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2022-10-11

【連載 泣き笑いどすこい劇場】第11回「引退を決意した瞬間」その4

引退会見の栃東と母親の千夏さん。考えてもみなかった突然の引退はあまりにショックだった

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平成23(2011)年名古屋場所10日目、ついに大関魁皇が引退しました。力士なら、いや、広い意味では人間おしなべて訪れる瞬間です。その胸中や、きっと十人十色。いや、百人百色。魁皇も、前日の9日目の打ち出し後に引退表明してもおかしくないところでしたが、あえて一日順延しました。おそらく23年余りの現役生活の重さを自分の中で計り、納得させる時間が欲しかったのに違いありません。力士にとって、引退は人生の一大イベント。過去の力士たちはどうやって決意し、どんな表情をみせたか。今回は引退にまつわるエピソードです。
※月刊『相撲』平成22年11月号から連載された「泣き笑いどすこい劇場」を一部編集。毎週火曜日に公開します。

病魔には勝てず

突然、それも思いもしなかったかたちで、引退に追い込まれる力士も多い。大関栃東(現玉ノ井親方)が病魔に襲われたのは平成19(2007)年春場所12日目、8度目の大関カド番をクリアした直後のことだった。

数日前から続いていた頭痛がひどくなり、この日の朝、大阪市内の病院で診てもらったら、脳梗塞の痕跡が発見されたのだ。

「これ以上、相撲を取ったら、命の保証はしない」

とドクターストップがかかり、およそ1カ月後の5月7日、栃東は、

「ケガならやれたが、(病気の場所が)頭なんで」

とやむなく引退を表明。都内足立区の玉ノ井部屋で行われた引退会見では、

「これまで一生懸命やってきたので、悔いはありません」

と笑顔を見せたが、母親の千夏さんはこの息子の急な幕切れにこう言って涙を流した。

「私にはまだ(現役に)未練があります。でも、(栃東に)自分、もう少し長く生きたいと言われて、何も言えなくなりました」

月刊『相撲』平成23年9月号掲載

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