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2022-09-02

【連載 大相撲が大好きになる 話の玉手箱】第2回「自分に負けるな」その1

平成27年夏場所14日目、白鵬は稀勢の里に痛恨の黒星を喫し優勝を逃した

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会社や、学校などで、新しいスタートを切ったみなさん、おめでとうございます。
平成31(2019)年春場所、大相撲界にも希望に燃えた弟子たちが40人も入ってきました。
彼が目指すのは、もちろん、番付の一番てっぺん、横綱です。
そこにたどり着くには、筆舌に尽くしがたい試練を乗り越えなければいけませんが、最大の壁は何か。
こっそり教えましょう。それは最も身近にいる自分です。自分に負けてはいけないんです。
兄弟子たちも、甘えたくなる自分の心に真っ向から立ち向かい、打ち克って出世の階段を上っていきました。そんな壮絶な闘いぶりを教えましょう。
※月刊『相撲』平成31年4月号から連載中の「大相撲が大好きになる 話の玉手箱」を一部編集。毎週金曜日に公開します

負けた相手と稽古
 
このところ、(平成31年)春場所千秋楽の三本締め騒動や、帰化問題など、土俵以外でも話題を提供している白鵬だが、ズバ抜けた実績を残しているのは人一倍、いや、二倍も、三倍も自分に厳しいからだと言っていい。不本意な現実をあっさり受け入れてしまう甘い、あるいは不甲斐ない自分が許せないのだ。
 
平成27年夏場所は、白鵬が思い切り屈辱を味わった場所だった。終盤、13日目まで優勝争いの先頭を走りながら、14日目、千秋楽とまさかの2連敗を喫してとうとうⅠ差につけていた関脇照ノ富士に追いつかれ、追い抜かれて逆転優勝されてしまったのだ。
 
その口火となったのが14日目の稀勢の里戦だった。白鵬は前日、日馬富士に敗れて優勝の可能性が消えた稀勢の里に左を差し、一気に寄って出た、ところが、土俵際で右から突き落とされるとあっけなく引っ繰り返ったのだ。この取りこぼしですっかり心身のリズムが狂った白鵬は、千秋楽も援護射撃に燃える照ノ富士の兄弟子、日馬富士にいいところなく敗れ、2度目の7連覇を逃した。
 
白鵬でもこんなことがあったのだ。ただ、ほかの力士たちと違うところはこの失敗したあとだ。場所後、おそらくこの敗因をじっくり反省したに違いない。そして、それを突き止め、乗り越えるための行動を起こした。
 
それは次の名古屋場所前のことだった。白鵬は田子ノ浦部屋に1年半ぶりに出稽古に参上。照ノ富士や、逸ノ城らも来ていたが、彼らには目もくれず、稀勢の里を稽古相手に指名。なんと2人だけで15番も取った。あの逆転負けは稀勢の里戦にあった、と分析していたのだ。
 
稽古内容は白鵬の8勝7敗とほぼ五分だったが、稽古終了後、白鵬は、

「どうしてここに来たかって? だって先場所負けた相手の1人だからね」
 
と説明し、

「おかげでいい稽古ができました」
 
とニッコリした。
 
たとえ失敗しても、それを糧にもう一歩、前に進む。この姿勢が大記録を打ち立てた秘密。翌場所の白鵬は、終盤もしっかり締めて悠々と逃げ切り、賜盃を取り戻した。もちろん、稀勢の里戦も快勝だった。

月刊『相撲』令和元年5月号掲載

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