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2022-05-02

自分主役“煽りV”も武器に…映像班兼レスラー・今成夢人の大勝負【週刊プロレス】

今成は自分自身の煽りVを製作して5・3後楽園のタイトル挑戦に臨む

“煽りV”を作る人と言えばわかりやすいかもしれないが、映像班と選手を兼任するガンバレ☆プロレスの今成夢人が、5・3後楽園(午後6時30分開始)で高岩竜一の保持するスピリット・オブ・ガンバレ世界無差別級選手権に挑戦する。
 高岩は超竜の異名を持つ元新日本、ZERO1のフリーレスラーでガンプロにもレギュラー参戦。昨年11月にトーナメントを制し、新設された団体初のシングルチャンピオンに輝いた。そのさい高岩が放った言葉が「俺はIWGPジュニア、NOAHのGHCジュニアを持っていた。これも、そのレベルまで上げてみせますよ」だった。
 高岩は防衛を重ね、今年の3・26新木場で冨永真一郎を相手にV3。試合後、挑戦表明したのが初代王者決定トーナメント決勝でも激突した今成で、タイトルマッチは5・3後楽園に決まったのだった。今成は映像班としてキッパリこう予告。
「煽りVTR、アンタは描かない。全部俺が頑張っている映像を乗せて、アンタのことは一切描かない。お客さんが全員“今成に頑張ってほしい”という映像を作ってアンタに挑戦してやるよ」
 普段はさまざまなタイトルマッチに向け映像を作っている今成だが、5・3後楽園に関しては、自分自身が闘う王座戦の煽りVを、自らで作ることになった。自身が主役の煽りVを作る思いは、挑戦表明してからも変わらなかった。
「僕も10年やっていて映像の力を感じていて、自分の作った煽りVTRで試合の見方をある意味印象づけるというか、ある意味、情報操作的でもある。そういう意味で、高岩vs岩崎(孝樹)戦の時の煽りVで、高岩さんがたくさんハイボールを飲んでいて“昭和のプロレスラーみたいな人がまだいるんだ”と。それをスクリーンで映したことで、ガンバレ☆プロレスのお客さんがその印象に対して“いいぞ高岩”みたいなムードになったんですね。だとするなら、今度は俺のターンだという気持ちで作らせてもらおうかなという気持ちです」
 じつは、これまで自身がトレーニングする様子などを撮り溜めしていたという今成。ただし、仮に映像の力でファンの心を自身に向けさせたとしても、高岩は簡単に勝てる相手ではない。じっさい、4・9新木場の6人タッグマッチでは王者にボコボコにされ、デスバレーボムで直接敗北。高岩から「アイツは足りない部分が多い。技術面とか精神面じゃなく、雰囲気がない」と言われてしまった。
 今成はブ厚い肉体を持つ選手に成長してきたが「高岩さんと対峙した時、あの人は自分のいまの理想とするお手本のような人だと感じた。ただ、前哨戦では本当にあらためて強いんだな、容赦ないんだなというのを嫌というほど痛感させられました」と述懐する。完全に相手に優位に立たれた状況。ならば、どうするか。今成はシンプルな結論に至っている。
「現実を突きつけられたけど、逆にあとは気合しかねえなと。いつもVTRをたくさん作って、(仕事を)振られて、試合もあって、徹夜して、大変だったじゃん、今回もそうなんだよ…という意味では、吹っ切るしかない」
 ZERO1 4・10両国で、“ザ・スコアー”を前奏に入場した高岩を見て、今成は「“ライオンマークの人”なんだな」と再認識したという。
「重厚感、歴史がある。そのあとに永田(裕志)さんとかが続いて、やっぱりライオンマークの人なんだなと痛感させられた。雰囲気がない…なるほどなと。でも、雰囲気がないと言われても、僕は僕を信じるだけだから。あなたはそう思っているかもしれないけど、僕は9年ガンプロでやってきた矜持がある。雰囲気があるないとか、元新日本の人にそう言われるのはある意味、それはそうだろうし、それが闘い。それに向かっていく、僕はそういう運命ですから、そういう対決ですから。その発言に対しては、(5・3の)勝ち負けで上下つけてほしい」
