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2022-08-10

【ボクシング】中川健太が“大人のボクシング”で梶颯を完全コントロールしV1

この日の王者・中川(右)は、右の使い方の巧さが光っていた

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 9日、東京・後楽園ホールで開催された日本スーパーフライ級タイトルマッチ10回戦は、チャンピオンの中川健太(37歳=三迫)が序盤からペースを握り、同級1位の梶颯(24歳=帝拳)をまったく寄せつけず、3-0(96対94、97対93、97対93)の判定勝ちで初防衛に成功した。

文_杉園昌之(中川対梶)、本間 暁(鈴木対一村)
写真_山口裕朗

 3度目の日本王座に返り咲いた、ベテランらしい老獪なボクシングを披露した。中川は初回こそ梶の鋭い左ジャブに面食らう場面があったものの、2回以降は主導権を握り、完璧に試合をコントロールする。

“サンダーレフト”の異名を持つ中川の左ストレート。だが、“強く”ではなく“ヒットさせる”を多分に意識した使い方をした
“サンダーレフト”の異名を持つ中川の左ストレート。だが、“強く”ではなく“ヒットさせる”を多分に意識した使い方をした

 積極的にプレスをかけてくる挑戦者を翻弄。打ち終わりに単発のパンチを当てたかと思えば、強引に相手が突っ込んでくると、くるりと回って体を入れ替えた。技巧派のサウスポーはサイドを取るステップワークも巧み。外から右フックを浴びせ、確実にポイントを積み上げた。5回終了時の途中採点でも2者が4ポイント差、1者が5ポイント差と大きくリードした。

 試合の中盤以降は、勝ちに徹した安全運転。王者には心の余裕があった。相手が接近戦に持ち込みたくて、無理に出てこようとする動きが手に取るように読めたという。
「思いのほか相手の攻めが単調でした。焦っているのが分かりましたので」。梶がガードを固めて距離を詰めようとしてきた時点で、勝利を確信した。ブロックの上を叩きながら相手をいなし、一定の距離をしっかりキープ。相手が力めば力むほど、王者の思うツボだった。
最後まで懐には入れず、安心して終了のゴングを聞いた。リラックスした表情で採点の結果を聞き、レフェリーに手を上げられると、ふと口元を緩めた。試合後はきれいな顔で報道陣の前に姿を見せ、落ち着いた表情で充実の10ラウンドを振り返った。
「効いたパンチは一発もなかったです」

まだまだこの先を見つめる37歳。その志の高さを評価したい
まだまだこの先を見つめる37歳。その志の高さを評価したい

 ただ、試合内容にすべて満足しているわけではない。世界を視野に入れる男は、貪欲である。さらに上を目指すことを前提に自らの課題を口にした。
「自分から仕掛けるようにならないといけない」

 まだまだ発展途上。「いま練習が楽しくてしかたない」という37歳に「限界」の二文字は、存在しないようだ。
「もっと強くなっていくので期待してほしいです」
 世界を見渡せば、層の厚いスーパーフライ級。名だたる強豪たちにどこまで食らいついていけるのか。ここからの伸びに注目したい。
 日本王座の初防衛に成功した中川の戦績は27戦22勝(12KO)4敗1分。指名挑戦者として臨んだ梶の戦績は17戦15勝(9KO)2敗。


初回ダウンの鈴木なな子は、一村更紗との接戦制す

鈴木の右ストレート。まだまだ精度を上げていきたい

鈴木の右ストレート。まだまだ精度を上げていきたい

 セミファイナルで行われた日本女子ミニマム級タイトルマッチ6回戦は、チャンピオンの鈴木なな子(23歳=三迫)が、挑戦者3位・一村更紗(26歳=ミツキ)に96対94、97対93、97対93の3-0判定勝利。昨年12月の王座決定戦で獲得したベルトの初防衛に成功した。

 速いショートコンビネーションを打つ一村に対し、右から左、あるいはいきなりの右を打ち込んでいった鈴木。互角の展開でスタートしたかに思えたものの、初回終了間際に一村が放った右ロングが空気を切り裂いた。これを顔面にヒットされた鈴木がキャンバスにヒザを着いてしまったのだ。
「あのダウンで焦ってしまった」という鈴木は2回、強打を当てようと力んで体のバランスを失った。だが、おそらく予想以上のスタートを切れた一村も、このリードがマイナスに作用してしまったのかもしれない。こちらも強いパンチを当てようと意識しすぎ、心のバランスを欠いたように見えた。結果として一村は、ここでもっと明白に鈴木の焦りを引き出したかった。

「前回もはっきりと勝ち切れなかった」と反省の弁ばかりの鈴木。だが勝ったことだけには「ホッとしている」
「前回もはっきりと勝ち切れなかった」と反省の弁ばかりの鈴木。だが結果だけには「ホッとしている」

 3回に入ると、鈴木は前後のステップを刻み始めてリズムを取り戻す。さらに4回にはステップに加え、ジャブも併用。右を見せておいて、左ボディブローを打ち込んでいく。だが一村も、落ち着きを取り戻して、正面からストレートを打ち込んでいった。
 セコンドからしきりに「重心を落とせ」と指示された鈴木は、足のバランスは良かったものの、横への動きが乏しく、体の中心を晒す形となり、そこへの反応が一段落ちる。ブロックやパーリングなどの対応策、防御技術の必要性を感じた。
 一村は、軽打をヒットさせることでは鈴木を上回ってすら見えた。しかし、さらに明白に確実にポイントを取り切る“何か”が求められる。これで16戦4勝11敗1分。決してこんな戦績の選手ではない。
 繰り返しになるが、鈴木はバランスの良さを“横振り”の動きにも生かしたい。それが可能になれば、防御はおろか、攻撃のバリエーションもさらに増えるはずだ。9戦7勝(1KO)2敗。
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