東京女子7・31大手町で起こった波乱――。現在開催中の「第9回東京プリンセスカップ」の準々決勝にて、現プリンセス・オブ・プリンセス王者で優勝候補の一角でもある中島翔子を下してベスト4に残ったのは、アップアップガールズ(プロレス)の渡辺未詩だった。 未詩は2018年1月デビューし、翌年の11月には辰巳リカとの「白昼夢」でプリンセスタッグ戴冠。今年頭に開催されたタッグトーナメントでは優勝を果たしているものの、シングルでの実績はあまりないのが現状だ。同シングルトーナメントでは昨年は準決勝で敗れており、今年こそ…の思いも強い。そんな未詩に8・13&14後楽園での準決勝&決勝に向け、あらためて話を聞いてみた。
――まず、トーナメント中に口にした「私たちの世代が先輩たちを超えていける夏にしないと」という言葉についてなのですが、あれはずっと思っていたことなのですが?
未詩 そうですね。いつごろからかは記憶にないんですけど、ネクストジェネレーションみたいなかんじでファンの方が呼んでくださっていて、同時に自分たちの世代と先輩たちとの壁の幅が広いなっていうのも感じていたんです。でも、それを簡単に口にすることはいままでできず…タイミングもなかなかなくて。もうそろそろ東京女子も10年目を迎えるし、先輩たちが目標だった(両国)国技館も達成して。サイバーファイトフェスとかも見て、やっぱりあの3人(中島、山下実優、坂崎ユカ)を超えていける選手にならないといけないなってあらためて感じた…っていうのが大きいですかね。
――トーナメント前の会見ではなく、1回戦終了後だったのはなぜですか?
未詩 実はあんまり…優勝っていうのがハッキリと見えたことがなくて。去年もベスト4になってるんですけど、ものすごく優勝が遠くに見えてて。優勝したいっていうのも実はハッキリ言ったことが今年までなかったので、1回戦を超えるまでは自分の中で言いづらかった部分はあります。でも1回戦で「98年度組」と呼ばれる(遠藤)有栖と闘って、私たちの世代がもっと頑張っていきたいなってすごく感じたので。
――それだけ後輩からも感じるものがあったと。
未詩 ですね。有栖とか(宮本)もかとかは個人的に思い入れがある…というか。普段から道場で頑張っている選手で、いまは新しい練習生も増えずにずっと下積みみたいな期間が長い2人だと思うので。めちゃめちゃ頑張ってるけど、今回のトーナメントでも2人は1回戦で負けてしまっていて。そういう部分で、一緒に立ち上がっていくべき選手だったはずなのに…っていう個人的な悔しさと、後輩たちの熱意に感化されました。
――準々決勝では現王者であり、去年はベスト4で直接負けている中島選手に勝利しました。
未詩 人類の中で一番尊敬しているといっても過言ではないくらい(笑)、中島さんは一番尊敬している人です。なのでどうしても超えたかった1人でした。
――超えられる自信はあったのですか?
未詩 自信とかよりも、ここでやらないとダメだって思いがけっこう強くて。あの試合は気持ちでした。無理矢理です。その試合に勝てたことで、初めて優勝への道が見えた気がしました。ファンの方も後押ししてくれていて…優勝しなきゃって思ってた使命感と、気持ちがやっと合致した瞬間でしたね。
――昨年のリベンジを果たし、念願の先輩超えも果たし…そして、次の準決勝がまたしても先輩で大きな壁の山下選手になりました。
未詩 そうなんですよ。山下さんは(アプガの)オーディションの時からお世話になっていて、一番最初に会った選手なんですよ。たぶん一番最初に練習でロックアップした選手なんじゃないかな。そこから私たちがプロレスとなかなか向き合えなかった時期、好きじゃなかった時期も温かい目で見守っていてくれた方ですね。
――過去にはシングルでも何度か闘っています。
未詩 デビュー後にあったアップアップ東京女子(2018年6月)でシングルをしたのが、自分の人生の転機になった日だと思っていて。多分あの試合がなかったら、もしかしたらいまプロレスしてなかったなっていう風に思ってるくらいで。概念としての「高い壁」じゃなくて、ホントに物理的に壁だったんですよ、分厚い。こんなに人間が壁に見えることがあるんだってくらい、こんなに「あ、自分この試合で死ぬんだ」って思うことあるんだってくらい強すぎる相手で。でも、それと同時に初めて私はプロレスを続けてこの人を超えられるようになりたいって思って。そこで東京女子が好きだっていう風に思い始めました。この日までは、割とプロレスのこと好きじゃなかったんですけど…(苦笑)。
