アメリカンフットボールのXリーグに所属する25チームが3月6日、富士通スタジアム川崎で開催した、合同トライアウト。新人選手発掘のための今回初めて行われた試みに、ある一人のアスリートが参加して、大きな話題となった。
花田秀虎、20歳、日本体育大学の2年生。2020年12月に、全日本相撲選手権を制し、久嶋啓太さん(元久島海)以来史上2人目となる大学1年生のアマ横綱に輝いた、学生相撲界屈指の逸材だ。日体大相撲部の斎藤一雄監督が「将来(大相撲の)大関、横綱になれるのではないか」という逸材が、なぜ今回「真の意味での二刀流」ともいうべきチャレンジをするのか。トライアウトを終えた花田選手の一問一答をお届けする。【アメリカンフットボール・マガジン編集部】
この日、花田選手が取り組んだのは、40ヤード走(光電管計測)、垂直跳び、立ち幅跳び、プロアジリティラン、3コーンドリル。さらに、受験を申し込んでから購入したヘルメットやショルダーなどの防具に身を包んで、1 on 1(ワンオンワン)形式でのポジションドリルなどをこなした。
オフシーズンということもあり、コンディションが良くない参加者が散見される中、花田選手の動きは目を引いた。特にアメフト的なアジリティーが求められる3コーンドリルでは、「本職」のアメフト選手が、転倒したり、足を滑らせたりする場面が続出したが、花田選手は、2本ともきっちりと走り切った。1on1では、強烈なヒットから相手を押し倒す場面も見られた。
――今日はタイムは、何秒でしたか。
聞いてないのですが、後で聞こうと思います。まだまだ早く走れますよ。まだ。アメリカのNFLが、今、コンバインをやっているじゃないですか。DLやOLで2メートル 150kgくらいで4秒台で走っている人がいっぱいいるので、負けていられないなという思いがあるので、4秒台は絶対に出そうと思っています。
――相撲とアメフトを両立といっていましたが、秋のリーグ戦に日体大の選手として出るということを期待してもいいのでしょうか。
それは、アメフトですか。アメフトは、特待生は相撲でとってもらったので、試合は出られるかわからないのですが、相撲は試合はしっかり出て、怪我なく終わりたいと思います。
――アメフトの試合には出ることはない?
気持ちは出たいのですが、まあ、監督の兼ね合いであったり、これから相談して決めていこうかなと思います。アメフトは未経験なので、どんどん吸収して、試合に出られるようにしたいと思います。
――OLで受験した理由は何かありますか。
ポジションはやったことがないので、DLもやってみたいなと思ったのですが、今回は、OLでどんな動きをするのかという技術がやっぱり、相撲にない。相撲は前ばかりなのですが、OLは(パスプロテクションなどで)後ろに下がる、ああいうのも、技術として面白いなと。
――バックステップに苦戦していた
まじ、難しかった。相撲はこうやって守るということがないので、やったことがない動きで、これも新しい刺激でちょっといろいろ勉強になりました。
――1 on 1では相撲の立ち合いと同じような動きがあった。
これがあるので、ギア(防具)が。楽しかったです。相撲では頭で行ったら僕は左目を怪我したことがあったので、ちょっっと怖いなということがあったので。バンといける。久々にその感触がありました。
――衝撃というかインパクトは、相撲をされている時とフットボールであたった時の違いみたいなのは。
やっぱり、肌同士でぶつかる方が、まあ、衝撃はあると思いますね。これだと振動でぐわっとくる感じ。後から来るような感じ。相撲は直接バーンと来るので、それはそれでまた新しい感じでした。
――物おじせずにやった。気おくれはなかった。
積み上げてきたものがあるので、相撲で培ったものがあるので、やっぱり。
斎藤監督からは「お前の気持ちはわかる」
――元々アメフトにご興味があったと聞いていますが、きっかけや時期は。
元々、アメフトの動画で、朝練とか、ラダートレーニングを(見ていて)、体重を増やしても体を動かせるということを意識してやっていたので、取り入れてやっていたんですね。その中で、(NFLの)ラムズの(DT)アーロン・ドナルドと、戦ってみたいとすごく思ったんですね。めちゃくちゃかっこよくて。どっぷりNFLを見ていますね。
――親御さんとか、知り合いでアメフトを知っているという人がいるわけではない。
そうですね。アメフトは特に、本当に。アメフトから相撲という人は、僕の同級生にそういう人がいて、彼から聞いたりして。勉強して頑張っています。
――今回のスーパーボウルも。
見ました。
――ベンガルズのバッグを持っていましたね。
僕は、どちらかというと強豪を倒したい。アーロン・ドナルドが好きなのですが、違うチームを応援したい(笑)。ラムズは好きですよ。
――スーパーボウルが決まってからベンガルズのグッズを買った。
そうです。ベンガルズを応援しました。でも最後は(ドナルド)が決めましたね。かっこよかったですね。
――将来的なことは相撲とNFLをどう
僕のプランは、NFLは選手寿命が短くて、若いほうが絶対にいいスポーツなので、先人の若乃花さんが、横綱になってからアメフトに挑戦して、本人も年をとってからやるスポーツではないと言われていたので。それは、斎藤監督から聞いたのですが。考えた時に、順番を入れ替えて、先にNFLを目指して、そこから、(大相撲の)照ノ富士関も29歳で横綱になったので、僕も遅くないなと。
――斎藤監督は、大学の時にシルバースターに参加していた?
