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2022-01-12

「心の中には罪を犯したぐらいの痛みを感じた」アントニオ猪木が語るモハメド・アリ戦の真実<3>【週刊プロレス】

アントニオ猪木にパンチを放つモハメド・アリ

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 当時はほとんど明かされていなかったが、アントニオ猪木にとって“世紀の一戦”は、がんじがらめの中での闘いだった。ルールのわずかなスキをついて繰り出した寝た状態からの蹴り。のちにアリキックと呼ばれたこの戦法は、苦肉の策としてあみ出したものととらえられていた。しかし、すでにその闘い方は考案されていたという。しかし特に見せ場のない闘いは「世紀の凡戦」と酷評され、さすがの猪木も落ち込んだ。そんな猪木に元気を与えてくれた一言があったという。
※週刊プロレス2009年2月18日号(No.1459掲載)

 レスリングの技、ヘッドバットやチョップなど多くの攻撃が禁止される中、猪木が取った作戦は寝た状態から脚を蹴るというもの。のちに言われた、猪木-アリ状態である。

猪木 寝て闘うっていうのは、もともとあるんですよ。戦後に「柔拳」という、柔道がボクシングと闘うスタイルがあって。柔道家が勝つための闘い方の一つで、アリのパンチは絶対に受けちゃいけない。普通のグローブを着けてのパンチじゃないし。中身がどうだったかは知らないけど(石膏やシリコンで固めていたとのウワサもあった)、4オンスのグローブっていうのは何も着けてないのと同じ。アリの方としても打ち合いなんかする気はない。1発当てれば終わりなんだから。それもフルスイング、フルパワーでなくても、チョンと当てれば終わり。ジャブにもならないぐらい。4オンスのグローブだと、それぐらいの硬さがある。俺はよくわからなかったんだけど、ここ(額)で2発ぐらい受けてたみたいで、コブになってた。普通のグローブだったらコブになるはずなくて、相当ハードなパンチだった。顔面のもう少し下に受けてたら、KOされてただろうね。アリにすればチョンと当てさえすればいい。当てるというより、引っ掛けさえすればいい。どこに当てればいいかの急所は知ってるわけだしね。

 当然、猪木はハナからスタンドで勝負しようという気はなかった。

猪木 レスラーのパンチの構えっていうと、どうしてもワキが甘くなってしまう。パンチを放っても大振りだし。ボクサー相手にパンチで向かっていっても叶うわけない。(エメリヤーエンコ・)ヒョードルと闘った時の永田(裕志)がいい例じゃない。ボクシングの構えをしても腰が高くなっちゃうし、なんで自分が得意なことをやらないんだと思った。パンチに関していえば、相撲取りの方が向いてるかな。日プロ時代、相撲とか柔道出身の選手がいたんで、道場で練習のあとに遊びでよく(異種格闘技戦的な闘いを)やったんだよ。その時のこともあって、ああいう闘いになった。

 アリ戦で世界に名が知れ渡った猪木。もし実現してなかったら、その後の猪木、そして新日本プロレスはどうなっていただろうか。

猪木 それなりにはやってただろうけどね。でもあのとは、悪いことをしたわけじゃないけど、自分の心の中には罪を犯したぐらいの痛みを感じたね。なんかのインタビューで言ったんだけど、翌日、俺も(足の甲が)ハク離骨折まではいかなかったけど、かろうじて歩けるぐらいで。新聞をはじめ悪評だし。それでも事務所に行かなくちゃいけないっていうんで表に出たら、通り過ぎたタクシーが戻ってきて、「昨日、見ましたよ」って。その一言に元気づけられた。

 現役時代から試合を通じて、そして引退後は存在感だけで周囲に元気を与えている猪木が逆に元気づけられたというのも奇妙なものだ。

猪木 俺だって落ち込むこともあるよ(笑)。「ファンのみんなのおかげです」っていうヤツもいるけど、本当はそうじゃないんだよね。一生懸命闘ったところにファンがついてくるんであって。そのへんが言葉のインチキなんだよね。なんか最近は、言葉のインチキが目につくようになって。政治家にしても「国民の目線で」とか「大衆の目線で」って言うけど、そんなことありえねぇんだよ。国民の目線で考えることはいいんだけど、リーダーはその先を歩いていかないと、誰もついていかないよ。話は戻るけど、そのタクシーの運転手は金を払って会場で見たわけじゃないだろうけど、その一言に救われたよね。
(おわり)

橋爪哲也

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