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2022-03-29

【ボクシング】“ラーメン王”ジロリアン陸 痛烈TKO勝利の直後に引退宣言?

あまりの痛烈ダウンに、レフェリーはノーカウントで試合をストップした

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 日本ライト級5位にランクされる強打者、ジロリアン陸(フラッシュ赤羽=33歳)は、28日、東京・後楽園ホールで粕谷雄一郎(角海老宝石=25歳)とスーパーライト級8回戦を行い、5回1分25秒、痛烈なTKO勝ちを収めた。ラーメンの名店『ラーメン二郎』の熱烈愛好家としてテレビ・ネタにもなったジロリアンはこの勝利で6連勝、4連続TKO勝ちを決めたのだが、リング上で「今後のことは考えたい」と謎の引退宣言を残し、どよめきの中でリングを後にした。

 痛快と言えば、残酷にも聞こえる。敗者は、担架に乗せられて退場するほどの大きなダメージを負っているのだ。だが、決着がついたリング上ではすぐさま別の物語が始まっていた。フラッシュ赤羽ジムの川島勝会長が「次は日本タイトルを……」と言いかけたマイクを奪い取って、ジロリアンは宣言する。

「応援してくれる人には申し訳ありませんが、減量が死ぬほど厳しくて。今後のことは考えたい。とにかく、しばらくはラーメン生活で過ごしたいと思っています」

 引退を示唆する発言に、場内も、ただ、ただ、どよめくばかりだ。あとの囲み会見で「今までで、一番に理想的な戦いができた」と自認しているのに、だ。
ジロリアンの右強打が粕谷の顔面にぐさりとねじ込まれる
ジロリアンの右強打が粕谷の顔面にぐさりとねじ込まれる

 本人の言葉どおり、試合はジロリアンの思うがままの展開でTKO劇へと突き進んだ。策は徹底的なカウンター狙い。淡泊な単打で終わるものの、伸びのいい左ジャブ、右ストレートで初回からリードを奪う。粕谷が反撃に出た3回には、右アッパーからチャンスをつかみ、連打で追いつめた。

 4回こそ、粕谷の強引に押し込むような接近戦からボディにパンチを浴び、見栄えはよくなかったが、ラウンド終盤には逆に強烈な左フック、アッパーのボディブローで反撃した。そして5回、戦いは決着がつく。ジロリアン本人は「まったく覚えていない」というが、たぶん、巻き込むような左フックがきっかけだった。すかさず右ストレートを打ち込んで対戦者を棒立ちにさせる。無防備のまま反撃する粕谷に、最後は右のストレート。アゴを跳ね上げたまま、背中からキャンバスに落下する粕谷を見て、福地勇治レフェリーはすぐに試合終了のシグナルを発した。
勇壮な勝利宣言が聞けると思った試合後、あにはからんや、ジロリアンが放ったのは引退を示唆するコメント
勇壮な勝利宣言が聞けると思った試合後、あにはからんや、ジロリアンが放ったのは引退を示唆するコメント

 しかし、そんな会心の勝利も、ボクサーとしての自信にはつながらなかったようだ。記者の待つエリアにやってきたジロリアンは、自虐のオンパレードで、記者を戸惑わせ、面白がらせる。

「次はタイトルマッチと言われても、本当にボクシングをやりたくないんです」。「減量が厳しすぎてメンタルがやられたというのもありますが、根本的に格闘技に向いてないんです。極端な怖がりなんで」。果ては「自分より強い人と戦いたくない」とまで。

 粕谷とは何度もスパーリングをやってきて、ほとんどがやられっぱなしだったという。その相手に快勝したのだから、もう少し、前向きに考えてもいいのではないか。

「控室で一番緊張していたのが僕です。今日がデビュー戦という選手が、試合をするのが楽しみと言うんです。できるなら、そんなボクサーになりたいです」

 今晩、明日、ジロリアンが人生の相棒である『ラーメン』をすすった時、勝利の歓喜もじんわりとはらわたにしみ込んでいくかもしれない。この日の強打を見れば、心変わりをぜひとも待ちたいもの。

文◎宮崎正博 写真◎山口裕朗

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