 高岩は常々、ガンプロの初代王者として、同王座を「メジャーのベルトにしたい」と言い続けてきた。たどってきた経歴を思えば、その発言は重い。その言葉と、今成という映像班との兼任レスラーが向き合うことになるとは、誰が考えていたか。しかし、今成は今成で大谷晋二郎とNWAインターコンチネンタルタッグを巻いたり、ZERO1後楽園のメインイベントも張るなど、他団体でも実績を作り上げてきた。正直、“素人”と思われていたデビュー時に、現在の姿はとても考えられなかった。
「インディーズの世界に生きていた自分が、メジャーというものを意識せざるを得ない状況は今回が初めてですけど、それにビビッてたらそれまで。僕は僕の自分の人生、培ってきたことで対峙してやろうって本当に思ってるんですよ。人生いろんな挫折がありました。就職してダメだったとか、挫折とか、そういうものを背負っていく。プロレスのなかのメジャー、インディー、いろいろあるけど、そういうものに対して僕は自分の人生で闘う。プロレスのメジャーで生きて来た人たちからすると、僕のような人生を過ごした人はいないと思う。映像やりながらやっているとか、いないじゃないですか。いないから立ち向かえるし、いないから自分の物語で闘おうとする。いままでそういう人がいないから、自分のVTRを作って挑戦してやろうと思う。前例がないからやるし、前例がないことをやっている自負、自覚、矜持をもって闘いたいなと思っています」
 今成は“メジャー”をキーワードにする高岩に、人生を懸けて臨もうとしている。その強い決意は、次の言葉からもうかがえる。
「メジャータイトルにフックアップする部分で、自分が役不足なんて思わない。自分の物語にも強度があるということを、そこは誰に何と言われようと、雰囲気がないと言われようと、俺は俺の物語に自信を持って生きているから。オマエら誰も、俺と同じような生き方してないだろって。今成夢人で生きるのはきついよって。簡単じゃない、楽じゃないよと思います」
 映像班とレスラーの二足のワラジは、いつしか生活にいいリズムをもたらし、気づけば今成は現在の肉体を手にしていた。大家健が立ち上げたガンプロはさまざまな選手が集う場になったが、今成はもう一度“くすぶっている人たちの物語”で魅せたいと考えてもいる。その意味で、今成いわく“ライオンマークの人”たる高岩に挑戦する5・3後楽園は、7・10大田区でのビッグマッチを控える団体にとっても勝敗が大きな意味を持つ。今成が王者からの宿題をクリアする内容を残し、勝てるのか否か。多くの人は、まだ今成が高岩に勝利する絵を描けていない。だが、そこと向き合いながら、今成は人生を相手にぶつけるつもりなのだ。
「いろんな人に、人生でいろんな場面で、下だって見られてきた。いろんな上下つけられてきて、基本的にいつも下側にいたなと思うけど、この日は俺、上に立つよって。逆転できるよ、下から上にいけるよって。同じような体験している人にも、そうじゃない人にも、ずっと下にいた人が上に立つ瞬間を見せたい。すごく、そういう気持ちがあります。
 下にいることに慣れてしまった自分がいたかもしれない。下にいるほうが楽かもしれなかったし。誰かに命令されて、それ作っていればよかったかもしれないけど、いまの自分には自我があるから。俺は俺の表現をしたくて、俺のプロレスをやりたくて、俺はいま王者になりたいんだって。ずっと思い続けたものを5月3日、爆発させたいですね。下でいることに慣れていた自分にも、お別れをしないといけないと思ってます」
 5・3後楽園。今成はどのような映像を作り、どのような闘いをリングに描くのだろうか。

<週刊プロレス・奈良知之>

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