そこまで聞いていないのですが、(アメフトの)練習は参加してやっていたと。
――監督に言うときは身構えたと思うのですが、意外と、そういう。
込み入った話になるのかなと思ったのですが。お前の気持ちはわかるというニュアンスで、言っていただいたので、斎藤監督には感謝しかないですね。
――ポジションはDL志向ですか。最終的には。
まだ、今日初めてなので、徐々に。どこがいいか見えて来ると思うので、LBとかもいいなとか。そこもやって見て、模索したいなと思っています。
――TEなどもいいかなと
いいですか(笑)。ボールが捕れれば、自分にあっていたら。
――今のビジョンでは、4年間は日体大。そこから先はXリーグでNFLを目指して、そのあと相撲。
日本よりアメリカが最先端じゃないですか。何にしても。その知識を全て入れて、大相撲で革命を。みたいな。
――アメリカのカレッジからアメフトで来てくれと言われたら。
まだ、それは現実味を帯びていません。それは全然、わからないです。
――身長と体重は
身長は185センチで130キロ。コンバインに向けて絞って、135キロくらいあったのですが、少し絞って動けるようにしました。
――アメフト仕様の体に
40ヤードとか走るので、脂肪を落として、筋肉を残してと。5kgくらいですけど。今度、また食べて戻します。4月から相撲のシーズンに入るので。
――来年は3年生ですか。
はい。3年です。日体大相撲部の今の3年生には、怪物がいるのです。(2021年のアマ横綱、193センチ170キロの)中村泰輝さん。あの人と今、相撲の稽古をして、押す練習をして。最高の環境なので、押す練習としては。中村さんとみっちりやっています。新4年のキャプテンが中村さんです。
――防具を買いに行ったのは、いつですか。
トライアウトを申し込んで次の日か、翌々日か。本当に最近です。試着したことはありましたが、実際に当たるのは今日が初めてでした。
◇
日体大の斎藤監督は、1988年にアマ横綱に輝いた、怪力・スピード派の力士だったが、大相撲には進まず、大学院に進み、その後は弘前大で医学博士号を取得した、大学相撲界では異色の指導者。練習終了を自己申告制にするなど、独自の指導法で、2021年には全国学生選手権団体戦で7年ぶり7回目の優勝を果たした。
大相撲も注目する逸材の突然の申し出を許容する監督と、それに応えて、初めての挑戦で、コンバイン種目ながら圧巻のパフォーマンスを見せた花田選手。日本のスポーツ界の常識では、無謀とも思える挑戦を、大きな関心と期待を持って見守りたい。
花田秀虎(はなだ・ひでとら)
2001年10月30日生まれ。和歌山県出身。大相撲の「若貴兄弟」、元若乃花、貴乃花の花田さんとは血縁関係はない。父は大学時代にレスリングで全国優勝経験を持ち、母は柔道指導者という格闘技一家に育ち、小学2年で相撲を始めた。県立和歌山商業では、1年生で全国高校選抜大会個人戦で優勝、2、3年生で世界ジュニア相撲選手権の無差別級を2連覇した。日体大進学後、2020年12月の第69回全日本相撲選手権を、19歳1カ月で制しアマチュア横綱に輝いた。大学1年での王座は、高校3年から2連覇した日大の久嶋啓太さん(大相撲の元久島海=故人)以来36年ぶり2人目。その際には「横綱・千代の富士のような力士が目標」と語っていた。185センチ135キロ。
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