――いまの未詩選手を形成している意味ある試合だったのですね。
未詩 なので、ユカさんも含めてこの3人は尊敬してもし切れないくらいの存在だし、憧れだし。自分たちはいっぱい先輩がいる中でやってるから、追える存在がいるのってものすごいありがたいことなんですよ。そういう先輩の姿を見て大きくなっていけるから。でもこの3人は先輩がいないなか、自分たちで…当時、たぶん何も見えなかったと思うんですよ。私たちはその経験はしてないんですけど、アプガプロレスっていう…言っちゃえば意味の分からない企画から始まって、最初は何も見えなかったんです。それも私たちは一瞬だったんですけど、あの3人はずっと感じてると思うし、難しい部分もたくさんあるだろうし。この3人じゃなかったら東京女子は成り立ってないんだろうなって思います。
――だからこそ、新世代の台頭を望む声が多いのでしょうか。3人の肩の荷を少しでも他の誰かが負担できるように…というか。
未詩 なんですかね。私は大好きな3人を一生見ていたいんですけど、尊敬しているからこそ誰かがこの壁を壊さないといけないなって思ってます。
――旗揚げ組でいえば、辰巳リカ選手も含まれてくるとは思います。旗揚げ戦ではデビューしてないですが。
未詩 ちょっと後にデビューして、その後ケガとかいろいろあったんですよね。この3人と、リカさんとミサヲさん。私の中でちょっと違うすごさというか。3人の柱があって、そこにどんどん肉をつけていってるのがリカさんの可愛さと狂いっ気と、ミサヲさんのファイトスタイルだなって思ってます。
――そんな山下選手、坂崎選手に加えて同世代の鈴芽選手がベスト4に残っています。
未詩 年齢も近いですし、デビュー時期もコロナ前っていうのもあっていまの新人と呼ばれる人の中ではだいぶ近いなっていう風に感じていて。時期は1年半くらい違うんですけど。この前言った「私たちの世代」として一番に思い浮かぶ中に鈴芽はいたので、そういう意味では鈴芽とはここで一緒に頑張っていこうねって気持ちは結構前から心の中で思ってたし。これから先もずっと思い続けていくと思うので。正直、リカさんに勝った時はホントに驚いて、そこについては複雑な気持ちもあったんですけど…でも、あらためて試合が終わってから考えると、鈴芽に倒してほしかった1人かもしれないって思ってきて。決勝で当たりたいですね。
――決勝に坂崎選手がくれば憧れで倒すべき3人全員と順番に対戦。鈴芽選手がくれば新世代対決となって、両方に意味がありますね。
未詩 同世代で新しい景色を見せるのか、私が先輩3人と当たって壁を全部ぶち壊していくか。どっちみちやばいですね(笑)。
――団体がおこなったSNSのアンケートにて、予想される決勝戦のカードで「坂崎vs未詩」が一番票を集めたそうです。
未詩 嬉しいんですけど、みんな私がどうやったら山下さんに勝てると思ってるんだろうってかんじです(笑)。でも、ここでやらないとここから先どうなってしまうんだろうってくらいファンの方も期待してくれているので。けっこう自分を追い込んでる部分もあるかもしれないです。
――優勝すればシングル王座に挑戦という流れになると思いますが、そこについては?
未詩 準々決勝で勝ってるとはいえ、タイトルマッチはまた違うと思うので。でも私は中島さんがベルトを取った瞬間から、持ってる間に挑戦したいっていう気持ちを持っていたので。道場で一番会うし、一番一緒に練習してるし、なんなら一番喋ってる人でもあるので。マット運動で一番最初が中島さんで私っていうのも多くて、普段から物理的に追ってる背中でもあるので超えたいですね。
――今年2月に白昼夢でタッグトーナメントを制覇しているので、こちらも優勝となれば史上初の同年でシングル&タッグ両トーナメント優勝の偉業になります。
未詩 そっか! すご! その史上初も目指して、後楽園2連戦勝って優勝します!