘、獅子奮迅の働きをする。これが本物の男である」

 水野さんは、この言葉で「心の中のスイッチが入った」という。
水野弥一・元京大監督が学生時代に心酔した先輩の言葉

逆境の日本アメフト界で戦う、もう一人のギャングOB

 森さんや藤田さんのようなフットボールのフィールドの上ではないが、日本のアメフト界のために奮闘しているギャングスターズのOBがいる。日本テレビのプロデューサー、佐野徹さんだ。佐野さんは、京大では藤田さんと同年代で、QBだった。どちらかと言えばパサーの藤田さんに対し、佐野さんはオプションQBとして活躍した。

 佐野さんは、学生時代に打ち込んだ最高のスポーツを、世の中に普及するために、情熱を武器に戦ってきた。NFLファンにはおなじみの「オードリーのNFL倶楽部」、系列スポーツ局ジータスでのゲーム中継「NFL on 日テレジータス」、テレビを見なくなった若い世代のためのオンラインライブ中継「NFL GO」。今季、佐野さんが新たに取り組んだのは、米カレッジフットボールのボウルゲーム中継だ。

 米国ではNFLに匹敵する絶大な人気のカレッジフットボールは、日本では馴染みを持たないファンが多い。その一つの理由が、日本ではテレビ放送がないことだ。以前は、CS放送の他局が放送していたこともあったが、それも2013年を最後に放送が無くなっていた。

 佐野さんは「アメフトだけでなく、他の大学スポーツ関係者にも、是非このカレッジフットボールを見てもらいたいと考えています。日本の学生スポーツの常識では考えられない圧倒的規模感、全米熱狂のハラハラドキドキ感を伝えたいと思います」と語る。

 実況アナウンサーに、増田隆生さんと近藤祐司さん、解説は森清之さん、村田斉潔さんというNFL中継でおなじみの顔ぶれ。さらに、現地情報に精通する在米のフットボールアナリスト・秋元諭宏さんも加わる充実の布陣を敷いた。

 特に大学生の選手に見てほしいと言う。そのために、学生には「新規加入ハードルが高い」CS放送のジータスだけではなく、スマホやPCから気軽に見ることができる「NFL GO」での視聴を加えた。

 通常のNFL中継の契約があれば、別料金など不要で視聴できる。また、カレッジフットボールを見るために契約した人でも、NFLのプレーオフをじっくり楽しむことができる。さらに昨年末からは、1000円を切る割引料金まで打ち出した。

 それもこれも「少しでも多くの方に、カレッジフットボールを、そしてNFLを見てもらいたいと思ってのことです」と熱く語る。

 今季、30年以上に渡ってNFLを中継していたNHKが、放送を撤退した。朝日新聞が今大会からライスボウル主催者ではなくなった。日本のアメフトを取り巻く環境は厳しい。しかし、だからこそ、水野さんの薫陶を受けた佐野さんはアメフトの楽しさ、面白さを伝えるために「孤軍奮闘、獅子奮迅の働き」をしている。
「オレンジボウル」でミシガン大を破って全米大学選手権(CFP)決勝に進出したジョージア大=photo by Getty Images

「コットンボウル」でシンシナティ大を破って全米大学選手権(CFP)決勝に進出したアラバマ大=photo by Getty Images

    ◇

 ライスボウルの日、藤田さんと森さんが話題にしていたのは、森さんが解説を担当した元旦放送の「オレンジボウル」ジョージア大学 対 ミシガン大学の一戦についてだった。

 2人も、現地1月10日夜、日本時間1月11日午前に開催される、全米大学王座決定戦(CFP)決勝、アラバマ大(全米1位) 対 ジョージア大(全米2位)の試合を楽しみにしているの違いない。もちろん、「日テレジータス」「NFL GO」で生放送がある。

【小座野容斉】

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