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2022-07-14

【ボクシング】比嘉大吾は痛烈ダウンから逆転勝利。森武蔵は丁寧に復帰。“大器”堤駿斗は強豪相手にデビュー戦判定勝利

比嘉の闘争本能は終盤に爆発した

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 13日、東京・大田区総合体育館で行われた井岡一翔(志成)対ドニー・ニエテス(フィリピン)戦前座も日本vs.フィリピンの大熱戦が繰り広げられた。

文_宮崎正博(比嘉対サルダール)、本間 暁(森対カルコシア、伊藤対サオワラック)、杉園昌之(堤対ジェミノ)

写真_菊田義久

 元WBC世界フライ級チャンピオンの比嘉大吾(26歳=志成)は、WBOアジアパシフィックの元2階級制覇王者フローイラン・サルダール(33歳=フィリピン)とバンタム級8回戦を行い、痛烈なダウンを奪われる苦闘ながらも2-1の判定勝利を手に入れた。比嘉は昨年4月、西田凌佑(六島)に敗れて、WBOアジアパシフィック・バンタム級王座を明け渡して以来のカムバック戦を、辛くも白星で飾った。
『ゴジラ』のテーマで入場してきた比嘉はワイルドなパンチを振り回す。だから悪いというわけではない。これもこの沖縄出身のボクサーの魅力である。スピードも十分、見るからに破壊力もある。絶好調だったころは、粗くても四方八方から猛打の雨を降らし、KOのヤマを築き上げたもの。だが、この日対峙した長身のフィリピン人はこれをうまくかわしていく。柔らかな上体を活かしたディフェンスに、比嘉はなかなかクリーンヒットを生めない。2回に左アッパーのボディブローを決めた以外は、サルダールの巧みな右ストレート、左フックを浴びて厳しい序盤戦となった。

右ショートフックをガードの中に通され、アゴを痛烈に打ち抜かれた比嘉は、大の字になった
右ショートフックをガードの中に通され、アゴを痛烈に打ち抜かれた比嘉は、大の字になった

 そして4回、驚くべきシーンがやってくる。サルダールの右がまともにヒットすると、比嘉の体はやかんがひっくり返るように派手にフロアに転がった。ダメージは深い。この後の比嘉は5回終盤まで、ほとんど手を出さない。サルダールのフォローアップの手法が手薄だったのに助けられた。
 6回になるとサルダールの動きはめっきり悪くなり、比嘉はしつこく追い回していく。7回には左フックからロープ際に追い詰める。8回も力づくで押し切った。ただし、決定打は最後まで打ち込めなかった。

恥ずかしそうに下を向く勝者・比嘉
恥ずかしそうに下を向く勝者・比嘉

 判定はジャッジ1者が77対74でサルダールとしたものの、残る2者から76対74、76対75で支持を取りつけ、比嘉は何とか命拾いした。
「むちゃくちゃ効きました。今もふらふらしています。負けたかと思いましたが、運がよかった……。打ち合いになっても(パンチを)もらわない、みんなに安心させるボクサーになります」
 リング上でそう語った比嘉は21戦18勝(17KO)2敗1分。サルダールは39戦32勝(22KO)5敗1分。

強いリードブローで機先を制す森
強いリードブローで機先を制す森

 元WBOアジアパシフィック・フェザー級王者で現日本同級2位の森武蔵(22歳=志成)はスーパーフェザー級8回戦でWBO・AP同級14位のプレスコ・カルコシア(26歳)と対戦し、最終回にダウンを奪っての3-0(77対74、78対73、80対71)で勝利。昨年5月、東洋太平洋王者・清水聡(大橋)との統一戦に初黒星を喫して以来の復帰を果たした。
 10勝9KO(1敗1分)という戦績どおりの強打の持ち主カルコシアは、柔軟性があって反応も優れていた。サウスポーの森が右ジャブをボディに送ったり、左ストレートから右フックを返したりすると、必ず右を合わせてくる。強打もさることながら、タイミングの良さが、会場のスリル感を誘う。
 タフネスも大きな利点である森だが、清水戦での反省をふまえて防御意識を強く持ち、上体をずらしながらガードしたり、バックステップを必ず入れたりして、カルコシアの強打を防いでいった。
 決して打ち急がず。冷静に戦う。「そこはしっかりできたと思う」と本人も納得していたが、慎重すぎたきらいがあったことを否定しなかった。
 4回にバッティングで右目上をカットしたカルコシアだが、それで萎えることはなかった。カウンターだけでなく、時折思い切りのいい左右のスイングを放ち、森を守勢に回らせる場面も。
 しかし折り返しの5回あたりから森は徐々にボディ攻撃を増していく。6回にタイミングを変えて放つ左ボディアッパーを突き刺すと、カルコシアの動きが落ち、後退するシーンが目立ち始めた。
 最終回、距離を詰めて攻撃を仕掛けた森が、スッと下がってカルコシアを誘う。その“エサ”に食いついたフィリピン人が右を打ちながら入ってこようとした瞬間、左ボディアッパーのカウンター。カルコシアは森にしがみつきながらキャンバスにヒザを着いた。
「もっと早い回でああいう場面を作りたかった」と森は顔を歪めて悔しがったが、最後の最後に山を作れたことは誇ってよい。
「まともにもらったのは2発くらい」と、腫れひとつないきれいな顔で語った森。終始、体バランスよく戦えたこと、心のバランスも整えられたことは大きな収穫だ。
「フェザー級だと(減量で)病んでしまいそうになるから」と、今後はスーパーフェザー級で戦っていきたいという意思を表した。14戦13勝(7KO)1敗。

