革新的な強化方針を掲げて昨年4月に発足したメイクス陸上競技部。ロードを得意とする菊地賢人、スピードが魅力の鬼塚翔太と実績のある2選手が移籍してきた。また、大学駅伝の強豪校からも新卒選手が加わった。早大OBの三田裕介監督のもと、チームは本格的に動き始めた。文/和田悟志 写真/メイクス提供
咋年4月、早大時代に大学駅伝三冠を成し遂げたメンバーの一人、三田裕介氏を監督に迎えて発足したメイクス陸上競技部がいよいよ本格始動する。マラソンで2時間7分20秒の自己ベストをもつ菊地賢人、東海大黄金世代の一員として箱根駅伝優勝の実績をもつ鬼塚翔太が加入。さらに、原田凌輔(順天堂大卒)、渡邉正紀(東京国際大卒)、加藤広之(日本体育大卒)と、この春に大学を卒業した3選手が入社し、新シーズンを迎えた。
30代で進化を続ける菊地
「メイクスというチームには、とにかくチャレンジすることに壁がないというか、どんどんチャレンジしていい、という空気感がある。そこに非常に共感しました。それに、チーム理念でもある“社会にワクワクを提供する”ためには、自分たちがワクワクすることも非常に大切だと思っています」
今年32歳になる菊地は、心機一転、名門チームから新興チームに移り、再スタートを切った。
これまで菊地はマラソンランナーとして着実にキャリアを積み重ねてきている。
2020年の東京マラソンで2時間7分31秒と当時の自己記録をマークすると、翌21年3月のびわ湖毎日マラソンでは2時間7分20秒に記録を伸ばした。しかし、順風満帆に思われたのも束の間。その後、坐骨神経痛などに苦しみ、昨シーズンはレースでスタートラインに立てないことが多かった。そして、ついには進退を検討せざるを得ない状況になった。
「自分自身30歳を超えているという現実のなかで、いろんな選択肢を考えました。でも、前所属チームで9年間選手生活を送ってきただけに、今から既存のチームにアジャストしていく自分があまり想像つかなかったんです」
そんな時に、学生時代から親交のあった三田氏のことを思い出した。三田氏が新しいチームの監督に就任したことは当然知っており、話を聞いてみようと思い立ちコンタクトをとった。
「三田さんの話を聞いてみて、本気なんだなと思いました。科学的なアプローチなど、枠に収まらないチャレンジをしていくところがすごくいいなって思いましたし、勢いを感じました」
運動生理学に基づいたトレーニングメニューの提供や、“マラソンの聖地”と言われるケニア・イテンにも拠点を設けるなど、新興チームならではの試みを聞いて、菊地は胸を踊らせた。
「これまでのマラソンで改善できる部分は何個もありました。それをクリアしていって、2時間4分台、5分台に近づいていきたい。現段階ではパリ五輪が目標ですが、岡本さん(直己、中国電力)や今井さん(正人、トヨタ自動車九州)ら先輩方の活躍を見て、自分も挑戦できる限りは日の丸を目指してやっていきたいと思っています」
菊地にとって過去の2時間7分台は序章に過ぎない。彼のチャレンジは、円熟味を増すこれからが本番だ。
新たな挑戦へ、鬼塚の覚悟
東海大時代に“スピードスター”として名を馳せた鬼塚も、社会人になってからはもがき苦しんでいた。
「自分が思い描いていた陸上競技ができていないという物足りなさを感じていました。その上、去年、一昨年と、日本選手権にさえ出場できていません。結果を出すこともできず、自分自身が不甲斐なく思っていました」
所属チームの規模縮小などがあり、環境が目まぐるしく変化。また、アメリカを拠点に競技に取り組むはずだったが、それも志半ばで終わっていた。
そんな折、知人からメイクスの話を聞いた。
「まだ二十代前半なのに、一気に状況や環境が変化して、何が目的で、何が手段なのか、おそらく分からなくなっていたのでは…。そのうえ、今は本来の走りが形となっていないように思います」
三田は、鬼塚の現況を分析する。
鬼塚は、もともと「海外の選手と一緒に練習をしたり、試合に出たりすることがやりたいことでもあった」と言うように、革新的なチームを作ろうとしているメイクスの話は刺激的だった。
「ネガティブに捉えるのではなく、新しいチャレンジをしようという思いで移籍を決めました。メイクスは新しいチームなので、人に相談すると、反対されることもあったし、正直言えば、僕自身も不安に思うこともありました。でも、だからこそ、“結果を出さないといけない”“絶対に成功してやる”という覚悟は、今まで以上に強いものがあります。この2年間、心配されることが多かったのですが、今までにない“鬼塚翔太”をアピールできたらいいなと思います」
三田とはすでに将来のビジョンを話し合っており、まずはトラックで2年後のパリ五輪に出場。そして、28年のロサンゼルスは、マラソンで金メダルを目指す。
― ― ― ―
ロードで定評のある菊地、トラックを主戦場とする鬼塚と、持ち味の違う2人が主戦力となり、メイクスの挑戦は始まる。
「鬼塚と一緒にトレーニングしていけば、自分の中のスピードの上限値が上がり、マラソンに生きてくるのかなと思っています」とは菊地。新たなチームメイトの胸を借りて、自分自身をいっそう高めていくつもりだ。
そして、個の強化を図りつつも、人数が揃えば駅伝にも参戦するプランもある。メイクスはどのように“ワクワク”を提供してくれるのか…。まずは始まりのこの1年に注目したい。
Profile|きくち・まさと
1990年9月18日、北海道生まれ。室蘭大谷高(北海道)→明治大→コニカミノルタ。小学生から陸上を始め、明治大時には箱根駅伝に4年連続出場。コニカミノルタではニューイヤー駅伝優勝にも貢献する。自己ベストは5000m13分35秒18(2014年)、10000m 28分04秒25(14年)、ハーフ1時間00分32秒(15年、日本歴代7位)、マラソン2時間07分20秒(21年)
Profile|おにづか・しょうた
1997年9月13日、長崎県生まれ。志佐中(長崎)→大牟田高(福岡)→東海大→DeNA →NTT西日本。大牟田高時代に頭角を現し、3年時の全国高校駅伝1区で4位の好走。東海大進学後も1年時にハーフで東海大記録を樹立し、大学三大駅伝でも活躍。自己ベストは1500m3分44秒46(2019年)、3000m7分57秒56(18年)、5000m13分38秒58(17年)、10000m28分17秒52(17年)、ハーフ1時間02分03秒(16年)。