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2022-10-05

アントニオ猪木はイチローMLB挑戦にもひと役買っていた! 新日本プロレス歴史街道50年<特別編2>【週刊プロレス】

1999年のアントニオ猪木

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1999年1月、アントニオ猪木をインタビューすべく、当時居住していたサンタモニカに飛んだ。ちょうど小川直也が橋本真也に仕掛けた“1・4事変”の直後とあって、仕掛人とウワサされていた猪木がどのようにあの騒乱を見たかを直撃する狙い。

さすがに“サンタモニカ在住”手がかりだけでアメリカに夜討ち朝駆けするにはリスクも高く、その際は猪木の弟子である佐山聡氏を通じて約束を取り付けてのものだった。ロサンゼルス国際空港でサイモン・ケリー猪木氏に迎えられ、そのままサンタモニカのUFO USAオフィスに向かった。インタビューを終えると、猪木の口からまさかの言葉が飛び出した。

     ◇       ◇      ◇

それまで大勢のマスコミと囲んでアントニオ猪木を取材したことはあったが、1対1での取材はその時が初めて。印象づけるためなにかないかと考えていたが、なかなか妙案が浮かばない。どこからか「あんパンが好き」という情報を聞きつけ、それを持参しようということになった。

「バカヤロー!」と怒られたなら、それはそれで笑い話になる。ただ、ここで悩んだのが、「つぶあんとこしあん、どっちが好みなんだろう?」。さすがにそこまでは情報が入ってこない。そこで2種類を用意して関空から機上の人となった。

オフィスの応接室に通され、しばらく待つと「いや、どうも。わざわざ日本から来たの?」と猪木が入ってきた。そして持参したあんパンを渡す。2種類用意したことを伝え、「どっちが好きなんですか?」との質問に「つぶあんだね」とニコリ。そして本題に移っていった。

ひと通りインタビューが終わると、猪木の方から「馬場さんはどうなの?」と尋ねてきた。日本を発つ前に報じられていた内容(腸閉塞の手術を受け、術後は良好)を伝えると、「ふ~ん、俺はガンって聞いてるけどね」。

新春シリーズを欠場して入院したジャイアント馬場。詳しい病状は明かされず、一部では退院も近いと伝えられていた。猪木はどこからその情報を仕入れたのか? むしろその情報が本当かどうかを確かめるため、こちらに逆取材してきたのではなかったのか。猪木を取材してから10日ほどして、馬場は亡くなった。死因は大腸ガンの転移による肝不全だった。

そしてインタビューを終えてオフィスを出ようとした際に掛けられた言葉が、「今晩、イチローと食事するんだけど来る?」。

一瞬、「イチローとって?」「どういうつながり?」と疑問が浮かんだが、断る理由もないのでOKした。そして指定されたレストランに出向いたところ、しばらくしてイチローがやって来た。

猪木とイチローの会食となれば、さぞかし高級レストランなんだろうと思われるだろうが、実際は海鮮のファミリーレストラン。2ショットも撮影したのだが、イチロー側から「掲載しないでください」とお願いされたので、残念ながら“お蔵入り”となってしまった。

99年といえば、イチローはまだオリックスに在籍。ただ、メジャー行きを見据えて肉体改造に取り組んでおり、アメリカでトレーナーを付けて自主トレしているとのこと。そのトレーナーが猪木と共通の知り合いだった。猪木が紹介したのかどうかは、その場では確認しなかった。ちなみにのちに中邑真輔もそのトレーナーの指導で肉体改造に取り組んでいる。

会食を終えた猪木は、「打者でメジャーリーグに挑戦するのは(日本人で)初めてなんでしょ。新しい世界を切り開くのは大変だけど、あとに続く選手のためにもぜひ成功してほしい」とエールを送っていた。

イチローがマリナーズ入りしたのが2000年のシーズン後。その意味では少なくとも準備に2年間を費やしている。その後、何人もの日本人選手がメジャーに挑戦しているが、それほどの準備をしているのか。それが成績に表れているともいえる。

今でも猪木の口から出たこの2つの言葉は印象に残っている。残念ながらスクープにはできなかったものの、現場での取材の大切さを教えてもらった。記者個人に宛てられた“遺言”かもしれない。

いい記事は足で書け……。

橋爪哲也

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