close

2019-11-02

【ボクシング】日本スーパーウェルター級タイトルマッチ “縦横無尽”ならずとも松永宏信がTKOでV1

日本スーパーウェルター級タイトルマッチ、チャンピオンの松永宏信(32歳=横浜光)対3位、越川孝紀(28歳=セレス)の10回戦は2日、東京・後楽園ホールで行われ、松永が4回2分8秒でTKO勝ちを収めた。松永は5月に新藤寛之(宮田)から奪ったタイトルの初防衛に成功した。

写真上=一方的な戦いは4回でストップに。松永がどうしてもしたかった初防衛は成る

自在の攻撃で越川をめった打ちに

 試合前、ある取材で記者から言われたのだという。

「縦横無尽な戦いですね、と。その言葉の意味、実は知らなかったんですが、そこまでのボクシングはできなかったかな。結局、打ち合っちゃったし」(松永)

 石井一太郎・横浜光ジム会長もまぜっかえす。

「ワシル・ロマチェンコ(ウクライナ)みたいに動き回ると言ってたじゃないか」

 WBAスーパー・WBC・WBO世界ライト級チャンピオンのような高速にして自在、鋭敏にして正確無比に着地点を飛び回るほどではなかったのかもしれない。だが、前後のステップから角度のある左右のパンチをとめどなくコンビネーションする松永のボクシングは十分すぎるほどに見事だったし、見ている側を存分に楽しませるエンターテイメント性まで感じられたもの。

 初回、挑戦者がいきなり攻めて出る。“縦横”のフットワークで軽々といなしたサウスポーの松永は、カウンターの右フックを飛ばし、さらに長い左ストレートでボディを叩く。ラウンド半ばまでにチャンピオンが完全にペースを掌握してしまう。あとは一方的な展開だった。

 高校時代には豊かな素質を感じさせた越川が、長い伸び悩みの末にやっとたどり着いた初のタイトル挑戦。闘志がむき出しになったのも当然か。ただ、気負うあまりに正面突破にはやってしまう。そこまで見抜いていたのだろうか、松永の迎撃からのアタックは冴えに冴えた。2回からは突き上げるような左ストレートもフル回転。ラウンド終盤には右フックで越川を棒立ちにさせた。

 3回、ヒッティングで越川は右目上をカット。その後にバッティングで傷は広がり、流血は激しくなる。この傷によって「右目が見えなくなった」という越川はいよいよ単調になっていく。強引に振る左右は、ダッキングですいすいとかわされ、松永のつるべ打ちに遭遇する。防御が機能せず、敗勢まっしぐらの越川を見て、4回、レフェリーのビニー・マーチンはついにストップをかけた。

松永は多彩なパンチで自在な攻めを展開した

カーニバルをクリアしたら
本場挑戦へ

「打ち合うつもりはないのに、いつもこうなっちゃう。でも、初防衛はどうしてもしたかったから、ホッとしたし、うれしいですね」

 うれしいから、ついつい言葉も多くなる。だが、この男も実は苦しみの季節を経験している。2016年に韓国でWBOアジアパシフィック・チャンピオンになりながら、目を痛めて1年以上のブランクを作った。カムバック後、5連続KOと好調を維持しているが、年齢はもう32歳にもなる。それでも、ここが自分のリングにかけた野心の行き先だなんて、これっぽっちも思っていない。次はこの日のセミファイナル8回戦の最強挑戦者決定戦で勝った清水優人(31歳=木更津グリーンベイ)とチャンピオンカーニバルで防衛戦を行うことになるが、その後は海外リングにチャレンジする腹づもりという。

「だって、スーパーウェルター級の日本ランキングには3人しかランキングされていないじゃないですか。なんだ、4人の中での一番かと思われてしまっても仕方ない。僕がファンだったら、きっとそう思います」

 もっと自分自身をアピールしたい、大きくなりたいと松永は考えるのだ。

「このクラスでアジア圏というのはたかがしれています。だから、アメリカというか本場で戦ってみたい。どんなに小さな興行でもいいんです。まずはそこからです」

 石井会長も、松永の意向を全面支援するという。

 松永のボクシングは面白い。“縦横無尽”な戦いが完成したら、きっと大きな夢の確かな第一歩を刻めるはず。しばらく、この男から目を離しちゃいけない。

ベルトを守り、新たな野心も

文◎宮崎正博 
写真◎馬場高志

おすすめ記事

ボクシング・マガジン 2019年11月号

PICK UP注目の記事

PICK UP注目の記事