堤はジェミノの顔面を右ストレートで捉えた
堤はジェミノの顔面を右ストレートで捉えた

 日本人初の世界ユース選手権優勝を含むアマチュア13冠を果たした堤駿斗(23歳=志成)はフェザー級8回戦に臨み、東洋太平洋フェザー級5位のジョン・ジェミノ(30歳=フィリピン)に大差の判定勝ち(80対72、80対72、79対73)を収め、プロデビュー戦を白星で飾った。
 世界バンタム級3団体統一王者の井上尚弥(大橋)、前WBA世界ミドル級スーパー王者の村田諒太(帝拳)らのときと同じ、異例のA級(8回戦)デビュー。大きな注目を浴びるなか、フィリピンの曲者にしっかり完勝したものの、堤に笑顔はなかった。フルラウンドを戦い終えて、リング上でマイクの前に立つと、険しい表情を浮かべた。

「不甲斐ない内容でした。インパクトのある勝ち方をしたかったので悔しいです」

 本人が狙っていたのは、派手なKO決着。前半に左ボディを効かせ、随所で右クロスも合わせたものの、相手に深刻なダメージを与えることはできなかった。攻撃が単調になったことを悔い、口をついて出るのは反省の弁ばかり。

 想定外だったのは、2度も不測の事態に見舞われたこと。2回にフックを打ったときに左拳を痛め、5回にはカウンターを当てたときに右拳を負傷。試合後の会見場では両拳をアイシングしながら、アマとプロの違いを口にした。
「8オンス(アマは10オンス)のグローブは薄い。いままでにない拳の痛みを感じました」

 ただ、習志野高校、東洋大学と名門で磨いてきた技術とスピードは随所に垣間見えた。初回から鋭い左ジャブをガードの隙間に通し、要所では右ストレートを叩き込んで、観客を沸かせた。続くラウンドでは左ボディを効かせ、アッパーにつなげるコンビネーションも披露した。3回以降、“前の手”に異変が起きて、めっきり減ってしまったものの、臨機応変に対応したのはさすが。豊富なアマチュア経験を生かし、距離をコントロールしながら巧みにポイントを手繰り寄せた。6回以降は思い切り強打できない状況だったが、相手に弱みをつけ込まれずに試合を終えたのは収穫の一つ。本人もその点だけは前向きにとらえていた。
「アクシデントがあるなかで、戦い通せたことは経験になった」

 相手はプロ38戦目を迎えたベテランの30歳。23勝(13KO)13敗1分の戦績を持ち、2018年2月には後楽園ホールで中澤奨(引退)に2回KO勝ちしている。危険なパンチがあり、決して簡単なマッチメークではなかった。

 堤は難しい初戦をクリアしたことで、次戦はさらにレベルを上げていくことを誓った。
「年内にもう1試合やりたいです。次は長いラウンドのなかで倒せるようにします」

 世界的に層の厚いフェザー級戦線を理解した上であえて言う。目標は10戦以内での世界挑戦。1試合も無駄にすることなく、駆け上がっていくつもりだ。

終始攻め続けた伊藤
終始攻め続けた伊藤

 元アマチュア全日本ライトフライ級優勝、日章学園→拓殖大学→自衛隊体育学校出身の伊藤沙月(31歳=志成)は、約6年ぶりの試合がプロデビュー戦。バンタム級6回戦でサオワラック・ナリーペンシー(28歳=タイ)を59対55、60対54、60対54の3-0で破り、初勝利した。
 ブランクの影響か、体全体の動きが乏しい伊藤は、ひと回り体の小さいサオワラックに対し、右を打てば右をリターンされ、左には左フックを重ねられる。しかし、終始アグレッシブさで勝って大差勝利にこぎつけた。

サオワラックのチーフ・セコンドは、元WBCバンタム級&スーパーフェザー級王者シリモンコンさんが務めた
サオワラックのチーフ・セコンドは、辰吉丈一郎、長嶋健吾と拳を交えた元WBCバンタム級&スーパーフェザー級王者シリモンコンさんが務めた

 6ラウンドフルに戦えたことで、体のリズムもよみがえってくるはず。トレーニングでその感覚を忘れないよう、育みたい。サオワラックの戦績は30戦11勝(5KO)19敗。

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