close

2022-03-19

【ボクシング】寺地拳四朗が王座奪冠! 矢吹正道を右一撃で3回KO

3回、右一撃で矢吹を引っ繰り返した寺地

全ての画像を見る
 19日、京都市体育館で行われたWBC世界ライトフライ級タイトルマッチ12回戦は、前王者で1位の寺地拳四朗(30歳=BMB)が、チャンピオン矢吹正道(29歳=緑)を3回1分11秒KO。昨年9月に奪われた王座の奪冠に成功した。

文_本間 暁 写真_佐藤真一

 追って追って追いまくる──。寺地のこの試合に懸ける並々ならぬ思いが溢れ出す戦い方だった。

 開始ゴングが鳴って、両者ともにいつもの距離を作ったのはほんの僅かな時間だった。矢吹が豪快な左アッパーカットを振り抜くと、これが“第2の開始ゴング”であるかのように、寺地が前進を始めたのだ。
 しっかりと両足を地につけ、重心を低く構えるスタイル。
広いスタンスを取り、上下動のリズムを使って左ジャブを突く──これまで築き上げてきたものとは明らかに違った。

打って打って打ちまくる。寺地はスタミナのことを考えず、攻めまくった
打って打って打ちまくる。寺地はスタミナのことを考えず、攻めまくった

「面食らいました。まさか、ファイタースタイルで来るとは思わなかった」(矢吹)

 矢吹が長い左、左右のアッパーカットで迎え打ち、寺地の前進を止めようとするものの、寺地の高いガード、左右へのヘッドムーブに空を切るばかり。上体を立てたアップライトからクラウチングの前傾に変えた寺地は、たっぷりとウェイトの乗った右、ワンツーストレート、さらには返しの左ボディブローも次々と打ち込んでいった。

 ロープからロープへ。下がる矢吹を執拗に追いかけていく寺地。互いのブローが当たる距離ではあるのだが、下から煽られてどうしても上体が立ってしまう矢吹のリターンと、前がかりの寺地のそれでは、威力の面でも違った。この空間で戦う準備に遅れた矢吹は、気持ちの面でも後手に回ってしまう。長く強いパンチで跳ね返す思考にはまり、その距離を潰されてもいた。

 一気呵成の寺地は3回、リング中央で右ストレートを突き上げた。これが矢吹の顔面をハードヒット。矢吹はそのまま背中から倒れ込み、キャンバスに大の字に。意識も気持ちも切れずに必死に立ち上がり、ファイティングポーズを取ったものの、ダメージは深刻で、レフェリーはそのままテンカウントを数え上げた。

加藤トレーナーに肩車されて、喜びを爆発させた
加藤トレーナーに肩車されて、喜びを爆発させた

「『幸せ』のひと言です。世界を初めて獲ったときよりも嬉しかった」と寺地は開口一番。そして、「自分が強いという自信を取り戻せたのが嬉しい」と笑顔を爆発させた。

“参謀”加藤健太・三迫ジムトレーナーが説明する。
「拳四朗が(現役を)続けると決めたとき、矢吹選手ともう1度やるなら、前回と同じ戦い方では同じことになる、と。ジャッジの好みに任せることはしたくないと思い、覚悟を決めて、はっきりと決着をつけようと話しました」

試合後の会見。左は寺地会長、右は加藤トレーナー。「みんな『チャンピオン』って声をかけてくれるけど、またチャンピオンと言えるのが嬉しい」(寺地)
試合後の会見。左は寺地会長、右は加藤トレーナー。「みんな『チャンピオン』って声をかけてくれるけど、またチャンピオンと言えるのが嬉しい」(寺地)

 本格的に練習を再開したのが1月に入ってだから、急ピッチのスタイル変更。寺地永会長も含め、「勝っても負けても悔いのない戦い方」を信念に、これまでとは別人のようなスタイルを練り上げた。
 短期間での大幅なスタイルチェンジは大きな賭け。しかし、寺地の培ってきた様々なボクシングの中から今回の戦い方をピックアップし、大一番で体現できると信じた陣営。加藤トレーナーの選択を迷いなく信頼して邁進する寺地。それらが見事に合致して、勝負に臨んだ結果だった。

「『普段どおりの戦い方をする』って言い続けてきたので、みんなびっくりすると思いました。言いながら、心の中で『すみません』って思ってました」と寺地。「(策士だった)輪島功一さんを見習い」(加藤トレーナー)、徹底して煙幕を張っていたのである。

「前回の敗戦があったからこそ、強くなれた」。寺地、加藤トレーナーは声をそろえて矢吹への感謝を語り、今後は「統一戦や階級を上げるとか。強い選手としか戦いたくない」ときっぱりと言い切った。20戦19勝(11KO)1敗。

 衝撃的なKO負けを食らった矢吹だが、毅然とした態度で取材に応じ、「拳四朗選手のフットワークをつぶす作戦やったので、それがいきなり狂ったのが一番大きい。ファイターで来るんやったら、自分も足を使いたかったけど、今回はそのプランはあんまりなかった。今回はいつもより(当日の)体重も増やしてファイター気味でいこうという思いがあったんですが……」と振り返った。
 そして最後に今後について訊かれると、「わからないです。今回にすべてを賭けていたので。前回の、いつもの拳四朗選手のスタイルより、今回の方が強いと思いますね。このスタイルやったら、ずっと防衛できると思いますよ」とエールを送った。17戦13勝(12KO)4敗。

PICK UP注目の記事

PICK UP注目の記事



RELATED関連する記事