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2022-03-17

“留学生の出世頭”クリス・ベンワーの栄光と悲劇…新日本プロレス歴史街道50年(27)【週刊プロレス】

2000年1月WCW世界ヘビー級王者となったクリス・ベンワー

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 かつてプロレス界には「日本帰りは出世する」というジンクスがあった。日本プロレス時代、シリーズは2~3カ月にも及ぶロングラン。移動や宿泊も団体が手配指定くれることでリングに専念できる環境だった。外国人のヤングボーイや中堅レスラーにとっても、一流レスラーに囲まれてツアーに参加するのは修行といえるもの。自然と実力もアップ。本国に戻って、そのテリトリーのトップ戦線に参入するのも自然だった。

 現在はそのような環境になく、かつてのジンクスも「日本への留学生は出世する」に変わった感じ。数多くの留学生を受け入れてきた新日本プロレスにおいて、出世頭となるのはクリス・ベンワーだろう。

 新日本プロレスへの留学生第2号だったバッドニュース・アレンから遅れること10年。“青い目のヤングライオン”が入寮した。彼の名はクリス・ベンワー。

 プロレス少年でダイナマイト・キッドにあこがれたクリスは、地元カナダ・エドモントンから車で3時間かけてカルガリーまで通ってスチュ・ハート宅の地下にあるダンジョンでの練習に参加した。しかし軽量だったため技の練習台となり、毎日100本以上の受け身を取らされていた。

 それに対してクリスは不安感を抱き、ミスター・ヒトに相談。「リングに上がったら自分の身は自分で守らないといけない。厳しいけど、この練習が必ず自分のためになる。バンプを完璧にマスターすれば、どんな体勢で投げられてもケガしない」と説かれたが、見るに見かねたバッドニュース・アレンが新日本留学を勧めた。

 1986年8月、練習生と同じ扱いで入寮。生活習慣や言葉、食事も異なる異国の地でイチからスターした。すでにカルガリーでデビュー(ちなみにデビュー戦のパートナーは素顔時代の2代目レザー・フェース)していたこともあって、新日本での再デビューも年明け早々と早かった(対戦相手は船木優治=現・船木誠勝)。

 留学期間は1年。その後は日本とカナダを往復しながら、ダイナマイト・クリス。ペガサス・キッド、ワイルド・ペガサスとリングネームを変え、時にはマスクマンとして、獣神サンダー・ライガーのライバルとなり新日本ジュニアで活躍。IWGPジュニアヘビー級はもちろん、トップ・オブ・ザ・スーパージュニア(93年)、SUPER J-CUP(94年)、スーパージュニア・タッグリーグ(同年)、ベスト・オブ・ザ・スーパージュニア(95年)優勝。

 ECWを経て95年からはWCWを主戦場にしてヘビー級に殴り込み。2000年1月16日(現地時間、以下同じ)にはトーナメントを制してWCW世界ヘビー級王座を獲得。しかしその翌日、エディ・ゲレロ、ディーン・マレンコ、ペリー・サタンとともにWWF(当時)に電撃移籍。WCWはここから翌年3月、ライバル団体に身売りするところまで一気に坂道を転げ落ちる。その意味ではクリスの動きが米マット再編への引き金を引いたといえる。

 WWFでもニューヨーク・MSG(マディソン・スクウェア・ガーデン)でおこなわれた「レッスルマニア20」(2004年3月14日)で世界ヘビー級王座を獲得。その当時のWWE世界ヘビー級王者で新日本でジュニア・フォーホースメンとして活躍したE・ゲレロがリングに飛び込んできて祝福。紙吹雪が舞う中でベルトを掲げた2人のラストシーンは、彼のプロレス人生におけるハイライトであり感動的だった。

 新日本ジュニアだけでなくWCW、WWEでも頂点に立ったクリスだが、実はプロレスラーとしての最後は新日本で終わるとの思いを抱いていた。しかもラストマッチの相手はライガー。だがそれも2007年6月24日、PPVを欠場。翌日、ナンシー夫人、息子のダニエル君とともに変わり果てた姿で発見された。享年40。後日、地元警察はクリスが夫人と息子を殺害後、自身も首つり自殺を図ったと捜査結果を発表した。

 あの悲惨な最期がなければ2020年年頭の東京ドーム、引退するライガーと同じリングに立っていたかもしれない。
(この項おわり)

橋爪哲也

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週刊プロレスNo.2171(2022年3月30日号/3月16日発売) | 週刊プロレス powered by BASE

今週号の表紙はスターダム後楽園大会、ワールド王座戦最後の前哨戦で朱里と闘ったジュリアです。両国国技館2連戦前、最後の東京大会はさまざまな動きあり。後楽園以外にも若手主体の品川大会、QQvs大江戸隊の綱引きマッチの高田馬場大会もあわせて、スターダムは3大会をリポート。NOAHは横浜武道館でビッグマッチを開催。新GHCタッグ王座決定トーナメントはWWEを解雇され、帰国した鈴木秀樹がいきなり杉浦貴と組んで王座奪取に成功。GHCジュニアはEitaが原田大輔を下して初挑戦にして王座奪取。そのほか今後へ向けての動きが加速した横浜大会を詳報。新日本は「NEW JAPAN CUP」2回戦の激闘をリポート。鷹木vs石井、ヒロムvs鈴木など注目試合を中心にリポート。この結果でトーナメントは16強が出揃っています。昨年9月に亡くなった風間ルミさんの追悼特集を企画。ジャパン女子、LLPW時代のヒストリー、尾崎魔弓インタビュー、ライター・須山浩継氏のコラムなどで故人の歴史を振り返ります。企画ものとしてはアイスリボンの象徴・藤本つかさの悲願の結婚報告インタビューも注目。また今週末に両国国技館でビッグマッチを控えるDDT、東京女子、それぞれの大会の展望特集も必読。そのほか全日本・後楽園、ドラゲー尾道、大日本・新木場、大阪プロ大正など掲載。【注意】発送後の返品・返金は原則不可とさせていただきます。送料は無料ですが、第三種郵便での発送となります。通常2~4日でのお届けとなります。また、事前に購入されても発売日にお届けすることは、お約束できません。ご了承ください。

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