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2022-11-27

【相撲編集部が選ぶ九州場所千秋楽の一番】本割、優勝決定巴戦と3連勝! 阿炎が逆転で初優勝飾る

優勝決定巴戦、髙安を破って貴景勝戦に臨んだ阿炎は、押し出しで勝ち優勝。史上初の3場所連続平幕優勝となることが決まった

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阿炎(押し出し)貴景勝

何という結末だろう。栄冠を手にしたのは、千秋楽まで可能性を残していた3人のうち、単独トップだった髙安でも、大関の貴景勝でもなく、最も番付が下の阿炎だった。
 
まずは本割での髙安戦。髙安は勝てば優勝だ。しかし立ち合いで先手を取ったのは阿炎。素早く得意のモロ手突き。髙安はいつものように右のカチ上げを繰り出そうとしたが、ほぼ不発に終わった。髙安は阿炎の動きを警戒しながら突いて出るが、阿炎がイナシを交えて突き返すうち、だんだん手数が減ってくる。そこをとらえた阿炎は左へイナした後、一気に左のノド輪で押して右で突き倒した。
 
阿炎ははこれで髙安との優勝決定戦の権利を獲得。もう一人の3敗力士の貴景勝も結びの一番で若隆景を叩き込み、平成6(1994)年3月場所以来28年ぶり、7回目の優勝決定巴戦となった。
 
くじの結果、まず最初は、髙安と阿炎の対戦。「2番は取るので、一番ずつに集中していこう。当たってすぐ、横から攻めよう」と阿炎は作戦を描いた。
 
勝負は一瞬だった。髙安はいつもと作戦を変え、右のカチ上げではなく左から当たりにいったが、横を向くような感じになってしまった。阿炎はとっさに思い切って左へ飛んで叩き込みで勝負を決める。このとき、敗れた髙安は首かどこかを痛めたようで、土俵に倒れたまましばらく起き上がってこられなかった。

“もし巴戦が続いた場合、髙安はまた土俵に上がれるのか???”。異様なムードの中、貴景勝が土俵に上がり、阿炎と相対する。
 
普通は巴戦では、勝った力士は2番連続での取組となるので、スタミナ面で言えば、新しく土俵に上がる力士が有利なものだ。しかしこのときは状況が違った。阿炎は髙安戦、一瞬の勝利で疲れはない。一方、貴景勝は結びで相撲を取っており、決定戦のために慌ただしく入場してきた際も、息が整っていないように見えていた。

「低く、早く、当たることだけを考えていました」。阿炎は、今度は攻めに徹した。立ち合い、頭が下がったところを叩かれ、少し泳いだが、それをこらえるとあとは横へ逃がすことなく、貴景勝の胸元をどんどん突いた。一気に東土俵へ押し出し、優勝決定。史上初の、3場所連続の平幕力士の優勝が成った。
 
阿炎はもともと令和元年から2年にかけては4場所連続小結も務めた若手の実力者。しかしこれまで、土俵外では何度か不祥事もあった。一昨年には「新型コロナウイルス対応ガイドライン」への違反があり、出場停止処分を受けて幕下まで番付を下げた。処分が解けたのちは、好成績を重ね、今年3月場所には新関脇に。そのあと、7月場所後に右ヒジと左足首を手術して平幕に下がり、復活出場したのが今場所だった。
 
今場所は体調不良で休場している師匠の錣山親方(元関脇寺尾)から“一番集中”と、毎日メールをもらっていたという阿炎。優勝インタビューで師匠に話が及ぶと、「ホント、迷惑しかかけてこなかったんで、少しでも喜んでくれたらいいと思います」と、涙をぬぐった。
 
またも平幕優勝で幕を閉じた今場所だが、番付上位に目を移すと、大関カド番だった正代が負け越し、大関からの転落が決定。10勝を挙げての大関復帰を目指した御嶽海も果たせず、来年1月場所は、明治31(1898)年春場所以来、125年ぶりに1横綱1大関の番付となることが確定的だ。
 
こうなるとやはり、来年の見どころは次期大関争いとなってくるか。今場所8勝に終わった若隆景、11勝を挙げた豊昇龍、そして復帰が視野に入ってきた髙安がまず「大関コンテンダー」の第1グループになるが、その後にも、霧馬山や、来場所の新三役が期待される琴ノ若、今場所優勝を飾った阿炎、ブレークを見せた若元春、王鵬らの候補が続く。さらには元大関の朝乃山の巻き返しが近くやってくることも忘れてはいけない。
 
新旧入り乱れての大関争いも含め、果たして相撲界の新勢力図はこれからどうなっていくのか。来たる令和5年も楽しみだ。

文=藤本泰祐

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