18日、東京・後楽園ホールでのWBOアジアパシフィック・スーパーウェルター級戦は、王者の井上岳志(ワールドスポーツ)が2度のダウン奪ってTKO勝ち。超接近戦ファイターから改造中の成果も大いに見せつけた。
上写真=距離を取って鋭いパンチを狙う。井上(左)の新戦法がとことん機能した
それにしても鮮やかな右ストレートだった。これまでダウンの経験がないという挑戦者チェン・スー(中国=蘇程)を一撃のもとにきれいに弾き飛ばした。初回のダウンで目に異常が生じ、二重に見えるようになったというチェンは、このとき同時に鼻を痛めたという。2回終了後にセコンドの説得を受けて、悔しがりながらも棄権を受け入れた。井上は昨年夏、決定戦に勝って取り戻したタイトルの初防衛をあっさりと成し遂げた。
「ムンギアに負けて、このままじゃ世界に通用しないと決意しての改造中です。そういう意味ではよかったと思います」
井上と言えば、「近づいてガチャガチャと攻めていくだけ」という本人の言葉を待たずとも、突貫型の猛ファイターとして知られる。ただし、2019年1月、アメリカ・テキサス州で当時のWBO世界スーパーウェルター級チャンピオン、ハイメ・ムンギア(メキシコ)に挑んだ一戦では、この『ガチャガチャ戦法』で追いまくったが、現地のジャッジにはまったく評価されず、2者に108対120のフルマークをつけられる完敗となった。
だからこそ、根本からやり直したいと思った。ボクシングを始めてからずっと通してきたガチャガチャ戦法を一度捨て、距離を取って戦う術を学び直した。ボクシングを始めてから、アマチュア時代を通じて、自分がやってきたそんな流儀をひとまず戸棚にしまった。結果はこのとおり、見るも鮮やかな勝利である。
「今日もしっかりと倒すことができたし、スパーリングでもいい感触を得ています」
30歳での一念発起でも、本人は遅すぎはしないと確信している。
「まだまだいけるはずです。(ニュースタイルの完成度は)まだ45%くらい。これからもっと高めていきます」
もちろん、本来の『超接近戦』へのこだわりはある。
「新しい取り組みがもっと高められたら、ここまでやってきたやり方をミックスします」
見る限り、体は壮健そのもの。「もし、完成するまでにピークを越えてしまったら、それまでのこと」と覚悟は決めている。今どきのボクサーは三十路の坂道こそ、第二の伸び盛り。井上岳志の野心はきっと好ましい結果をもたらすと信じたい。
文=宮崎正博 写真=小河原友信
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