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2022-09-30

【連載 大相撲が大好きになる 話の玉手箱】第2回「自分に負けるな」その3

酒豪で鳴らした若浪。細身ながら怪力を生かした吊りが得意技だった

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会社や、学校などで、新しいスタートを切ったみなさん、おめでとうございます。
平成31(2019)年春場所、大相撲界にも希望に燃えた弟子たちが40人も入ってきました。
彼が目指すのは、もちろん、番付の一番てっぺん、横綱です。
そこにたどり着くには、筆舌に尽くしがたい試練を乗り越えなければいけませんが、最大の壁は何か。
こっそり教えましょう。それは最も身近にいる自分です。自分に負けてはいけないんです。
兄弟子たちも、甘えたくなる自分の心に真っ向から立ち向かい、打ち克って出世の階段を上っていきました。そんな壮絶な闘いぶりを教えましょう。
※月刊『相撲』平成31年4月号から連載中の「大相撲が大好きになる 話の玉手箱」を一部編集。毎週金曜日に公開します。

初黒星の夜は?

白星を飾った夜の力士たちの過ごし方はおおよそ想像がつく。酒豪で鳴らした元玉垣親方(元小結若浪)はこう言って豪快に笑ったことを思い出す。

「勝った夜の酒のうまさは格別でしたね。それも得意の吊りで勝った夜は。ボクは日本酒一辺倒、それも1晩1升と決まっていましたが、ノドをころころと転がり落ちていきましたよ」
 
逆に負けた夜は悲惨だ。平成28(2016)年初場所は琴奨菊旋風が吹き荒れた場所だった。その13日目。前日まで負け知らずだった琴奨菊は、中学時代からのライバルの豊ノ島にとったりで初黒星を喫し、とうとう常勝の白鵬に追いつかれてしまった。
 
これまでも、一つの負けをきっかけに崩れることが多かっただけに、悔しさもひとしお。琴奨菊は花道から風呂場に直行し、

「ああ、くそ~っ」
 
と大声でわめき、しばらくして落ち着きを取り戻すとこう言ってぼやいた。

「踏み込みが良すぎて、相手との距離が空きすぎてしまった。(反省点は)そこだけ。いい立ち合いをしようと執着し過ぎたのかも。ちょっと気持ちが入り過ぎた」
 
こんなふうに気の重い夜の過ごし方は難しい。ゲン直しに夜の街に繰り出し、もやもやを発散する力士も多いが、琴奨菊は違った。自宅近くの公園に出かけ、誰もいない中でやかん型のケトルベルを使ったウエートトレや、スリ足など、トレーニングに精を出したのだ。
 
どうしてこんなことを? 後日、この負けた夜の過ごし方を聞かれた琴奨菊は、

「悔しくて。少しでも成長したかったから、ついやってしまったんです」
 
と答えている。
 
この前向きの気持ちが実を結び、翌日からまた快勝リズムが復活。ついに追いすがる白鵬を振り切って初の賜盃をものにした。日本出身力士としては実に10年ぶりのことだった。

月刊『相撲』令和元年5月号掲載

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