23日、横浜アリーナで開催されたトリプル世界戦のトリをつとめたWBA世界ミドル級チャンピオン、村田諒太(帝拳)は、8位の挑戦者スティーブン・バトラー(カナダ)を5回2分45秒TKOで破った。次第にペースをつかんだ村田が右の連打から、最後は左フックをアゴに決めて豪快になぎ倒したもの。村田は7月、ロブ・ブラント(アメリカ)から取り戻したタイトルの初防衛に成功した。
上写真=バトラーを右の強打で追い立てる村田
「ブラントとの再戦で自分のボクシングを確立しました」と村田。その完成形の真相とは、破壊的な右強打を前面に打ち出して、プレッシャーをかけ続けること。とはいえ、今日の村田はブラント戦のような上体を激しく揺らしながら、徹底してクロスレンジをつくような戦法は使わなかった。ビッグライトを見せながら、左ジャブで丹念に試合を作る。「自分の右はある程度の距離があったほうが強いので」と試合後に明かしていたが、村田にしてみればこれも、完成されたボクシングの微調整のうちだったのだろう。
28勝中24KOの戦歴を持つ24歳のチャレンジャーは初回、インサイドから突き上げる左アッパーで村田のリズムを崩し、その後も左フックを連発する。ジャブ、ワンツーとストレート系のパンチが光って見えた、これまでのバトラーとしては、それも奇襲だったかもしれない。だが、目論見どおりだったのは最初の3分間までだった。
2回以降、村田が丹念に左ジャブを突き始めると、バトラーの攻めては明らかに単調になっていく。左フックはおろか、効果的だったジャブさえも出なくなる。チャンピオンのプレスがさらに強まった3回以降は、得意のはずの右さえ、ステップインが伴わず、ただ、突き出しただけのパンチになってくる。これでは、威力は半減するし、村田の体に届きさえしない。
村田は各種の右パンチを取りそろえて、バトラーを激しく追い詰める。肩越しのクロス、打ち下ろしのオーバーハンドで側頭部を、そしてまっすぐに内側から正真正銘のストレートでアゴをえぐる。バトラーは前者のブローで何度もひざを崩し、後者の一撃にびくついた。KOシーンはもはや時間の問題だった。
そして5回、まずは村田のストレートライトですっぽ抜けたように下半身の力を失ったバトラーが組みついてくる。チャンピオンの追撃は厳しい。左フックのボディブローを織り交ぜる。そして右クロス。カナダ人の体がふわりと緩んだ。村田はチャンスを見逃さなかった。さらに4発の右の追撃から、渾身の左フック。バトラーが後頭部からロープ最下段に落下するのを見て、レフェリーは即座にストップをコールした。
「(井上)尚弥の試合を見て、レジェンドと戦うことがどれだけ見る人の関心を集めるのが分かったはず。僕もリアルな試合がしたい」とリング上で村田は訴えた。ミドル級のトップに君臨するのはサウル・“カネロ”・アルバレス(メキシコ)とゲンナディ・ゴロフキン(カザフスタン)。もはや、村田のターゲットはこのふたりしかいない。控室で待ち構えていた契約するトップランク社のボブ・アラム氏が、『リアルファイト』実現を明言する。
「カネロ、ゴロフキンも話を進めたい。来年、東京ドームでムラタと戦わせる。できれば、オリンピックをはさんでその前に1戦、その後にもう1戦だ」
つまり、カネロもゴロフキンとも対戦させる、と。アラム氏は村田を立てて、TOKYOにボクシングのビッグウェーブを作る考えだ。
バトラーが契約するゴールデンボーイ・プロモーションのマッチメーカーで、今回は同プロの代表として来日したロベルト・ディアス氏も後押しする。
「カネロも来日を望んでいる。年明けにも交渉を開始したい」
2012年のロンドン五輪金メダリストでもある村田は、ささやかに五輪に思いをはせている。
「東京で五輪と言っても8年後だから無理と言っていたが、その8年後の今、僕はボクシングをやっています。五輪の盛り上がりを、僕なりに力添えしたい」
村田の力添えとは、世界最高峰のミドル級との対戦にほかならない。
トリプル世界戦の口開けとして行われたWBC世界ライトフライ級タイトルマッチでは、チャンピオンの寺地拳四朗(BMB)が、元WBA暫定王者の挑戦者ランディ・ペタルコリン(フィリピン)を4回1分8秒TKOで破り、7度目の防衛に成功した。
この試合から本名がリングネームとなった寺地は2回、サウスポースタイルから思い切りのいい左ストレートをねらってくるペタルコリンにわずかに手を焼いた。しかし、冷静さは失わなかった。「(ペタルコリンが)ボディが弱いのは分かっていました」と3回には、大胆に照準をボディに変更した。
右ストレートを顔面に突き刺し、そして同じパンチをボディに切り返す。その5発目でフィリピン人はついにダウンする。立ち上がったところに右一発で2度目。さらに左右を腹に集めて3度目と立て続けに倒していく。
このラウンド、ゴングに救われたペタルコリンは4回、起死回生の一発を狙ったが、寺地はうまく距離をとって、すぐに巻き返しにかかる。今度は右にフォローした左フックをレバーに。右ひざをついたペタルコリンは、レフェリーがカウント8を数えた瞬間にもう一方の左ヒザも落下させ、レフェリーはここでストップをかけた。
「最初のダウンで(試合が)終わったかと思いました」と語る寺地は1ヵ月前に対戦者が代わったこともまったく心配していなかったという。「周囲は油断するなと言ってくれましたが、僕はやることをやっていましたから」。7度防衛は名チャンピオンの入り口。寺地は余裕たっぷりだった。一方のペタルコリンは「ボディは警戒していなかった。最初のダウンがすべて」とした後で、「調整期間が短かった」と嘆いていた。
文◎宮崎正博 写真◎菊田義久
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