25日、東京・後楽園ホールでOPBF東洋太平洋フライ級王者ジーメル・マグラモ(28歳=フィリピン)に挑む同級14位の桑原拓(27歳=大橋)が15日、練習を公開。10日後に迫ったタイトルマッチに向け、軽快さと重厚さを織り交ぜたボクシングを披露した。文&写真_本間 暁
昨年7月、満を持して挑んだ初のタイトルマッチで、日本王者ユーリ阿久井政悟(倉敷守安)に初回、最終10回とダウンを奪われてのTKO初黒星。以来1年3ヵ月を経て2度目の王座戦に臨む桑原は、はっきりとボクシングを変えてきた。
「あのときは、前に出てくるユーリをさばこうさばこうとしすぎた。でも、今度は相手の前進と攻撃をしっかりと止めていく」
“スピードスター”の異名を持つ桑原は、ハンドスピードはもちろんのこと、体全体の動きが速い。だが、スピードを追求するあまり、「軽いパンチをとにかく多く出すこと」に執心。その結果、どっしりと必殺の右を狙い打つ阿久井に間隙を突かれたのだった。
重心低く、軽快にリングを動き回る 阿久井戦前から、「緩急、強弱」は常に意識して取り組んでいたが、長年染み込ませてきたボクシングはそう簡単には変えられない。加えて、スピードボクシングで結果を出してきただけに、どこかにそれに頼る意識が働いてしまったのだろう。
「あそこで負けてよかったと思えるように」。衝撃的なKO負けだったが、ボクシングをしっかりと変えるチャンスと捉えたのだ。
サンドバッグの打ち方も明らかに変わった 同僚・武居由樹が育ったパワーオブドリームジムの朝練習に週1、2回の割合で参加。「タイヤを持ち上げたり、ハンマーを振り下ろしたりと原始的なトレーニング」をこなし、見違えるように体が大きくなった。加えて長年続けている志成ジムの野木丈司氏指導の階段トレ。さらには、ジム階上にある高地トレで、はっきりと体が強くなったことを実感している。
「以前は、接近戦で相手と引っついたりするのが嫌いで離れていた」が、ぶつかって当たり負けせず、押し戻したり、いなしてバランスを崩させたりするなど、至近距離での戦いも引き出しとして広がった。「パンチを貰うリスクも上がるので、集中して戦う。今までは足と距離で相手の攻撃をかわしていたが、ウィービング、ダッキングで防御することが増えた」と、相乗効果も表れた。
松本好二トレーナーとのミット打ちで、接近戦の技を披露 ハンドスピードの変化、緩急を大橋秀行会長は「山本昌」と、元中日ドラゴンズの“レジェンド”エースに例える。ストレートの最速は140kmに満たないが、多彩な変化球との球速差は30km超。それにより、130km台の直球を速く見せる術である。当時の他チームの打者が「いちばん球が速く感じるのはマサさん」と口を揃えていたことでもその効果は分かろう。
しかし、何より桑原には150~160km級のハンドスピードがある。そのスピードを抑える不安さえ払拭できれば、誰もが羨む緩急をつけられる。さらに体全体のスピードも抑えることによって、どっしりと構えられ、しっかりと強いパンチを放つことができ、かつ、相手の動きもよく見えるようになる。体の動きとパンチスピードの“ずれ”も生まれ、相手はよりいっそうやりづらくなる。
強烈な右。打ち方も、タイミングの多彩さも新たに獲得した 王者マグラモは2020年11月に中谷潤人(M.T)とWBO王座決定戦を戦った(中谷の8回KO勝ち)選手。「パンチがあって、タフで、圧力の強い選手」と桑原は評すが、「勝つ自信は100%を超えています」と断言した。
「前回(阿久井戦)と同じミスはしない。ダメージを蓄積させて後半ストップ。いや、ひょっとしたら前半もあるかも」(桑原)
阿久井にはいずれも右カウンターで倒されたが、桑原はその阿久井から吸収したような右を手に入れている。さらには、武居ばりのジャンピングフックも。
「あとは当日のコンディション」。順調な調整に表情も明るい 突進する相手をさばく意識から解放され、頭はさらに柔軟となって自由度を増した。そして体現するボクシングに重みが加わった。そんな印象を強く受けるジムワークだった。
マグラモ:28戦26勝(21KO)2敗
桑原:11戦10勝(6KO)1敗