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2022-04-25

【陸上】練習は1日20分、スタバでバイトする大学院生の四方悠瑚が再びトップシーンへ

兵庫リレーカーニバル男子グランプリ800mを1分47秒41の大会新で制した四方(写真/牛島寿人)

4月24日に行われた陸上の日本グランプリシリーズ「第70回兵庫リレーカーニバル」男子グランプリ800m。3位までが大会新という盛況のレースを四方悠瑚(宝塚市陸協)が1分47秒41の自己新で制覇した。昨年の日本リストに照らせば6位に相当する。

ペースメーカーは400mを51~52秒で通過。四方は「ぼくのペースは52~53秒」と一歩離れていたが、「バックストレートから前に出る」という狙いどおりにスパートをかけ、飯濵友太郎(立教大3年)らの追撃をしのいだ。

「のんびりと競技をやっていますが、日本記録(1分45秒75)を目標ととらえてしっかりとやれているので記録が伸びているのかなと思います。日本記録を狙うには、今日の先頭のペースで楽に入ることが大事ですが、まだそのレベルには行っていません」と四方。今季の男子800mを展望するとき、注目に値する記録と勝ちっぷりだが、自分の目標に照らし、冷静に現状を把握している。

「日本記録を」と口にする四方の名前はこれまで日本選手権決勝など男子800mのトップシーンに出てこない。だが、彗星のように現れたランナーではない。県西宮高(兵庫)3年時の2016年、インターハイ2位&国体少年共通優勝と世代トップの成績を残した。ただ、立命館大時代の4年間は沈滞。競技と理工学部の勉強・研究のはざまで、「ろくに睡眠が取れず、崩れてしまいました」と話す。

それが大学陸上競技部を引退し、“5回生”として過ごした昨年、「勝ち負けよりも、楽しんで走りたい」とマスターズ登録をして再び走り始め、9月に1分50秒69と5年ぶりに自己記録を更新した。10月には1分47秒89へと躍進。一時は「あの選手はいま」状態だった四方はどのように再起を果たしたのか。

それは「生活も練習も自分に合ったリズムで継続できている」に尽きる。現在23歳の四方は、睡眠について研究する立命館大大学院生(修士課程1年)であり、練習は週4回・1日20~30分ほど自宅近くの400mある坂道を走り、スターバックスでアルバイトをしている。「バイトで疲れた日は練習を休みます」と言うマイペースな日々が四方には合っているのだろう。本人にその気はないようだが、仮に大学院生として学連登録していれば、この日の記録は学生歴代9位となる。

坂道を使った練習では「下りを大事にしている」と話す。「今日みたいに、ガっと前に出たときにしっかりと脚を回せるというのは、下りの感覚に似ています。800mは最初に出した回転力をいかに維持するかというところもあるので、下りの練習はそういうところでも役立っているかなと思います」。ちなみに、四方が走る400mの坂は「傾斜9%くらい」の急坂で、「上り2分10秒、下り1分10秒で4往復やる」のが今の練習パターンだという。

独自のアプローチをする四方に、高校時代のように再び日本一を目指す気力と体力が充満してきた。5月に数レースを予定し、ピークを合わせるのは6月の日本選手権。練習は坂道で1日20分、スタバでバイトする大学院生がミラクルを見せてくれるかもしれない。

文/中尾義理

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